ようやく終わったX回目


俺に、俺にどうしろというのだ。

あの時の勝つか負けるかは2分の1で、負けたのは赤司の運が良かったから?

ふざけるな。

ここまでしているのに負けた理由が運だったなんて。

これからどうすればいいんだ。

カラスは言った。

それを覆すだけさ、と。

意味がわからない。なにを覆すんだ。どうやって覆すんだ。

わからない。わからないよ。





とりあえず前回と同じように進めている。

これじゃ勝てないのはわかっているが、勝てるようにする方法がわからない。

前回の試合、勝つか負けるかは半々で負けたのは運のせいらしい。

運といえば緑間のイメージがあるがあまり関係ないだろう。

というか運の力をどうしろというんだ。

ならば変えるべきは確率の方。100%とはいかなくても、それに近い勝率にすればいいのだろう。

もっと、もっと誠凛に経験を積ませればいいのか……

でも、どうやって?

手っ取り早く経験を積んでもらうには、合宿や練習試合をたくさんしてもらうのがいいだろう。

だけど練習試合はともかく合宿は出来る回数が限られている。

なら中身を濃厚なものにすればいいのか……??

例えば、キセキの世代を練習試合にぶつける、とか。偶然にも合宿が同じになれば必ず相田は合同にもするはず。

そうするには他校の日程を操るほどの人脈が必要だ。

霧崎は普通に操ることが出来たけどそれは一番霧崎に進学してたから。

他の学校となると自信は正直ない。

だけどやるしかない。

どのキセキの世代獲得高も数回は行った事があるんだから、ゼロよりましだ。





なんとかなった。

海常はもともと黒子が入れば練習試合を組むと決まって居たから、その時期をちょっと早めた。

合同合宿に秀徳をぶつけた。

インターハイで誠凛が勝てるけど実力はある高校とぶつけるように仕向けた。

正直けして言葉に出来ない事をやったけど、これで前回よりかなり経験を積ませられたはずだ。

実際赤司に勝てるかわからない。

けれどもうそれ彼らにかけるしかない。

お願いだから勝ってくれ。

なんでもないような顔で観客席に座って、洛山vs.誠凛の試合を見てた。

結果は………洛山は前回と同じ105点。だけど、誠凛は106点。

誠凛の勝ちだ。

勝ってくれた。

赤司が負けた。だけど笑ってる。

黒子は泣きながら笑ってた。

他のキセキ達も同じ感じだ。

確かにこんな光景は今まで見た事がない。カラスの言うことが本当なら、これで運命は変わった筈だ。

お願いだから変わっててくれ。

俺はそう祈るようにそれからの日々を過ごした。





「花宮ってなんか変わった?」

「は?何言ってんだ急に」


2月中頃、唐突にそう言われた。


「いや、なんか、表面上はそんな変わってないけど雰囲気がいつもと違うような気がする」

「気のせいだろ」

「んー、誠凛に負けたからー?」

「死ね」


いつもの調子で返事をしたけど、確かに変わって居たと思う。

誠凛がウィンターカップで優勝するように陰で動いてきたのと、実際に勝って先輩の運命が本当に変わっているのか結果を待っている今。

変わった演技はしてないけど、今そう発言した彼以外も含め、みんな鋭いから、きっと言葉にしないだけで全員がそう感じているのかもしれない。

幸いにも彼は俺が誠凛に負けたからだと勘違いしてくれている。だからそれでいい。

今誤魔化せて仕舞えば、どうせ俺は3月1日に死ぬのだから。





2月28日に先輩に会った。

もともとは25日に会う予定だったのを、俺が無理矢理28日にズラした。

今日、先輩が生きていれば、先輩の運命は変わったことになる。





先輩は






先輩は





死ななかった。

ついに!ついに変えられた!!俺は運命に勝った!!先輩が3月1日になっても生きている!!

それでこれから先輩が生きくれるならそれでいい。例え今日俺が死のうと関係ない。

本当に、本当に良かった。

今までの努力は報われた。





3月1日。

その日のいつ死ぬかわからないから、俺はいつも通り過ごした。

そして晩飯の材料を買いに行く途中、誰かに声を掛けられた。

俺はその声の主を確認出来ていないまま、横から来る何かに吹っ飛ばされた。

目の前にカラスがいる気がする。あぁ、でもこんなところにいるはずが無い。カラスは先輩の葬式の日にしか出てこないんだから。

それにもう、目が霞んでよく見えない。

だからきっと気のせいだろう。

俺を呼ぶ声が先輩のものっていうのも気のせい。

そうして俺の意識は………