プール

殺せんせーが泳げないとわかったからといって、E組メンバーは何かするという訳ではなかった。水辺での暗殺チャンスはあまりない上に、水辺に警戒心を持たれて近づかなくなってしまうと困るから、今はまだ静観する事にしたのだ。

どのタイミングで、どうすれば水に引きずり込めるのか。引きずり込んだあとはどうするのか、よく考えないといけない。

そんな中、片岡さんの様子が少し可笑しいという事に殺せんせー、渚、茅野さんの3人が気づいた。3人はこっそり片岡さんの後をついて行くことにした。

ついでに、片岡さんが可笑しいことには全く気づかなかったけど、3人が気づいた怪しい行動をしていると思ったフランも幻術で姿を隠してついていくことにした。

ちなみに骸はフランと同じように姿を隠して他のメンバーの近くにいる。

さて、ファミレスまで付いていった3人とフランだったが、生徒の内情には全く興味のないフランは話を聞き流していた。3人が何故片岡さんの後をつけてるのかも理解していない。

しかし、帰り道までついていったので、殺せんせーが何かをやらかしそうというのは分かった。


(全くタコせんせー自ら面倒な事は起こさないで欲しいですねー)


そう思っていても、殺せんせーがやる事に生徒がいる以上、任務のためについていく。

そして夜が来た。

本当に殺せんせーはやらかしていた。

ベッドごと多川心菜を誘拐したのである。

もし多川心菜が察しのいい人間だったら夢だとは思わないし、両親が自分の娘がいない事に気づく可能性だってある。更に言ってしまえば、ここは自然のプール。本来あり得ない水の流れ、激流を作ると、何が起こるかわからない。生徒のためとは言え、やりすぎだ。


(ここのクラスは結構ヤバい人達の集まりですねー)


なんて思いながら、フランは修学旅行で遭遇した不良達と同じように、多川心菜に"これは夢である"と暗示をかけて帰った。

そんな事があった翌日。

誰とまでは言わないが、どっかの誰かさんがプールを壊すという事件があった。殺せんせーがささっと直したおかげで問題なくプールに入れるが、クラス内はかなりギスギスしていた。

ここに来たばかりの骸はどこか居心地悪そうにしている。


「普段からこんな感じなんですか?」

「ここまで表面化したのは初めてですねー。あそこのグループは暗殺には干渉しない事で反抗の意を見せてましたんでー」

「あぁ、そうなんですか」

「何か気になる事でもありましたかー?」

「昨日、面白いものを目撃しましてね」

「うわっ、師匠ししょーストーカーかなんかですかー?気持ち悪いんで、早く自首してくださーい」

「違いますよ」


そう言って骸は思いっきりフランのリンゴ頭を叩いた。普段なら三叉槍で貫いてるところである。

そんな二人を見ていたカルマ君が、話に入って来た。


「二人とも仲良いねぇ。身内って言ってたけど結局どんな関係なの?」

「ミーはこんな奴身内と認めてませーん」

「フランは一応私の弟子という事になりますね」

「誘拐犯とその被害者って関係ですー」

「何言ってるんですかフラン。最終的に選んだのは貴方じゃないですか」

「間違ってはないじゃないですかー」

「えーと……結局なんなの?」


要領を得ない回答な上に、誘拐犯とかいう単語まで出てきたから、カルマ君は混乱していた。


「簡単にいうなら、フランを引き取りに行った時、嫌がったので帰ろうとしたら、気が変わったのか僕についてきたんですよ」


正確にはフランを引き取りスカウトしに行った時、未来の記憶をなくしているとわかり、性格が悪いフランの面倒を嫌がってヴァリアーに押し付けて帰ろうとしたら、途中で気が変わりやがって、骸についてきた、というところである。

とは言っても、今の2人は同じクラスにいる。つまり、設定上は同じ年齢だ。


「でも二人って同い年だよね?」


疑問に思ったカルマ君は続けて質問した。


「今までのフランを見てきて、貴方は精神的にフランと同い年だと思いますか?」


そんな骸の返答に、カルマ君の脳内では今までフランがやらかしてきた事が数々浮かんでくる。


「あー、うん……そうだね」


結果納得する事になった。一緒にやったイタズラ、フランが1人でやってたイタズラ、殺せんせーへの暴言、馬鹿にする態度……それらを考えると精神年齢が同じと言えないとは当たり前な事だ。実年齢はフランの方が年上だという事は言ってはいけない。

そんな会話があった後、寺坂君が教室で殺虫剤をばら撒いた。フランはその場に居なかったが、骸はその場いた。けれど何かしたと言う訳ではなく、何時ものフランと同じように生徒がどういう動きをとるか見るだけに終わった。

その次の日。

殺せんせーの様子が少しおかしくなっていた。鼻水が止まらないのである。

そして寺坂の様子もおかしくなっていた。急に殺せんせーの暗殺にやる気を出したのである。

おかしい事が2つもあったのに、誰も気づかずスルーされたのは、殺せんせーの体質がイマイチよくわかっていなかったというのと、寺坂君の様子は昨日からおかしかったからなのだろう。

