自由時間

フランが宿に戻ってほんの数分、今度は渚達が殺せんせーと戻ってきた。


「やっと宿に着いたー!」

「いろいろあったからね」

「皆さんお疲れ様です。では先生は逸れてしまったフラン君を探してきますね」


フランが思案した通り、フランが居なくなってたのは普通にバレてた。フランがすぐに宿に戻ってきたのは正解と言えるだろう。


「いえ、その必要はないですよー」

「フラン君!」

「おや、宿にもう戻ってきてたんですね」

「気づいたら宿の近くに居たので、先に戻ってましたー。何やら大変そうな事が起こったみたいでしたが、大丈夫でしたかー?」

「渚がしおりを持って居てくれたからな」

「それよりフラン君!どうして逸れてすぐに先生に連絡しなかったんですか!?!?」


上手くフランが逸れたことを誤魔化せそうだったのに、残念ながら殺せんせーには通じなかった。しかしここで大人しく怒られるフランではない。


「だって、タコせんせーこの修学旅行楽しみにしてたじゃないですかー。邪魔したくなかったんですよー」

「フラン君……!!先生のことをそこまで思ってくれてたんですね。先生嫌われてると思ってました」

「まさか。そんな事ないですよー」

「そうでしたか!先生今ちょっぴり感動してます」

「ではミーは部屋に戻りますねー」

「はい!」


殺せんせーは割とあっさり誤魔化され、フランが戻るのを見送ってしまった。しかし、殺せんせーよく思い出して欲しい。

"先生のことそこまで思ってくれてたんですね。先生嫌われてると思ってました"

の発言に対しフランは

"まさか。そんな事ないですよー"

と返したのだ。

フランの"まさか"は先生のことそこまで思ってくれてたんですねに対しての"まさか"だ。つまり、そんなに思ってないと返してる。そして嫌われてると思ってた、に"そんな事ない"と言ってる。これは文全体を否定している。ようするに、実際は嫌ってると返した。

聞く人によれば殺せんせーの発言を肯定しているように思えるが、実際は全て否定している。日本語は奥が深い。

そうして無駄に理解力のある日本語を使い、殺せんせーを見事に誤解させて、フランは部屋に戻ってきた。今の時間帯は自由時間だから、基本宿から出なければ何をしてもいい事になっている。

フランは色んな人のところに行っては混ざり、行っては混ざりを繰り返した。途中晩ご飯やお風呂の時間があったものの、転校初日から考えれば、もう随分とクラスに馴染んだと言えるだろう。


例えば、卓球。もともとヴァリアーに所属出来るくらいの身体能力もあり、ラケットで球を打つことは簡単に出来た。しかし、過去何回か話に出ていたが、また同じように説明すると、小さい頃はフランスの大自然の中で育ち、日本に来てからは骸の元で修行し、椚ヶ丘中に来るまでまともに学校に行ったことがないまま暗殺者になったフランは卓球もやった事がない。意外にも幻術、暗殺に特化してるフランの人生経験は偏っていて、普通の人が一度はやったことがあるであろうことも、知識としては知っているが、やったことがないものが多いのだ。

そのため、球のコントロールが上手くいかず、ほとんどが豪速球を返しているのに球はアウトかネットにひっかかることになった。が、本人は初めてのことを楽しそうにやってたので問題ない。

殺せんせーの風呂も覗きに行った。その時殺せんせーの中身を見れずに逃げられてしまったことにイラついたフランは、残った服にペンキをぶちまけて、ストレス発散もといイタズラを仕掛けるのだった。殺せんせーの反応?だいたい理科のフランが燃やした時と同じようでつまらなかったと言っておこう。

次は、女子会ならぬ男子会。と言っても、やることといえば気になる女子の投票だ。この気になるは、恋愛面での気になるだが、当たり前のようにフランにはそんな人存在しない。価値観が違いすぎるし、年下だし、まず興味ないというのもある。さて、フランは誰に投票するのだろうか。


「フラン君は誰に投票すんの?」

「そうですねー。強いていうなら茅野さんですー」

「おっ、意外。そういうのに興味ないと思ってた」

「実際ないですよー。強いていうならって言ったじゃないですかー」

「なるほど。じゃあなんで茅野さんなんだ?」

「なんか、裏がありそうなんですよねー、茅野さん」

「茅野さんに裏?」

「いやねーだろ」

「ないない」

「わー、皆さん全否定ですかー。もういいですー。次言って下さーい」


と、理由は誰にも共感を得られなかったが、とりあえずフランが投票したのは茅野さんだった。暗殺者の勘というか、長年の経験からというか、具体的な例も証拠も根拠もなかったが、フランからみて、茅野さんには何かありそうと思っている。けど、だからと言って何もしないのがフランだ。特に詳しく説明する事もなく場は流れた。

男子会は殺せんせーの登場によって中断され、今度は殺せんせーの暗殺が始まる。しかしフランは興味が特にないから参加せず、ペンキ塗れの洋服をそのまま来ていた殺せんせーを愉快に思いながら、部屋で大人しく就寝の準備を始めるのだった。

様々な事があったが、3日目は後は帰るだけなので修学旅行はこれでおしまい。

最初で最後になるであろう修学旅行をフランはなかなか楽しそうに参加していたので良かったと思う。本当に。

前へ | BACK | 次へ
TOP