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花宮が死神と出会ったのは、本当に偶然だった。

その日の花宮はスーパーまで行く足兼荷物持ちとして安室を呼び、一緒に買い出しに出かけた。
コナンはコナンで遊びから帰る途中でたまたま蘭と出会い、珍しく一緒にスーパーに向かっていた。

そしてそれぞれ向かったスーパーが同じ場所だった。
さらにスーパーに到着した時間も同じで、2人は見事に出会うことになったのだった。


「あれ?安室さん?」

「おや、奇遇ですね」

「ポアロの買い出しですか?」

「いえ、今日は彼の付き添いです」

「初めまして。松野京介です」

「あっ、私は毛利蘭です」

「知ってますよ。透くんから話を聞いています。あの毛利小五郎の娘さんですよね?」

「そうです!安室さんにはいつも父がお世話になってます」

「いえいえ、こちらこそ透くんがお世話になってます」

「ねぇ!お兄さんは安室さんとどんな関係なの?」

「とても親しい仲ですよ」

「えっ」

「なんでそんなわかりにくい言い方するんだよ。僕と京介は従兄弟同士なんです」


従兄弟同士というのは、組織で一度降谷が花宮の監視役についてから、よく2人で行動するようになったので、関係性を聞かれた時に用意した言い訳だった。

外見は全く似ていないものの、2人の雰囲気はよく似ているし、何も知らなければ特に疑問を抱くことはない。

けれど、江戸川コナンは安室透の正体を知っている。

安室透は本来存在しない人物なのだ。だから従兄弟だって存在しない。

つまり、松野京介は警察か、組織の人間のどちらかである。

コナンはすぐにでも京介の正体を探りたかったが、蘭のいる前ではそんなことはできない。

この場はじっと京介を観察するだけに収めて、一緒に買い物をして、会計後、何事もなく普通に分かれた。

それからのことである。

コナンは京介の正体を安室に聞いたが、安室は答えることはなかった。

当然だ。大切な仲間の正体を簡単に言うわけがない。一目置いている"子供"であろうとそれは変わらない。

けれど、ここで安室が答えを誤魔化してしまったために、ある誤解が生まれてしまった。

素性が警察官なら話しても問題ない。
けれど言わなかった。
松野京介は組織側の人間なのではないだろうか?
正体を話せないのは、自分を巻き込まないため。
だとしたら辻褄が合う。

そう考えたコナンは、京介を徹底的に調べると決めた。





▼ ▼ ▼





コナンと花宮の2回目の邂逅は、事件現場のことであった。

その日花宮はお気に入りのカフェに来ていた。
壁一面に本が並んでおり、何かを注文したら無料でその本が読めるブックカフェだ。並んでいる本の中には既に絶版されてなかなか見かけないレアな本も混ざっており、この珍しい本を目当てに花宮はよく来ていた。

ブラックコーヒーを頼み、ずっと読みたかった本を読んでいると、カップル客が騒ぎ始めた。

どうやら、男性側が浮気をしていて、それがたった今女性にバレてしまったようだ。

詳しい内容はわからないが、大方別の女性の名前で呼んでしまったとか、女性にとってはありもしないデートの記憶を言ってしまったとか、そんなんだろう。

2人の言い争う声が店内に響き、花宮は一気に不機嫌になった。これでは静かに本を読むことができない。

花宮以外にた数人の客も、2人を迷惑そうな目で見ているが、この喧嘩に口を挟む事は店員さんでもできなかった。

最終的に、20分以上大声で喧嘩して、女性は泣きながら店のトイレに篭った。男性の方は席でなに知らぬ顔をしてスマホを弄っている。ここは本来静かな空間であるブックカフェだというのに図太い事だ。

それから30分後。まだ女性が戻ってこないことが気になった男性が、店員さんにトイレを確認してもらった。何度呼びかけても反応はなく、仕方なく外からドアを開けると、女性は中で死んでいたのだ。

