仕返し
彼女……と言っていいがわからないがとりあえず律がクラスに馴染むまでには色々あった。が、フランにとっては全てどうでもいいことだった。
何故なら、匣や炎を使う黒の社会の科学技術の方がよっぽどレベルが高いからだ。そしてその中でも最も高い科学技術を誇っているのがフランの所属するボンゴレだ。
自律思考は確かに凄いと思うが、ボンゴレだって余裕でそんなの作れる。固定砲台、つまりその場から動けないのであれば、役には立たない。
一晩で殺せんせーが改良して全画面になり表情豊かになったのは少し驚いたが、それだけだ。
だからフランは、その場で撃つことしか、そこから動くこともできない律が殺せんせーを殺せるとは思わなかったし、特殊なプラスチックで色々モノを作れる律だったが、
フランが一切の関心を向けなさすぎて、ちょっとこれ以上は折角E組に来た律が可哀想な感じになってきちゃうので、次の話に進めよう。
律がこのクラスに来てしばらくした頃……梅雨の季節がやってきた。
雨が降り、E組に続く山道はぬかるみ、とても歩きにくい状況にうんざりしながらE組メンバーが登校すると、なんと殺せんせーの頭が肥大化していた。これにはクラス全員ビックリだ。
しかし、当の本人は何事もないような感じで授業を始め、そして今も続けている。だから全員が殺せんせーの肥大化した頭について、聞くに聞けなかった。
そんな中で、聞けない空気なんて知るかと発言するものがいた。
「タコせんせー、その頭どうしたんですかー?」
「殺せんせー、私も気になります。33%ほど巨大化した頭部についてご説明を」
そう、空気は読めるけど読むことなんて滅多にしないフランと機械ゆえに空気がわからない律だ。
「水分を吸ってふやけました。湿度が高いので」
「生米みてーだな!!!」
空気の読めない二人によってなにも聞けないという呪縛から解放されたクラスメイトはツッコミをいれた。
「雨粒は全部避けて登校したんですが、湿気ばかりはどうにもなりません」
雨を全部避けるとかいう相変わらずの人外行動をさらっと言いながら殺せんせーは顔を雑巾のように絞って水を出している。
さらっと言われた人外行動と、顔を絞るという行動によってE組メンバーは気づかなかったが、フランだけは違った。
(雨を全部避けた、ですかー?十代目なら普通にできそうですねー。あ、そういえばタコせんせーはなんで雨を避けたんでしょー?濡れるのが嫌だったとかー?湿気はどうにもならないと言ってましたしー……もしかして水が弱点、なんですかねー。今度確かめてみましょー)
とまぁ、たったこれだけの情報で殺せんせーは水が苦手だということにたどり着いていた。流石ヴァリアー。でも今は関係ないので一旦置いておこう。
フランが考え終わった時には、殺せんせーはキノコを食べてた。つまり、フランはキノコが殺せんせーの頭に生えてた状況を見ていない。今のを見られてたら殺せんせーはフランから飽きるまで徹底的にそのことについてイジられることになっていただろう。殺せんせーはそのフラグを気づかない内に折っていた。そのうち誰かから聞いてフランの耳に入るだろうけど、とりあえず今はよかったね、殺せんせー。
さて、そんな事があった日の放課後。相変わらず雨が降っていた。
そんな中、フランは渚達と帰らず、一人で帰っていた。相変わらず協調性がなく、監察任務のやる気が感じられない。
フランだって任務を忘れてるわけじゃないから、数十回に1回は一緒に帰っている。ただ、今日は一緒に帰らない日だっただけなのだ。いや、普通は監察任務なら対象者に張り付いていなければならないのだが、任務をやってるのがフランだと考えれば、数回でも他人と一緒に帰るのは凄いと褒められるべきだ。というかフランが毎日学校に行ってるだけ奇跡である。授業を受けるかサボるかは別として。
まぁ、とりあえずそんな感じにフランは一人で下校していた。そんな時
プルルルル プルルルル
フランの学校用のスマホに電話が来た。
「もしもしー」
〈もしもしフラン君?〉
「はい、なんでしょー?」
〈フラン君今暇?〉
「暇ですけど何かあったんですかー?」
〈実は、前原君の彼女が二股かけててさ、悪いのはその人な筈なのに、むしろ前原君が悪いみたいにされちゃって……それを見てた殺せんせーが屈辱には屈辱をってことで皆でやり返すことになったんだけど、フラン君も来ない?〉
「あー、行けたら行きますー。場所はどこですかー?」
〈場所は学校近くの_______〉
「……なるほど、わかりましたー」
〈じゃあ、またね〉
「はーい」
と、そんな感じに電話は終わった。
フランはこの仕返しに参加する気は全くなかった。しかし、E組の人達が何かをするというのだから、それを見ないわけにはいかない。だからフランは行くだけ行って、姿は幻術で隠し、近くで見ることにした。
