修学旅行
というかそもそも、まともに学校に行かず、そのまま暗殺者となったフランは"修学旅行"というものがなんなのか知らなかった。
「渚君、ちょっと質問いいですかー?」
「あ、うん。いいよ」
「じゃあ遠慮なく、修学旅行ってなんですかー?」
「え!?フラン君修学旅行知らないの!?」
「聞いたことはあるんですけどー、どんなものかは知りませーん」
「うーん……学校で旅行に行くことだと思うけど、あってるか分からないや。説明するの難しいよ」
「そうですかー。まぁ行ってみればわかりますかねー」
修学旅行とは何か。改めて言葉で説明しようとするのは難しい。渚の説明で、フランはちゃんと理解出来なかったが、何かあってもなんとかなると考え、深く追求はしなかった。
そこに、カルマ君がやって来た。
「何の話してんの?」
「あ、カルマ君。修学旅行の話をしてたんだよ」
「そうなんですー」
「へー。あ、修学旅行と言えば、フラン君、一緒の班になろうよ」
「そうだね!フラン君も僕たちの班においでよ」
「……班、ですかー?」
修学旅行は学校で行く旅行と言ってたのに、班とはどういうことだろうか。フランは頭にハテナを浮かべた。
班を作るなんて、普通に生活していれば誰でも知ってる筈のことだ。でも、基本人の話を聞かないフランは、先生の話も、クラスメイトの話も、だいたい右から左へ聞き流していた。修学旅行というもの自体知らない。そのため、聞いたことあるような気がするけど知らない、なんていう状況が出来上がったのだ。
「フラン君……話全然聞いてなかったんだね」
渚は呆れたような顔で言った。
「さっすがフラン君。俺もサボって話聞かない時あるけどさ、いる時はちゃんと話聞いてるよ」
「聞いてないこともないですよー。それはさておき、班について説明してもらってもいいですかー?」
二人は簡単にフランに班について説明した。といっても、ほとんど先生から聞いた事をそのまま言っただけである。具体的には何班に分かれるかとか、スナイパーについてとか、暗殺についてなどの事だ。
さて、それを聞いたフランはというと
「なるほどー。旅行先でも暗殺とか面倒ですねー」
相変わらずめんどくさがっていた。やっぱり、フランにこの任務は向いてないかもしれない。
「まぁとにかく、フラン君、一緒の班になろう」
「いいですよー。よろしくお願いしまーす」
「ま、せっかくだから修学旅行楽しもうよ」
「はーい」
そんな感じに班は決まり、どのようなコースに行くかも話し合いで決まった。ちなみにフランはその話し合いに参加していない。どこを回ろうが、興味がないらしい。
そして修学旅行当日。
フランはビッチ先生の後、集合時間ギリギリにホームに来た。ここで忘れてはならないのが、この任務で何故かずっと被ってる林檎だ。E組の人達はもう慣れ、なんとも思わないようになっていたが、他のクラスの人達は違う。いつも通り、普通車両のE組をバカにしていたら、なんか急に林檎の被り物をした、変なやつが出てきたのだ。当然驚く。
まぁ、つまり何が言いたいのかというと、フランは目立っていた。それもものすごく。
「なんだあいつ」
「林檎?」
「なんで林檎被ってんの??」
「修学旅行だからって浮かれすぎじゃない?」
と、こんな感じにざわついていた。最後のセリフを言った人よ、あれは修学旅行だから被ってるんじゃない。何時も被ってるんだ。
他のクラスの人達をざわつかせたフランだが、当の本人は気にしていない。そもそも周りを気にしていたらそんなもの被れないからだ。流石自由人。
そんなことがありながらも、後は普通に車両に乗り、移動をし、無事に京都に着いた。移動中、みんなでやったトランプでフランがポーカーフェイスの本領を発揮して、ほぼ無双状態だったが、まぁ細かく言うことはないだろう。そして何事もないまま、1日目は終わった。
次の日、班別自由行動の日だ。
最初は順調に回っていたのだが……
(なんか素人丸出しの視線をずっと感じますー。これ、絶対何か起こるパターンですー。あ、わざわざ巻き込まれなくてもいいですよねー?ならさっさと消えますかー)
視線に敏感なフランは、自分たちを見る"誰か"の視線を当たり前のように感じとっていた。そして、その視線が素人丸出しの視線だったため、面倒ごとが後で起きると判断したフランは、巻き込まれないように、班からわざと離脱し、迷子になったのだ。
と言っても、逸れた後は幻術で姿を消しているだけで、実際には4班の近くにいる。普段ならすぐにフラフラどっかに行くが、さすがに任務なのでそばにいることにしたらしい。
フランが逸れてから5分くらいしたら、フランが居なくなったことに気づいた4班からフランに電話がかかって来た。
「はい、もしもしー」
《もしもしフラン君!?今何処にいるの!?!?》
「さぁどこでしょー」
《先生から班行動厳守って言われてたじゃん!ふざけてる場合じゃないよ。場所言えばこっちから行くからさ》
「いえ、本当に自分の今居る場所がわからないんですよねー。要するにミー今迷子なんですー」