当然、すぐに警察は呼ばれた。

ゆっくり本を読めなくなったので、花宮の不機嫌度はまた上がった。

警察が呼ばれてから約10分後。パトカーのサイレンを鳴らしながら警察は到着した。
そこに、ちょうどコナン、もとい少年探偵団たちが通りかかったのだ。

少年探偵団たちが、警察がいるのに通り過ぎるわけがなかった。完全な部外者だというのに、事件に首を突っ込んだことで、花宮とコナンは再び出会った。

前回と違ってここには灰原哀がいる。コナンが京介の素性を探るにはちょうどよかった。


「灰原、あの人は組織の一員かもしれないんだ。何か感じるか?」

「こんな時にまで……まったく、私が見たことのある顔ではないわ」

「いつもの嫌な感じは?」

「それは……まだわからないわね。少なくとも良い人の雰囲気は感じないけど」


他の幹部と出会った時のように、凍えそうなほどの恐怖は感じない。だからといって、組織と関係がないと断言するには、纏うオーラが暗すぎた。

灰原はそう感じたものの、実際は花宮がとてつもなく不機嫌だっただけである。

まぁ確かに花宮は"潜入捜査官"として組織に所属しているし、もともと清廉潔白な人間でもないが、少なくともいつもの状態で出会っていたら灰原は無関係と断言していただろう。

出会ったタイミングが悪すぎた。

それを聞いたコナンはと言うと、警察が事件現場を調べている間に、花宮に話しかけることにした。これ以上観察するだけではなにもわからないと判断したためだ。


「えと、松野さん、だよね?僕のこと覚えてる?」

「えぇ。前回お会いした時からまだ2週間程度ですので」

「へぇ!記憶力が良いんだね!ひょっとして、安室さんと同じ探偵?」

「いえ、僕は研究者ですよ」


日本の大学に在籍中にアメリカに留学し、そのまま向こうで卒業。アメリカの大手製薬会社の研究施設に就職してから間もなく結果を出して、今度は日本のとある研究室にスカウトされ1年ほど前にこっちに来た。というのが松野京介の設定である。それ用の身分が用意されてるし、組織にはこの研究室繋がりで潜入している。

それに最近、組織からの要望で安室透の従兄弟という設定も追加された。
つまり、偽造された身分が組織によってさらに偽造された形である。ややこしいことになっているが、花宮はそれを忠実に演じていた。


「へぇ。じゃあ頭良いんだ!」

「いえ、君ほどじゃないですよ?」


花宮はにっこり笑う。


「僕のこと知ってるの?」


コナンもにっこり笑う。


「えぇ。キッドキラーとして新聞に載っていましたよね?」


そんなこと言いつつも、花宮は江戸川コナンが工藤新一だということを知っていた。

何故なら花宮はAPTX4869の再現をする際に、その薬が使われた人物のリストを見ていたのである。そのリストには工藤新一の名前も載っていて、死亡とも書かれていた。しかし、花宮はAPTX4869を服用すると稀に幼児化する現象があることを知っている。

工藤新一の服用時期と江戸川コナンが現れた時期がほぼ同じで、現在江戸川コナンは工藤新一と関わりのある毛利家にお世話になっており、なおかつ警察では工藤新一が生きていることになっているのであれば、2人を同一人物とみなすのは当然だった。

それを素直に報告するとつまらないからという理由で誰にも言っていない。公安に言ったのはあくまでもちっちゃくなっている人がいるかもよ、だけである。これだけで他にも気づいていそうな人はいるが……

まぁ、それについては置いといて、現在起こっている事件に話を戻そう。

花宮とコナンが話している間に、被害者の死因が出た。毒殺だ。警察が調べた中で、毒の成分は至る所に出ていて、例えば被害者が食べていたサンドウィッチとコーヒーカップ。バッグ、机周り、被害者の手、トイレのドアノブなどだ。他殺の可能性が非常に高い。

そうなってくると、お店にいた人全員に事情聴取が必要となってくる。

その事情聴取が行われるまで花宮はコナンに質問攻めにあっていた。もちろん矛盾なく綺麗に返答したが、とてつもなく面倒だったため、花宮の機嫌はさらに悪くなった。ここ最近では1番の機嫌の悪さだろう。

これが高校時代だったらそっとチョコレートを捧げて機嫌を直そうとする人がいたけれど、今はそんな人はいない。

この場にいる人全員、猫かぶってる花宮の機嫌が悪いなんて誰も気づかず、どんどん花宮の機嫌は悪くなっていくのだった。