転校生

雨の季節はまだまだ終わらない。そんな中、このE組にまた新しい転校生がやってくることになった。

殺せんせーや他のクラスメイトがその転校生について話してる中、フランは自分の幻覚で出したルービックキューブでで一人遊んでいた。9面の全て色が揃った状態から、色をバラバラにし、それを元に戻すのが本来の遊び方なのだが、フランは元に戻す途中で幻覚を使い一瞬で色を戻している。自分で出したルービックキューブだから出来る芸当だ。けど、それの何が楽しいのだろうか。全く分からないが、本人は飽きずにずっとやっている。

そんな感じで暇つぶしをしていたフラン。教室のドアがガララッと開いた音で、ようやく視線をルービックキューブから外し、前を向いた。

教室に入ってきたのは、白装束を纏った男だ。その男は手をスッと前にやると、急にハトを出してきた。唐突なその行動にフラン以外のE組メンバーが驚く。

ではフランはどうしていたかというと、男が入ってきた瞬間から静かに気配、そして自分の存在までも幻覚で消した。


(転校生については事前に聞いていたんですけどー、この男は誰なんでしょー。まぁ誰であれ、イレギュラーな事は、静観してた方がいいですよねー)


と、そんな理由からだった。何かあった時、相手が自分を認知してるかしてないかの差は大きい。

そうして見事に空気になったフランを白装束の男は全く気づかず、自己紹介を始めた。


「ごめんごめん、驚かせたね。転校生は私じゃないよ。私は保護者。まぁ白いし、シロとでも呼んでくれ」


急に現れ、(顔は見えないが)真剣な面持ちから手品をし、そして笑いながら自己紹介をしたシロに、E組メンバーは若干引いている。しかし、それよりも殺せんせーの方に引いた。


「ビビってんじゃねーよ、殺せんせー!!」

「奥の手の液状化まで使ってよ!!」

「いや……律さんがおっかない話するもので」


生徒でさえ、シロの登場に少し驚いてたくらいなのに、殺せんせーはものすごくビビってたからだ。

何事もなかったかのように殺せんせーは自分の服に戻ったが、何も隠せていない。それでも話を強引に続けた。


「初めましてシロさん。それで、かんじんの転校生は?」

「初めまして殺せんせー。ちょっと性格とかが色々と特殊な子でね。私が直で紹介させてもらおうと思いまして」


そう言ったシロは、不自然に動きを止める。それに疑問をもった殺せんせーが


「何か?」


と聞いた。


「いや、皆いい子そうですなぁ。これならあの子も馴染みやすそうだ。席はあそこでいいのですよね、殺せんせー」

「ええ、そうですが」

「では紹介します。おーいイトナ!!入っておいで!!」


シロはドアに向かってそう言った。シロの視線に釣られたE組メンバーはそのドアをジッと見つめる。けど、ただ一人気配の読めるフランだけは、そのイトナという転校生はドアではなく、教室の後ろ側の外にいるということに気づいていた。だからフランが見ていたのは、教室の後ろだ。


(そこにドアはないですけど、噂の転校生さんはどうやって入るつもりなんでしょー)


そして、他のクラスメイトがどんな転校生が来るかドキドキしてる中、その転校生は現れた。壁を思い切り壊して。

壁が壊れた音でようやくフラン以外のE組メンバーは転校生が後ろから来たことに気づいた。ダイナミックな入室に、教室内は騒めく。


「俺は……勝った。この教室の壁よりも強い事が証明された。それだけでいい……それだけでいい……」


ちょっとどころか、かなり変わった転校生に、全員が反応に困った。殺せんせーも中途半端な顔になっている。しかし、シロはそれらをスルーし、転校生を紹介する。


「堀部イトナだ。名前で呼んであげて下さい。ああそれと、私も少々過保護でね。しばらくの間彼の事を見守らせてもらいますよ」


誰もが困惑する中、フランは


(あの壊れた壁、誰が修理費を出すんでしょー)


