03

場所は変わり、原家。


「相変わらず広いよなぁ」

「えー、普通だよ。普通。ていうか広さだけでいったら古橋の家の方がヤバいでしょ」

「あんなの古臭いだけだ」

「江戸時代に建てられたんだっけか?アレ文化遺産に入っててもおかしくねーよな」

「いや、今はもう改装を何度か重ねて電気が通ってるから無理だな。それに、1番金かかってるのは瀬戸のところじゃないか?」

「医者は見栄っ張りだからねぇ。否定はしないけど、そんなに余裕はないよ」

「てかザキの家もなんだかんだで広いじゃん?」

「そうか?お前らと比べるとなぁ」



無駄に広い家の中を歩きながら、こんな会話をしている彼らの家は、古橋は江戸時代から続く華道の名家で、瀬戸は親が大学病院の教授と看護師、山崎は父親が冷凍食品を扱った会社の社長と、なかなかのお坊ちゃんである。


「なぁ、その会話一般市民の俺に喧嘩売ってるのか?」

「すまない花宮」

「花宮が一般市民とか絶対嘘だろ……」


ちなみに花宮は2LDKのマンションに母親と2人暮らしだ。

と、そういう会話をしている間に、原の部屋にたどり着いた。


「あ、ついたよー、俺の部屋」


無駄に広い家の原の自室はやっぱり個人の部屋とは思えないくらい無駄に広かった。


「今怪盗キッドからの予告状持ってくるからテキトーに寛いでて」

「おーけー」


寛いでてと言われてすぐに瀬戸は原のベットで寝始めた。遠慮のかけらもないが、いつもの事なので、全員スルーしている。


「課題でわからないところあるから花宮教えてくれ」

「報酬は?」

「前欲しい本あるって言ってただろ。それでどうだ?」

「交渉成立」

「よっしゃ!じゃあここなんだけど……」


と、山崎と花宮は課題をやり始めた。

古橋はスマホをいじっている。意外にも子猫の動画を見ているようだが、相変わらず無表情だ。

こんな感じに各々過ごして、約5分。原が戻ってきた。


「ただいまー。予告状持ってきたよ。ついでにお茶とお菓子」

「おー、サンキュー」

「あ、ザキの分はないよ」

「なんでだよ」

「って言おうと思ったけど無理矢理持たされたから、ちゃんとザキの分もあるよ」

「なんなんだよ」

「おい、さっさと見せろ」

「あぁ、ごめん。はい、これ」


花宮はそれを受け取ると、内容を確認した。山崎と古橋は花宮の手元を覗き込む。

予告状

桃の節句
ぼんぼりに火が灯る頃
"血に染まった薔薇ブラッディローズ"を
頂きに参上します。
怪盗キッド




「桃の節句……3月3日か」

「"ぼんぼりに火が灯る頃"は日が暮れる時間だろうな」

「シンプルだな。花宮に頼むくらいだからもっと複雑な暗号かと思ってたわ」

「警察には届け出たのか?」

「あんな無能警察に届けるわけないじゃん」

「酷い言い様だな」

「例え最終的には返ってくるとはいえ、何度も宝石を盗まれてる警察は実際無能だろ」

「そーそー。だから俺も花宮に頼んでんじゃん?」

「で、俺は怪盗キッドから宝石を守ればいいわけ?それとも怪盗キッドを捕まえればいいわけ?」

「守ってくれればオッケー!俺らが捕まえる必要ないっしょ。その正体は気になるけどね」

「んじゃ正体調べつつ、宝石を守る方法を考えるわ。お前らも手伝えよ」

「りょーかい」

「わかった」

「瀬戸は寝てるけど?」

「必要な時に起こすからほっとけ」


こうして彼らは怪盗キッドについて調べ始めた。





スマホやらタブレットやらパソコンやらでそれぞれが怪盗キッドの情報を集め出してから数十分。ぽつりと山崎が原に聞いた。


「そういや、血に染まった薔薇ブラッディローズって今どこにあるんだ?写真は見せてもらったけどよ」

「あー、それね……花宮ちょっといい?」


原は花宮が座っていたやたら質の良い勉強机の引き出しを開けると、無造作に箱を取り出した。


「はぁ!?なんでそんなとこにあるんだよ」

「そんなところだからだろ」

「そーなんだよねぇ、怪盗キッドの予告状が来た途端お前が持ってろって押し付けられてさぁ」

「な、なるほどな」


少なくとも普通なら家宝とされてる宝石が息子の鍵のかかってない机の中に入っているとは思わないだろう。しかも、こんな見た目がちゃらんぽらんそうな息子だ。だからこそ、原の父親は一旦宝石を原に預けた。

しかし、隠し場所がバレてしまうとあっさりと盗まれるというデメリットもある。

果たして、花宮はどうやって宝石を盗まれないようにするのだろうか。


「あぁ、そうだ。お前らコイツの贋作作ってこいよ。1人ひとつな」

「了解した」

「急に言われてもな」

「ザキのところならなんとかなるっしょ。それよりもそれって花宮もやんの?」

「あ?一般市民舐めんな。そんな金ねぇよ」

「じゃあ贋作は全部で4つか」

「いや、松本あたりにも作らせる」


花宮の作戦はこうだ。

まず、1番出来の良かった贋作をさも本物かのように飾る。もちろんそこに家の警備を置くし、原家当主もこの部屋で待機だ。大事にならないのなら警察を呼ぶのもいいかもしれない。

そして本物の血に染まった血に染まった薔薇ブラッディローズと残り4つの贋作は別室で花宮達5人が持つ。どれが本物か本人もわからないようにすれば、流石の怪盗キッドもどれを盗んだら良いのかわからなくなるだろう。

5つ全部盗めば確実に本物は手に入るが、その時は全員で捕まえればなんとかなる。

というのをこの部屋で語った。


「よくこの短時間で考えられるな」

「かかった費用は後で原家でそれぞれの家に返しとけよ」

「はーい。後で親父に言っとく」

「贋作を作るのを5人の家に分散させたのはなにか意味があるのか?」

「いや?ただ贋作を作ってもつまらないだろ。1番本物っぽかった贋作を作れたやつは次のテスト勉強見てやるよ」

「まじで!?力入れて取り掛かるわ」

「それは2人っきりでということか?」

「俺らは嬉しいけど瀬戸は嬉しくないだろ、それ」

「まぁいいっしょ。俺としてはラッキー!」

「花宮、無駄に勉強の教え方は上手いからなぁ。あと出るって言った問題が必ず出る」

「それは2人っきりでということか?」

「古橋……無視されてるって気づこ?」


ひとしきり作戦を花宮が語り終えると、その日はもう夜遅い時間ということで解散となった。


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