《えっ、それ大丈夫なの??殺せんせーに連絡する?》
「タコせんせーに頼るくらいなら、一生迷子でいいですー。それに、京都の街は案外狭いですから、きっとそのうち会えますよー」
《フラン君……わかったよ。でも、夕暮れまでに会えなかったら殺せんせーに連絡するからね!》
「わかりましたー。では」
そう言ってフランは電話を切った。なお、この会話、渚達は気づいていないが、距離間約3メートルでされている。フランには、電話越しの声とリアルでの声の二重の声が聞こえていた。普通ならそこに居ることがバレるだろうが、幻覚を使っているのでそれはない。
さて、フランとはそのうち再会すると信じて、4班は次の場所に向かった。祇園だ。
渚達がいろいろ話しながら路地裏に入っていったのを見たフランは、道が狭いことを考慮して屋根の上からついて行くことにした。幸い、祇園の建物は低いので、会話は聞こえる。
そして、暗殺の決行の場所を決めた時のこと。4班は不良達に襲われた。
「なんでこんな拉致りやすい場所歩くかねぇ」
「……何お兄さん等?観光が目的っぽくないんだけど」
「男に用はねー。女置いておうち帰んな」
ここでカルマ君は反撃した。さすが喧嘩慣れしてるだけはある。
「ホラね、渚君。目撃者いないところならケンカしても問題ないっしょ」
カルマ君は渚君に言ったが、それに答えたのは不良の方だった。どうやら、隠れて不意打ちをする機会を伺ってたらしい。
一番力のあるカルマ君がやられれば、後はもう拉致るのは簡単だ。あっさりと渚と杉野君もやられ、隠れてた奥田さんを残して茅野さんと神崎さんは連れ去られてしまう。
フランは、ただただその光景を上から見ていた。何もせず、ジーっと。それが任務だから。
「やっぱり何かありましたねー。逸れて正解でしたー。さて、どうしましょー」
このどうする、残った方が起きて行動しだすのを待つか、連れ去られた方について行くか、だ。結局フランはいつ行動開始するかわからない残った方より、何処に行くかわからない二人の方について行くことにした。
フランがそこから動きだして、二人を追いかけて遭遇したのは、二人をを無理やりワゴン車に連れ込んでいる不良達だ。さすがに中には入れないので、フランは屋根からワゴン車の屋根へと飛び乗った。姿は幻術で隠してるし、暗殺者だから着地音がすることもない。そうして不良達はフランが屋根の上に乗ってるのに気付かぬまま、ワゴン車は走り出すのだった。
車の走行中、フランは中の会話を聞こうとして、すぐに諦めた。エンジン音や車が風をきる音などで聞こえなかったのだ。幻術は便利だが、万能ではない。最初から盗聴器を仕込んでなければ、中の会話を聞くことは不可能だ。
早くも車の上ですることのなくなったフランは寝っ転がって、仮眠を取り始めた。なんで落ちないんだとか、こんな状況でどうして寝れるのかとか、いろいろツッコミたいことはあるが、さすがヴァリアーという言葉でとりあえず納得しておこう。
そして、ワゴン車は廃屋に止まり、そこでフランは起き………なかった。
不良達はフランから見れば雑魚だ。つまりなんの障害にもならない。だから、何かあれば起きるはずだったのに、フランにとってなんの問題もなかったから、起きられなかったのだ。雑魚を警戒してろというのも無理がある。
そうして寝続け、渚達が来ても寝続け、殺せんせーが来たことでようやく起きた。
(結構寝ましたねー。あ、中で何かやってる。ここに来た意味がなくなりましたー。したかないので、対象を4班から殺せんせーにしましょー)
フランは、中に入っていった殺せんせーの後を追った。
殺せんせーが
「不良などいませんねぇ。先生が全員手入れしてしまったので」
と言ってる時、フランはそのすぐ後ろにいたのだが、やはり全員幻術で隠れているフランには気づかない。
「遅くなってすみません。この場所は君達に任せて……他の場所からしらみ潰しに探していたので」
「……で、何その黒子みたいな顔隠しは」
「暴力沙汰ですので。この顔が暴力教師と覚えられるのが怖いのです」
「渚君がしおりを持っていてくれたから、先生にも迅速に連絡できたのです。この機会に全員持ちましょう」
ここでフランは気づいた。
渚は茅野さんと神崎さんが誘拐されてしまった時に殺せんせーに連絡している。で、今この場には幻術で見えないフラン以外の4班が全員いる。
殺せんせーには連絡しないでほしいと言ったけど、この状況でフランだけ離れてるのはおかしい。つまり、フランが居なくなってるのはもしかしてもう普通にバレてる?と。
それに気づいたフランは殺せんせーの観察すら諦めて、宿に戻ることにした。何故なら、殺せんせーに探されるという、めんどくさい事になりたくないからだ。
(あー、でも、このままじゃ変な生物がいるってこの不良達にバレますねー。暗示くらいかけて帰りましょー)
そうしてフランは常人から見た殺せんせーの違和感を感じなくさせる暗示を不良達にかけた。普段相手に幻を見せてるのだ。暗示くらい簡単にかけられる。
こんな感じに一仕事終えたフランは、一人で宿に戻るのだった。