なんて事を思ってた。この転校生に動揺しないのは、流石と言うべきか………

そしてもう一人、動揺せず、転校生を見ていた者がいた。


「ねぇイトナ君。ちょっと気になったんだけど、今、外からてぶらで入って来たよね。外、土砂降りの雨なのに……なんでイトナ君一滴たりとも濡れてないの?」


そう、警戒心の高いカルマ君だ。

カルマ君の質問に、転校生はキョロキョロと周りを見渡し、席を立ち、カルマ君に近づいた。


「……お前は、たぶんこのクラスで一番強い。けど安心しろ。俺より弱いから……俺はお前を殺さない」


そして、転校生はカルマ君の頭を撫でた。

完全に舐めきった態度だ。

それに、転校生はカルマ君を一番強いと言ったが、実際に一番強いのはフランだ。けど、今フランは姿を隠してるし、普段から自分の実力を見せてないので、転校生が一番はカルマ君だと思うのは無理はないのかもしれない。

話を進めよう。

カルマ君を撫でた転校生はそのまま殺せんせーの元へ行きながら


「俺が殺したいと思うのは、俺より強いかもしれない奴だけ」


なんて事を言いつつ、殺せんせーの前に立ち、指をさして言葉を続けた。


「この教室では、殺せんせー、あんただけだ」


指をさされた殺せんせーは、そんな転校生の言動を気にも留めない。


「強い弱いとは喧嘩の事ですか、イトナ君?力比べでは先生と同じ次元には立てませんよ」


失礼な態度をとる転校生も転校生だが、殺せんせーも殺せんせーで完全に舐めきった態度で返事をする。

けど、その返しは予想通りだったのか、転校生も気にも留めない。


「立てるさ。だって俺達、血を分けた兄弟なんだから」


転校生が懐から殺せんせーと同じ羊羹を取り出しながら言ったその言葉は、とても衝撃的だった。


「「「「「き、き、き、き、き兄弟ィ!?!?!?!?!?」」」」」


これには全員ビックリだ。兄弟と言われた殺せんせーすら驚きのあまり固まっている。表情は全く変わっていないが、フランもその発言に少しは驚いている。


「兄弟同士、小細工は要らない。兄さん、お前を殺して俺の強さを証明する。時は放課後、この教室で勝負だ。今日があんたの最後の授業だ。こいつらにお別れでも言っておけ」


動かない殺せんせーに一方的にそう告げると、転校生は出ていった。


(兄弟、ですかー。ミーそんなの聞いてないんですけどー。でも、中々面白い事になりましたねー)


E組のメンバーが兄弟について殺せんせーに詰め寄る中、フランはそんな事を考えていた。

それからのこと、皆は殺せんせーと転校生の兄弟について話し合っている中、フランは気配と存在を隠しているため、教室で完全にぼっちになっていた。というか、フランはいつも通りサボろうとしたのだが、外は雨でいつものサボり場所は使えないし、報告で聞いていなかった謎の人物シロと転校生の兄弟発言がある為、監視するしかなかったのだ。

しかし、フランは自分がぼっちでも気にしない。流石にルービックキューブは飽きたのか、今度は机の上でジグゾーパズルをやっている。もちろん、幻覚で出したやつだ。そしてルービックキューブと同じく、ピースを揃える途中で一瞬にして幻覚で揃った状態にしている。本当に何が楽しいのだろうか。

そんなこんなで時間は過ぎ、放課後になった。殺せんせーと転校生との対決の時間だ。対決のために、机は教室の真ん中にリング状に置かれている。

勝負のルールは簡単。リングの外に足が着いたらその場で死刑、観客に危害を与えても負けというものだ。


「では、合図で始めようか。暗殺……開始!!」


そしてシロの掛け声で勝負は始まった。

始まった瞬間、殺せんせーの触手が落ちた。けど、そんな事よりその場にいる全員が釘付けになったのは、転校生の頭部。いや、転校生の頭部から生えていた触手だ。

殺せんせーが顔を真っ黒にして触手について聞くなら、フランは


(転校生さんには何かあると思ってましたけどー、まさかの触手ですかー。確かにこれならタコせんせーと転校生さんは兄弟って言えますねー。はぁ……これ、報告しなきゃいけないやつじゃないですかー。十代目あのあまちゃんが聞いたら怒りそうですねー)


