05


京介が……花宮が大人しくついて行った理由は単純である。
FBIで遊んでその反応を楽しみたかったからだ。

目の前で驚いている顔を見せた捜査官に対して、花宮は満足げに笑った。

これはいじりがいのある捜査官だと。


「どうしてって……逆に聞きたいんですけど、それで隠していたつもりなんですか?だったら軽率に一般人に対してもFBIを名乗らない方が良いですよ。今の世の中、簡単に情報は漏れますから」

「……余計なお世話よ」

「休暇中なのに拳銃を所持しているようですが、それって申請出してますか?」

「あなたには関係ないでしょう?」

「銃刀法を犯している人がいるなら警察に通報しないといけないじゃないですか」

「っどの口で!」

「だいたい、黒の組織ってなんですか?」

「あなた、さっきは一員だって認めてたじゃない!!」

「え、殺されないように話をあわせてただけですけど。拳銃を所持している相手に逆らうわけなじゃないですか。あんなのを本気にしてたんですか?そもそも自分達が日本で捜査する許可を得ていないただの犯罪者だっていう自覚あります?」

「ふざけないでちょうだい!」


急変したその態度に、ジョディは感情的になり、思わず席を立ってしまった。

見かねた赤井が無線で落ち着かせ、退室を指示した。


「ごめんなさい、ついカッとなって」

「あれは仕方ないと思うよ」

「でもどうしますか?喋りそうもありませんけど……」


この間、部屋には花宮が取り残されている。

完全に放置だ。

次の捜査官が来るまで待って、またそいつで遊んでも良かったが、花宮には時間がなかった。

最近は忘れがちだけど、花宮の腕にはGPSつきの腕時計があって、居場所を知られている。後1時間で帰らなければ、組織から捜索隊が出されて、かなり面倒なことになるだろう。

ただ保護されるだけならマシだ。
1番嫌なのは逃げようとしたと思われて、また行動を制限されること。

これを避けたいがために、花宮は口を開いた。


「すみません、電話をお借りしても良いですか?」


その言葉に、FBIは悩んだ。

否定をしていたけどあのジンと一緒にいたのだから、組織の一員であることは間違いないのだ。

だから、電話をさせれば新しい情報を得られる可能性がある。
とはいえ、こちら側が危険になる可能性もあった。

電話先の相手も要件も聞いたけど、やっぱり答えず、悩みに悩んだ。

結果として、

・会話の内容は録音する
・会話は5分以内に終わらせる

この2点の条件を呑むならということで、FBIは電話を貸した。

そんな中で、花宮がどこに電話をかけたのかというと、3桁のあの番号だ。


「すみません!助けてください!黒服のよくわからない連中に銃で脅されて変な倉庫に連れてかれました。今は隙を見て電話してるんですけど……場所はたぶん〇〇のあたりです。あ、でも車に乗せられたから正確な場所までは……目的?わからないです。とにかく早く助けてください!あ、奴らが」


そう言って焦ったように電話を切った。

時間としては30秒くらいだろうか。だされた条件はたしかに守っている。


「あなた、今……」

「ええ、警察に電話しました。ここら辺にある倉庫はここくらいしかないし、後10分もしないうちに第一陣が到着するでしょう。普段使われていない倉庫の前に見慣れない車が複数止まってますからね。すぐに応援も呼ばれると思いますよ?」


FBI達もコナンもまさか警察に電話かけるとは思わなかった。

だって、ここにいるのはFBIだというのは分かっている筈なのだ。

普通なら110番なんてしない。


「私たちはFBIよ。日本の警察を呼んだって無駄よ」

「正式にFBIと日本警察が手を組んでいるのなら、僕を倉庫になんて連れてきてないですよね?普通に捕まえて取調室で話を聞けばいい話なんですから。なんなら、上と交渉して僕の身柄を引き渡すように言えばいい。でもそうしなかったと言うことは、警察が絡むと都合の悪い事情があるということです。まぁ呼んでも無駄と言い張るならそれでいいです。一緒に警察を待ちましょう」


無許可で捜査を行なっているのは事実だ。
今の状況を説明しようにも、黒の組織のことは言えない。
犯罪に関わりがあると言う証拠もない。
そして、FBIは知らないが、花宮は公安の潜入捜査官なので、捕まってもどうにでもなる。

確かに都合が悪いのはFBIの方だった。


「場所を変えるだけよ」


苦し紛れにそう言うが、それが難しいのはわかっていた。

ジンが送り迎えするような研究員がFBIに連れてかれたら、組織がどう報復にでるかわからない。だからこそもともと2時間程度で帰す予定だったし、FBIだと名乗る予定がなかった。


「組織と殺り合いたいって思うなら僕を連れて行けばいいと思いますけど、どうせそんな準備はしていないでしょう。今日のところは僕を置いて引いた方がいいんじゃないですかね」


悔しいけれど、今日はそうするしか無いのだ。

FBIは撤退の準備を始めた。

元の場所まで送るという言葉を断って、花宮はFBIが去るのを見送る。

遠くでは警察のサイレンの音が聞こえている。あと数分もしないうちに近くまで来るだろう。

自分も倉庫を去ろうとする間際に、見覚えのある盗聴器を見つけた花宮はそこに向かって囁いた。


「身体のことで何か聞きたいことがあったら1人で聞きにきてくださいね?江戸川コナンくん」


これでそのうちオモチャが自らやってくる。

その日の予定をぶち壊されたにしてはウキウキで花宮は帰った。