それから約10分後、フランは言われた場所に到着し、普通に同じ部屋にいた。気配を消し、姿も幻術で隠せば、殺せんせーですらフランの存在に気づかない。
フランが部屋の中に入った時、ちょうど作戦が始まっていた。
「……すげーな、あれ渚と茅野かよ」
「パーティー用の変装マスクあるだろ?俺がちょいと
「うーん、菅谷呼んで正解だった」
「殺せんせーを
会話を聞いていると、どうやら声がかかったのはフランだけじゃなかったらしい。
そこにフランがいるとも知らず会話は続く。
「そうだな。にしてもフラン、来なかったなぁ」
「あー、渚が電話した時は来れたら来るって言ってたらしいけど、フランだしな」
「気分屋だからな、フランは」
「電話を切って、来ようともしなかった可能性はあるよな」
「確かに」
杉野君と菅谷君が次に話題に出したのは、フランのことだった。確かにフランは気分屋だ。任務じゃなかったら、来ようともしなかっただろう。でも、任務だからフランはここにいる。
(確かに事実ですけど、そう言われるのはイラッときますねー。今度何かお返ししましょー)
フランに目をつけられた二人には御愁傷様としかいえない。とりあえず、これからフランに何かイタズラされるだろうけど、頑張って。
話を戻そう。
「しかし、この向かいの民家、よく俺達を上げてくれたな」
「ああ、家主を矢田と倉橋が押さえてる」
「ビッチ先生の直伝の接待テク、かじっただけにしちゃ大したモンだ」
ここで、二人の会話を切るように、殺せんせーが登場した。
「ヌルフフフ。首尾は上々のようですねぇ。では、作戦を開始しましょうか。奥田さん、頼んでいた例の弾は?」
「は、はい。急いで調合してきました。BB弾の形にそろえるのに苦労したけど」
そう言って奥田さんが取り出したのは黒い弾だ。それを、射撃担当の速水さんと千葉君が銃にセットする。それを、潜入している渚がサラダを落とし、二人の気を引いているうちに、飲み物に打ち込む。
弾の衝撃でカップが動いたり、中身が溢れたりしないのは何故かわからないが、とりあえず二つの弾丸は見事にそれぞれの飲み物に入った。流石暗殺技術を習ってるだけはある。
それを見届けた殺せんせーは何故コップをバリバリ食べながら笑った。
「ヌルフフフフフフフフフフ。あとは下の皆さんにお任せです」
黒い弾が入った飲み物を飲んだ二人は、どうやら体調が悪くなったようだ。
「マグネシウムを主成分として調合しました。市販薬の数倍の刺激を大腸に与えます。要するに、強力下剤。『ビクトリア・フォール』と名付けました」
奥田さんが怪しく説明して、周りの人は引いていたけど、まぁ問題ないだろう。
それから、腹を下した二人は店のトイレに行こうとしたが、そこはあいにくと茅野が入っている。二人は競争するように近くのコンビニまで走り出した。そこに、枝や葉、虫が大量に落ちる。
それらは二人に当然のように当たり、転ばせた。葉や虫で汚れている。が、それよりも、トイレだ。汚れた格好のまま、二人はまた走り出した。そして、トイレに着き、二人は見事に醜い争いをしだしたとさ。
これで、仕返しは完了だ。
「ま……少しはスッキリしましたかねぇ。汚れた姿で大慌てでトイレに駆け込む。彼等にはずいぶんな屈辱でしょう」
「……えーと、なんつーか。ありがとな。ここまで話を大きくしてくれて」
「どうですか前原くん?まだ自分が……弱いものを平気でいじめる人間だと思いますか?」
「……………いや、今の皆を見たらそんな事できないや。一見お前ら強そうに見えないけどさ、皆どこかに頼れる武器を隠し持ってる。そこには俺が持って無い武器も沢山あって……」
「そういう事です。強い弱いは、ひと目見ただけじゃ計れない。それをE組で暗殺を通して学んだ君は、この先弱者を簡単に蔑む事は無いでしょう」
「うん、そう思うよ、殺せんせー」
そんな感じに良い雰囲気で終わりそうだったのに、前原君は他校の女子とメシを食いに行くといって去り、とても微妙な雰囲気になった。
さて、一連の流れをフランはずっと見ていた。問題なさそうならすぐ帰ろうとするフランが、最後までいたのだ。
(殺せんせーは良い感じに締めましたけど、前原君の発言で締まりませんでしたねー。ざまぁですー。さて、仕返しは終わったようですねー。この件、報告しないといけないですしー、さっさと帰りましょー)
どうやらフランにとって、この件は報告対象らしい。
確かに、悪いのは向こうだったとはいえ、あくまでも一般市民の人に暗殺技術を使うのは良くない。しかも、仕返しに使ってるし、本人達はそれを悪いと思っていない。先導したのが殺せんせーだとしても、彼ら習った暗殺技術をこんな風に使うべきではなかった。
後々烏間先生に怒られるとしても、それはフランの報告には関係ないことなのだから。