期末テスト

骸が来てから1週間。最初に言っていた通り、骸はイタリアに帰ることになった。

最後の授業は骸の送別会だ。

骸はフランのようにカオスなイタズラをする事もなく、律のような機械でもなく、イトナの様に謎の男と組んで殺せんせーを殺そうとしているわけでもなく、E組にとってはいたって普通な留学生だったため、それなりに受け入れられていた。

なかなかクラスに馴染んでいたので、骸がイタリアに帰るという事を悲しむ生徒は多い。

実際は、何か問題があれば理由をつけてそのままクラスに居座るつもりだったのだが、フランは一応クラスに溶け込めていたのでまぁ、このまま任せてもいいだろうという判断が下されたので、骸は帰ることになったのだ。

また、先日のプールの件で新たにシロという人物の研究施設がわかったので、骸はそっちの潜入任務が与えられたという理由もある。

とにかくこうして骸はE組のみんなに惜しまれながらクラスを去った。

その次の週。

椚ヶ丘中学校はテスト1週間前となった。

前回のテストでは、事前に知らされていたものとは大きく範囲を変えられ、あまり良い成績が残せなかったので、今回こそはとみんな張り切っている。

さらにやる気を出させようと、殺せんせーは教科ごとの学年1位に触手を1本破壊する権利をあげると約束した。

足を数本破壊されたくらいじゃ殺されない自信があるのだろう。

さて、前回成績5教科も総合も全てトップだったフランはどうしているかというと、完全にやる気をなくしていた。

言われたことに抗いたくなるのがフランである。

そんなフランは勉強する気もないのに、磯貝くん達と一緒に図書室へ来ていた。

一応席には座っていない。ただし、図書室内を探検と称してフラフラしていたので、あの大きなリンゴ頭が目に入った人にとってはフランは邪魔でしかないだろう。どんなに集中していても、リンゴが横切れば気になる。

フランは意図せず勉強を妨害していた。

一緒に来ていた磯貝君達からするとフランは同じくクラスでずっと過ごしていたので、もうどうでもよくなっている。というか諦めている。

こんな感じで図書室に勉強しに来た人たちはフランにイライラされられている中、E組メンバーは勉強に集中していた。

そんな時。


「おや、E組の皆さんじゃないか!」


私語厳禁な図書室内で割と大きな声を出して話しかけて来たのは、五英傑と言われるA組の皆さんだ。


「もったいない、君達にこの図書室は豚に真珠じゃないのかな?」

「どけよザコ共。そこ俺らの席だからさっさと帰れ」


E組というだけで酷い言われようである。


「な、何をぅ!?参考書よんでんだから邪魔しないで!!」

「茅野、読んでる本みえてるよ」


しかし本人達はそれを物ともしない。むしろ本校舎でもいつも通りマイペースだ。


「ここは俺達がちゃんと予約取った席だぞ」

「そーそー。クーラーの中で勉強するなんて久々でチョー天国〜」

「君達は本当に記憶力無いなぁ。この学校じゃE組はA組に逆らえないの!成績が悪いんだから」

「えー、そんな校則ありましたー?ミー、そんなの知りませんでしたー」

「フラン!?」


A組がE組に話しかけて来た時は遠くにいたフランがいつのまにかこちらへ来ていた。

面白そうな事が起こってると気づいたのだろう。


「は、リンゴ?」


A組メンバーは突然来たリンゴの被り物をしたフランにビックリしている。

フランと接触出来る可能性のあった修学旅行の電車ではE組とA組の場所はかなり離れていたし、全校生徒が見ていた球技大会では、試合に出た時はリンゴの被り物ではなく普通にヘルメットを被っていたので、リンゴ頭のフランを知らない、または球技大会の奴だと同一人物だと気づかないのは仕方がない。

驚いているA組を無視して、フランは続けて言った。


「それにー、A組の人物が順番すら守れないんですかー?A組って意外と子供なんですねー」

「う、うるさい!E組のくせして、A組を悪く言うつもりか!?」

「順番を守る守らないってー、クラス関係ありますー?」

「ないね」

「ないよね」

「ないな」


フランの口撃にE組メンバーが乗って来た。

普段から殺せんせーを挑発しているフランを見ているので、同調するくらいは出来るのだ。


「くっ……と、とにかく!E組はA組に逆らっちゃいけないんだよ!!」

「逆らえます!」

「何……?」

「私達次のテストで全科目で1位取るの狙ってるんです!!そしたら大きな顔させませんから!!」

「ミーは狙ってないですけどねー」

「フランくん、今は黙ってようか」


フランの空気の読めない発言に流石に渚君も黙っていられなかったようだ。


「口答えすんな。生意気な女だ。おまけにメガネのせいでイモ臭い。ギシシシ、なぁ荒木」

「お、おう、小山」

「不思議な笑い方ですねー。ギシシシ……ギシシシ?んー、ちょっともう1回笑ってくれませーん?」

「さっきっから何なんだよお前は!?ふざけた頭しやがって!!」

「えー、ミーのアイデンティティですよー、これー。その言い方は酷くないですかー?泣いちゃいますー、えーん」

「棒読みじゃねーか!!」


すべての空気をぶち壊して敵にすらツッコミを入れさせる存在がフランである。


「ちっ……何だよコイツ、E組にいたか?」

「留学して来たんですよー」

「留学してきてE組ってどんだけ落ちこぼれなんだよ」

「テストで上位とか絶対無理無理」


でも残念ながらフランは前回の成績1位だ。この人達、後で恥かくだろう。もちろんフランの手によって。


「いや、この留学生は知らないが、他の奴らは一概に学力なしとは言い切れないな。神崎有希子、中間テスト国語23位。中村莉桜、英語11位。磯貝悠馬、社会14位。奥田愛美、理科17位。1教科だけなら、一応勝負出来そうなのが揃っている」