なんて事を考えていた。

そんな時、殺せんせーに謎の光が当てられた。怒っていて今にもシロに襲い掛かりそうだった殺せんせーの動きが止まる。


「この圧力光線を至近距離で照射すると、君の細胞はダイラタント挙動をおこし、一瞬で全身が硬直する。全部知っているんだよ、君の弱点は全部ね」

「死ね、兄さん」


転校生の触手が殺せんせーを貫く。殺せんせーは死んだかと一瞬思われたが、どうやら脱皮して逃げたらしい。しかし、脱皮直後だとスピードが落ちるらしく、戦いは転校生の方が優勢だった。更に触手の再生も体力を使う。最初に触手を再生していた殺せんせーの動きは鈍い。そして今までここまで追い詰められたことのなかった殺せんせーは焦り、動揺し、触手の扱いがいつもより上手くいっていない。そこにシロのサポートも入れば、いずれ負けるのは殺せんせーだろう。まさしく殺せんせーにとっては絶対絶命というやつだ。

けど、地球を救うチャンスでもある。

中の2人は観客に危害を与えるのは禁止されているが、シロのやっているように外野が妨害するのはセーフだ。E組メンバーが外から銃で狙えば、もっと殺せんせーを追い詰められるだろう。なのに、やらない。


(ここの人達はタコせんせーを殺す気があるんでしょうかー。見てる限り、タコせんせーが死ぬのが嫌という顔をしていますー)


フランの任務は監視だ。だからフランは暗殺をしない。けれど、他のE組メンバーは暗殺をしなければならない。暗殺は、要は相手を殺せばいいのだ。殺せんせーは健康的な暗殺とか言ってるが、それは殺せんせーが強いから言えることだ。弱い者は何が何でも、どんな手を使ってでも相手を殺そうとすればいい。殺したら勝ち。敗者は何も言うことはできない。それが暗殺だ。

なのにE組メンバーは誰も動かない。動こうとしない。それどころか、渚君は対殺せんせー用のナイフを盗られ、殺せんせーはそれを床に置き転校生に当て優位が逆転してしまった。そして転校生は抜け殻に包まれ、窓の外に放り出される。殺せんせーの勝ちだ。

こうして殺せんせーを殺す地球を救うチャンスは消えた。


「先生の勝ちですねぇ。ルールに照らせば君は死刑。もう二度と先生を殺れませんねぇ。生き返りたいのなら、このクラスで皆と一緒に学びなさい。性能計算ではそう簡単に計れないもの、それは経験の差です。君より少しだけ長く生き、少しだけ知識が多い。先生が先生になったのはね、経験それを君達に伝えたいからです。この教室で先生の経験を盗まなければ、君は私に勝ちませんよ」


勝者から敗者への説教だ。今まで殺せんせーは同じ事を何度もしている。そしてそれで更生してきた。けれど今回は少し違ったようで、殺せんせーに説教された転校生はキレた。ガチギレだ。

転校生は触手を暴走させ、殺せんせーの元へ向かう。そんな中、シロが転校生に薬のようなものを放ち、意識を失わせた。机を動かしながらリング内に入り、意識の無い転校生を肩に背負う。そのまま立ち去ろうとしたが、殺せんせーは当然のように止めた。

しかし、シロが来ていたのはたい先生繊維。殺せんせーが肩に触ると、触手は溶けた。そして誰にも止めることが出来ないまま、二人は去っていった。

多くの疑問が残ってはいるが、これで一応一件落着だ。

E組メンバーが殺せんせーを問い詰めてる中、フランは後で揶揄おうと、殺せんせーの恥ずかしがってる姿をビデオに撮り始めた。もちろん存在や気配を幻覚で隠したまま。

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