それに、そもそもまだ中学生では何かあってもなかなか疑う事は出来ない。疑う事が出来たとしても、それを言葉に出す事は出来ない。

結果、クラス全員で放課後寺坂君の暗殺を手伝うという事になった。

そして放課後。

クラスの大半が水着でプールにいるという状況になっていた。

ちなみにフランと骸はプール脇で見学している。今日も水着を持ってきていなかったからだ。

骸達がいるところとは別のプール脇に殺せんせーは立っていて、殺せんせーの前に寺坂君が銃を構えている。


「覚悟は出来たかモンスター」

「もちろん出来てます。鼻水も止まったし」

「ずっとテメーが嫌いだったよ。消えて欲しくてしょうがなかった」

「えぇ、知っています。暗殺これの後でゆっくり2人で話しましょう」


そんな会話の直後、寺坂は引き金を引いた。その瞬間プールの堰が爆発した。

不運な事に、骸とフランがいる場所の近くである。

スイッチを押した本人は爆発させるつもりがなかったのだから、2人は自分達の近くに爆発物があると察知できなかった。しかし流石のボンゴレとヴァリアーと言ったところか、2人寺坂が引き金を引いた瞬間に違和感を感じ取り、すぐその場から退避したのである。この2人じゃなかったら大怪我を負っていただろう。

けれど、2人が爆発の射撃から逃れられたとしても、プールの中の人達は違う。水を堰き止めていた一瞬で無くなったのと、爆発の衝撃でプールの水が一気に流れ出したのである。

この先に待っているのは険しい岩場。そこまで行ってしまったら生徒達の命は危ない。

骸とフランと同じく、殺せんせーの反応も早かった。自身が濡れることを厭わずに次々と引き上げていく。

殺せんせーの体調が普段通りならこれでなんの問題もなかった。しかし今は殺せんせーの粘液は出し尽くしていて、水は防げない。

それでも生徒全員を助けた時に、イトナ君とシロは現れた。


「はい、計算通り。久しぶりだね、殺せんせー。ちなみに君が吸ったのはただの水じゃない。触手の動きを弱める成分が入っている。あの坊やにプール上流から薬剤を混入させておいた。前にも増して積み重ねた数々の計算。他にもあるが戦えばすぐにわかるよ」

「さぁ兄さん、どっちが強いか改めて決めよう」


その言葉でイトナ君は殺せんせーを襲い始めた。
















時は、イトナ君と殺せんせーが戦い始める数分前に戻る。

爆発の衝撃から避けた2人は、逃げた先の森の中でフランはダルそうに、骸は面白そうに会話をしていた。


師匠ししょー、こうなる事わかってたんじゃないですかー?黙ってるなんて酷いですねー」

「心外ですね。寺坂という生徒があのシロという謎の人物と接触していたことは知っていましたが、まさか爆弾まで使ってるとは思いませんでしたよ」

「はぁー、めんどくさいですー。帰っていいですかー?」

「ダメに決まってます。ほらさっさと行きますよ」


そうして2人は下流の方へ、生徒達がいる方へ向かって行った。

2人がその場に着いた時には、もうカルマ君の考えた寺坂君を使った作戦が始まっていた。

ちょうど寺坂君が殺せんせーとイトナ君の戦いに乱入したところだ。


「おや、このままだと決まる勝負を邪魔しにいくんですね」

「前の時は見てるだけだったんですけどねー」

「このままでは立場が逆転してしまいそうです。あぁ、ほら木の上にいた生徒は助け出されました」

「暗殺任務が与えられてるのに、その暗殺対象を助けるとか意味がわかりませーん」

「自分達の手で殺したいんじゃないですか?」

「それよりも、今の水しぶきで勝負決まりましたねー」

「自分で聞いたくせに僕の返答はスルーですか」

「パイナップルの声は聞こえませーん」


そう言った瞬間フランのリンゴに三叉槍が刺さった。


「ゲロっ。あ、今カエルじゃなかった。もー何するんですかー?キャラ作り失敗したじゃないですかー」

「そんな事より、この後はよろしくお願いします。僕はあのシロという男を追いかけますので。あ、水の採取もやっておいてください。あの殺せんせーの体質が少しくらいはわかるでしょう。それでは」


骸はそう言うと、シロとイトナ君が逃げた方向へと追いかけて行った。


「全くワガママな師匠ししょーですねー」


2人がそんなやりとりをしている間に、寺坂君はずいぶんとクラスに馴染んだようだった。制服のままのカルマ君を川へ落として、クラスのみんなで水を掛け合っている。


「ああ!!」


そんな時は殺せんせーは唐突に声をあげた。


「えっ、どうしたの殺せんせー」


近くにいた渚君が問いかける。


「プールが爆発した時、その近くに骸君とフラン君が居るのを忘れてました。どどど、どうしましょう……!!!!」

「えぇ!?2人は大丈夫なの!?!?」


ようやく殺せんせーは2人の事を思い出したようだ。けれど今まで忘れていた殺せんせーを責めてはいけない。

爆発の衝撃から避けるために森の方へと行った2人は一瞬で殺せんせーの視界から消えた。代わりに視界に入ってきたのは、流される生徒達だ。その生徒達を助けるためにすぐに行動を起こしていて、その後はイトナ君とずっと戦ってる。

この状態で視界から消えた2人の事を考えるのはちょっと無理がある。

だからこそ一件落着した後に思い出したのだが。


「心配ないですよ。僕もフランも無事です」

「忘れてたなんて酷いですねー。ミーは生徒じゃないんですかー?」


殺せんせーが思い出して慌ててる中、2人は何事もなかったかのように現れた。本物の骸はシロの方に居るので、今ここに居る骸はフランが幻術で出した偽物だ。けれど偽物だと気づく人はいない。


「フラン君も立派な私の生徒です!それより怪我はありませんか?」

「どちらも大丈夫でした」

「そうですか、それはよかったです」


冷静に考えれば、近くで爆発があったのに2人とも無傷なんておかしい。けれどとりあえず2人の無事に喜んでいる殺せんせーは、その事に気付かなかった。

そんな中フランは骸の言いつけ通りに水を採取していた。骸に渡す分より余分にとる。もちろん余ったやつは殺せんせーへのイタズラ用だ。

殺せんせー、今度フランからのイタズラに気をつけよう。

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