他人の成績をここまで覚えているというのは少し気持ち悪い。

ここの学校は本校舎の生徒達には甘いから、誰かの成績が気になった時、先生に聞けば普通に答えてくれる。特にE組生徒達にはプライバシーがない。

学力を気にする学校だからこそ、成績を公開しているのだろうけれど、もちろん公開しない例もある。

そう、フランの事だ。

わざわざ範囲を大幅に変えてE組の成績を落とそうとしたのに、E組であるフランが1位だったなんて言えない。

だからこそ本校舎生徒達はフランという存在を知らず、中間テスト1位が誰かも知らないのだ。


「えー、ミーの情報無いんですかー?中途半端ですねー」

「ならお前回何位だったんだよ!」

「あんなテスト1位に決まってるじゃないですかー」

「は?なんの冗談だよ」

「E組が1位なんてありえないな」

「うわー、A組って情報収集能力なかったんですねー」

「いや僕達もフラン君が1位って知らなかったよ」

「そういえば誰にも言ってなかったですねー。タコせんせーは範囲を変えられていじけてましたしー」

「あぁ、あれね」

「範囲を唐突に変えたのってー、そうしないとE組に負けるって言ってるようなもんでしたよねー」

「確かにそう言えるな」

「で、結局なにがしたいの?こっちは勉強の途中なんだけど。用がないなら帰ってくれない?ズルをしないとE組に勝てないA組さん?」

「あ"ぁ?E組ごときが何言ってんだ?」

「落ち着けよ。じゃあこういうのはどうだろう?僕等A組と君等E組。5教科でより多く学年トップを取ったクラスが、負けたクラスにどんな事でも命令出来る。そこのリンゴ頭の言ってる事が本当だったら余裕だろ?」

「どうした?急に黙ってビビったか?自身があるのは口だけかザコ共。なんならこっちは命かけても構わないぜ」


瀬尾がそのセリフを言った瞬間、渚君達は身近にあったシャーペンや定規、または自らの手を近くにいた五英傑の急所に当てた。


「命は……簡単に賭けない方がいいと思うよ」

「じょっ……上等だよ。受けるんだなこの勝負!!」

「死ぬよりキツい命令を与えてやるぜ!!」


急変した渚君達の態度にビビったのか、五英傑達は捨て台詞を残して逃げていった。

その後学校中にA組とE組がテストの成績で勝負することが知れ渡った。

そして正式に、命令は1つだけ、テストが終わった後に発表する事が決まった。

そんな事があって数日後。いよいよテストが始まる。

問題は、前回と違って事前に知らされていた範囲内から出ているにもかかわらず、前回のテストより難しい。

もはや中学3年生レベルじゃない。

もちろんフランには余裕で解ける。

けど、やっぱり今回は実際のテストを見てもちゃんとやろうという気は起きなかった。

そしてフランは何を思ったのか、問題の解答を全てヒエログリフで書き始めた。

もちろん英語もだ。

漢字を書け、英語で書け、そういう問題ももれなくヒエログリフで回答している。もちろん自分の名前もヒエログリフだ。

ヒエログリフは古代エジプトで使われていた象形文字のこと。すでに学者によって解読されているので、覚えようと思えば覚えられるし、使える。

だからといってテストの解答にヒエログリフを使うのはどうかしている。

真面目にやれば100点をとれるからこそ、落書きをする、括弧を顔文字にする、矢印を引いて炙り出しと書くといったものより性質が悪い。

採点する先生もビックリだろう。というか普通の先生はヒエログリフなんて読めない。

こうしてフランのテストは終わった。

そしてテスト返却日。

まずは1位を発表して、その後に出席番号順に返却されていた。

E組の生徒が学年1位だったのは英語、社会、理科の3つだ。

よって、5教科中3教科とったE組の勝ち。

それによりE組は夏休み、沖縄の離島で開催される椚ヶ丘中学校特別夏期講習を受ける権利を奪ったのだった。

ちなみに、フランの成績は全教科0点。つまり学年最下位である。

答えをヒエログリフなんかで書くからだ。

でも、国語と英語以外は問題文に言語指定はない。解読すればちゃんと正しい答えなのに、ヒエログリフで書いたからといって全て罰にするのは心が狭い気がする。

……いや、やっぱ誰が採点者でもヒエログリフでの解答は罰にするだろう。

完全にフランが悪い。

ふざけた解答をして見事に最下位になったフランは、殺せんせーから怒られた。

けれどフランは殺せんせーの説教なんて気にせず、むしろ怒られている最中に解答用紙で紙飛行機を作り出して殺せんせーへと向けて飛ばして遊んでいた。

言うまでもなくさらにフランは怒られた。

とにかく、殺せんせーが破壊される足は3本……ではなく寺坂達4人が家庭科で1位をとっていたので、合計7本破壊される事に決まり、期末テストは終わった。

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