「花柱さま、」
おのれの口からまるで囁くような声が零れる。
状況はいっそ悲しいほどに絶望的だった。鬼殺を助けてくれるはずの己が呼吸がむしろ生存率を上げるどころか生を苛む。呼吸を、肺を封じる。とても原始的で、呼吸術を使う鬼殺隊にとって非常に有効な血鬼術。なんて厭らしい鬼だ。これが上弦なのか。
「桃青さん」
こんな時でも穏やかな花柱さまに憤りを感じさえする。違う、わたしがそうさせているのだ。足手まといのわたしがいるから、強者は下の者を庇護しなければならないから、だから。だから、花柱さまは繕ってでも穏やかであらなければいけない。そうだ。
「桃青さん」
なぜ私の名前は花緑桃青などというのだろう。母上は「貴女の名前はとても良い組み合わせなのよ」と笑っておられた。父上は「姓名判断で最高の大大吉だ」と短く言っておられた。その頃の私は記憶のためにもうそれなりに文が読めて理解できたから、そのあとにその判断の中身を見せてもらった。ほんとうに父母が笑ってしまうほどに良い結果だった。それが。
「可哀想に、俺が救ってあげようね」
それが、こうなっている。