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遡ること1週間前。霧崎第一高校にて。

霧崎第一高校は、おぼっちゃま高校ではないが、おぼっちゃまが多い高校だ。学内の約半数がどっかの名家出身や社長の娘息子となっている。

そんな中で一般市民だと言って驚かれるのが、常に成績トップ、部活では監督兼部長、更には風紀委員までやってる花宮真だ。彼は、高校に一切お金を入れてない。学費も、教科書代すらも学校が払ってくれる、いわゆる特待生というやつだった。

しかし、所動にはどこか品があり、マナーや挨拶もしっかりしていて、常に優しく、語学にも堪能で頭がいい彼を一般家庭生まれだど認めない者も多い。どこかの名家の隠し子なんじゃないかという噂すらあるくらいだ。

まぁ、とりあえず花宮真の話は一旦置いておこう。

この先の話をするには、今回の全ての始まりでもある、彼が所属しているバスケ部のレギュラー、原一哉のことから語らなくてはならない。

原の家は服飾系の会社を経営している。服飾、というからには取り扱ってるのは洋服から和服までジャンルは問わない衣類とそれらをさらに彩る装飾品、そして装飾品の元となる宝石類など様々だ。

そんな原家に、昨日一通の手紙が届いた。

予告状

桃の節句
ぼんぼりに火が灯る頃
"血に染まった薔薇ブラッディローズ"を
頂きに参上します。
怪盗キッド



なんと、今世間を騒がせている怪盗キッドからの予告状だったのだ。

血に染まった薔薇ブラッディローズは、原のおじいちゃんが昔にどっかから貰ってきたレッドベリルという宝石のことを言っている。

レッドベリルは赤いエメラルドとも言われ、アメリカのとある鉱山でしか採れず、ダイヤより価値がある希少石だ。しかも、唯一レッドベリルはが採れていたその鉱山も現在は閉山しており、現在は幻のジェムストーンとなっている。また、採れた鉱石は98%が0.1〜0.3カラットのサイズとなっており、0.4カラット以上が大粒判断される本当に珍しい石だ。

そんなレッドベリルだが、この血に染まった薔薇ブラッディローズなんと6カラットもあり、かなりの大粒となっている。

更に、レッドベリルは過酷な状況でしか生成されず、必ず内部に内包物などが混入してしまう。当然の様にこのレッドベリルにも内包物が混入しているが、その混入したモノが見事に薔薇を思わせる形をしているので薔薇、しかも血が滴ったような赤色をしているため、この宝石は"血に染まった薔薇ブラッディローズ"と言われているのだ。

6カラットのレッドベリルということだけで希少価値は一気に上がるのに、更に内包物が薔薇の形をしているとなれば、その値段は計り知れない。

血に染まった薔薇ブラッディローズは原家の家宝だ。それは、権威の象徴とかそういうのではなく、何かあった時のための資金にするために、家宝になって大切にされている。

そんな宝石をキッドが盗むと予告状を出した。本来ならすぐに警察に連絡するだろう。しかし、とある人から待ったがかかったのだ。

そう、待ったをかけたのは原一哉だった。

考えてもみてほしい。キッドは今までに何回予告状を出したのかを。そして予告状が出るたびに警察が出動して、ギャラリーも大量にいて、その中をあっさりと、何回目的のものを盗んだのかを。

キッドが今まで盗めなかった宝石はない。つまり、警察はことごとく宝石を全部キッドに盗まれてるのだ。最終的には宝石は返ってくるらしいが、それは確実ではない。

要するに、今まで何回もチャンスがあったのに、何も出来なかった警察を信用出来なかったのだ。

そうして彼は考えた。警察はダメだ。なら誰が頼りになるのかを。


「そうだ、花宮に任せようよ!花宮なら頭いいし信頼出来るし確実だよ!」


残りの原家の面々も、この言葉に頷いた。警察が信用出来ないのは事実だし、あの花宮君なら任せてもいいかと思ったのだ。

常に成績トップの優等生で、風紀委員、部活の部長、監督もやってて、一哉がいつもお世話になってる。何度か家に遊びに来た時は態度も行儀も良く、好感も持てた。

彼以上に良い人材はいない。そう判断した原家は結果花宮真に全部任せることにした。原家の花宮への好感度はカンストしている。

そして怪盗キッドから予告状が届いた次の日。

部活が終わった後、着替えてる時に思い出した様に原が言い出した。


「あ!そういえばうちにキッドから予告状が届いたんだよね〜」

「キッドって怪盗キッドか?」

「そうそう、そのキッド。花宮お願い!なんとかして!」

「はぁ?何で俺がそんな事やんなきゃいけねーんだよ」

「怪盗キッドから予告状とかすげーな!」

「ザキは黙ってて。お願い花宮。何度も逃してる警察より、花宮の方が断然信用出来るし、花宮頭いいからなんとかしてくれるかなって。お願い!」

「断る」

「何でだよ、やってあげればいーだろ」

「ザキもっと言ってやって!」

「さっきは黙ってろって言ってたくせに、調子いいな。花宮やっぱ断れ」

「ザキの言う事を聞く訳じゃないが、俺はやらない」


と、ここで流れを見守ってた古橋が口を開いた。


「花宮、何故そこまで断るんだ?花宮ならキッドくらい相手にすらならないだろう」

「報酬も無いのに何かやるのはめんどくさいから」

「わかった!カカオ100%のチョコ一週間分あげるから!外国産で高級なやつ」

「面白そうだな、やってやるよ」

「切り替えはやっ!」


こうして物につられた……否、友達思い(笑)の優等生花宮真は、怪盗キッドをなんとかすることに決めた。

しかし、なんとかとは具体的に何なんだろうか。原は、まだ家に届いた予告状の内容も、予告状が届いた状況も、盗むと予告された宝石も、具体的にどうして欲しいのかすら言っていない。


「じゃあ花宮、今日家に来てよ!」

「今日?早くね?」

「いや、早い方がいいだろ。出来る幅も増える。いいぜ、今日は予定もないし行ってやるよ」


と、こんな感じに花宮が原家に行くことが決まった。


「お前らも来るか?」

「俺はいかねー」

「花宮が行くなら行く」

「じゃあザキは来なくていいよ!」


そして、流れるように山崎が行かないことに決まり、当たり前のように古橋も行くことに決まった。

後この場で決まってないのは瀬戸だけである。


「おい、健太郎起きろ」

「ふぁあ……なに?もう帰る時間?」


花宮がそう言うと、さっさと帰る準備を終わらせて他のメンバーの準備が終わるのを待っていた瀬戸が起きた。


「あぁ。原ん家行くぞ」

「わかった」


そうして寝起きで特に何も考えてなかった瀬戸は花宮の言葉に従って原の家に行く事が決まった。


「俺以外全員行くのかよ。じゃあ俺も行く」

「えー、サギ寂しがり屋?」

「は?ちげーし」

「さっき断ったんだから、ザキは来なくていいよ」

「ふざけんな。俺も行く」

「そっちがふざけんな。ザキだけ家に入れてやらない」

「おい、さっさと行くぞ」


花宮は今にも喧嘩が始まりそうだった原と山崎の間に入り、強引に会話を切る。

そして結局、山崎も原家について行く事になった。


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