エンドロールに会いたい

 そのひとからはいつも、何かしんしんと降り積もるような音がした。



「うぅ、疲れたぁ〜! ていうかなんでアイツらあんなに元気なわけェ!? 俺なんてくたくただよもう……もう夜だし……」
 いや疲れきってるからか我ながら口調がおかしくなってきてるぞ俺、なんて考えながらズルズルと誰もいない廊下をひとりで歩く。

 俺、善逸と炭治郎と伊之助は蝶屋敷で那田蜘蛛山での任務の際に負った怪我の療養中。でもだいぶ怪我とかも治ってきたから〜とかなんとか言われて訓練してるの。……ねえおかしくない!??? アイツらバカだから「分かりましたー!」って即、受けてたけどなんで療養中にわざわざつらい訓練しなきゃいけない訳!?? なあんて騒いでサボってたら(伊之助はなんか山に行ってたらしい)、炭治郎がひとりだけすごい、すっっごいひとりで先に進んじゃってさあ。酷くない? 別に俺たちのこと待ってくれたり励ましたり引っ張ってってくれてもよくない?? そしたら俺だって……うん、まあ……それでも行かなかったからこうなったんだけれども!!

 ということで、俺、大奮起。ついでに伊之助も大奮起。(大丈夫? 伝わってるよね?)それでもつらいものはつらいからね。あと俺薬飲まなきゃいけないし? とかなんとか言って、とにかくまあ今日の訓練を終えてきたところなのだ。
(というかそもそも本来の訓練時間はとっくに終わってるはずなんだから俺悪いことしてないよ、アイツらが脳筋なだけなの!)
なんて誰にともなく心中言い訳をしながら人が寝静まって静かな廊下を歩く。蜘蛛の毒のせいで、まだちょっと微妙に手足が短くて余った裾がズルズルと音を立てて、なんだか複雑な気分になる。
(うーん、自分でお化け怖いなんて言いながら俺がいちばんお化けみたいな音させてるよなあ……)

 ズルズルと自分の心臓のドクドクという音が混ざって、なんだかひとりぼっちな気分になる。まるで世界に俺だけしかいないようだった。
 しん、と聞き慣れない、でもどこかで聞いたような音がそこに混じる。外からだった。
(なに!? 誰かいるの?!?)
思わず叫び出しそうになって、勢いよく自分の口をばちんと手で塞いだ。もしかしたらお化けかもしれない。

(……でも、耳をすませばちゃんと心臓の音がする。人間だ)
その事実にすこし安心して、そっと縁側から外を覗く。そこには緑色の露芝模様をした羽織のひとが背を向けて立っていた。しんしんとまた降り積もるような音がする。雪は降っていない。

「おいで、少年」
「うぇっ!?」
あまりのことに口から勝手に変な音が飛び出した。だって、
(だって、その声があんまり優しい音で俺を呼・・・から……!)
ただそれだけのことなのに、どうにかなってしまいそうな気がする。