夏休み

夏休み入ってすぐ、フランはイタリアに戻っていた。

骸には任務について報告をしていたが、自分のボスであるザンザスには全く報告しておらず、今までの報告書を書くついでに溜まってる任務をやってこいとスクアーロに電話越しに怒鳴られたからだ。


(めんどくさいですねー。極秘任務のことなんでアホのロン毛隊長が知ってるんですかー。というか極秘任務をボスに報告する必要無くないですかー?あの人興味ないですよ、ミーと任務なんかにー。あとは他の任務なんてミーがいなくてもマーモン先輩がやればいいじゃないですかー。なんでミーに任務が溜まってるんですかー。ミー他の任務中ですよー)


スクアーロが極秘任務について知ってたのは、ザンザスからフランはしばらく極秘任務で居ないと言われたからだし、フランに任務が溜まってるのはマーモンが報酬のいい任務しかやらないからだ。

あとは普段イタズラしまくってるフランに対する嫌がらせである。

そんなフランは溜まっていると言われた任務の内容を聞いて、帰る途中で何件かこなして、ヴァリアー城に帰ってきた。


「あっれー?アホガエルじゃん。今極秘任務で日本の居るんじゃなかったのかよ」

「うっわー。帰ってきてそうそう嫌な人物に会っちゃいましたー。ベル先輩これ毒です飲んで下さい」


ベルと遭遇したフランは奥田さんが殺せんせーに毒を渡してるのを見てからやろうと思っていたことをやった。


「は?ふざけんなし。なんで王子がそんな事しなくちゃいけないの」

「さすが堕ちちゃった王子ー、心狭いですねー」


毒を飲んでと言われて飲む人は殺せんせーくらいである。


「死ね」


フランの態度にイラッと来たベルはフランに向けてナイフを投げた。

フランは避けなかったのでリンゴ頭にナイフが刺さった。


「痛いですー」

「刺さったなら死ねよ。つーかなんでリンゴなんだし」

「極秘任務にまであんなだっさいカエル被ってらんないですよー」

「は?被っとけよクソガエル」

「今はカエルじゃないですー。じゃあこのクソダサいオリジナルナイフは全部折って返しますねー」

「ふざけんな、磨いて返せ」


またベルはナイフを投げた。

が、今度はフランが幻術で逃げたので当たらなかった。


「あのカエルぜってー殺してやる」


その言葉だけがその場に残った。

一方逃げたフランは、今度はルッスーリアに遭遇していた。


「あらフランちゃん帰ってたのねー!」

「ちゃん付けで呼ばないで下さーい」

「ちょうどクッキー焼いたけどいる?」

「うわ聞いてないやこのオカマ。クッキーはもらっときますー」

「今わけるわねー」


そう言うとルッスーリアは大量に焼いたクッキーを何枚か袋にまとめた。


「はい、どーぞ」

「わー、ありがとーございますー」

「いいのよぉ。任務お疲れ様」

「またすぐここ出るんですけどねー。じゃあミーもう行きますー」

「またね、フランちゃん」


ベルの時と違って何とも平和的な別れ方である。

ルッスーリアと別れたフランは、遠くにレビィがいるのを見つけた。


「あそこに変態雷親父がいますねー」


とりあえず一方的にレビィを気絶させたあと、変なポーズをとらせ、廊下に放置した。そして何事も無かったかのようにそこを通り過ぎた。

それからようやく自分の部屋に戻ったフランは、幻術でスクアーロを何体か出して、自分の代わりに報告書を一気に書かせた。


「アホのロン毛隊長ってこーいう時にしか役に立たないんですよねー」


静かなスクアーロが数人並んで黙々と書類作業をやる異様な空間が広がっている。

そして極秘任務と帰りにやってきた数件の任務の報告書が書き終わったフランは部屋を出て、報告書を提出しに行った。

その途中、今度はスクアーロに出会う。


「う"ぉぉぉおおおい、フランじゃねーか!!」

「うるさいですよー。黙っててくれませーん?」

「帰ってきてたなら報告しろぉぉおお!!」

「だからうるさいですってばー。鼓膜破れますー。今までの報告書ここに置いとくんでー、たいちょーが代わりに出しといて下さーい」

「それくらい自分で出せぇぇえ!!」


スクアーロが言い終わる前にフランは逃げた。

去り際、フランは幻術でスクアーロの髪をツインテールにしていった。

スクアーロがそれに気づくのは、フランが逃げたと気づいてから数秒後である。

こうして溜まった任務の消費、報告書の提出とやる事をやったフランは、その日はヴァリアー城に泊まり、次の日に日本に向かった。

もちろん城を出る前に幹部達へのイタズラは忘れない。

ベルには宣言通りナイフを全て折って返した上に部屋にあった予備のナイフも全て折り、ルッスーリアには砂糖と塩の中身を入れ替え、レビィには一部分だけ髪を剃り、スクアーロには髪を今度は三つ編みにして、任務で居なかったマーモンには部屋にあった黒フードを白フードに入れ替えてきた。

そしてフランは日本に戻ってきた。

普通の夏休みならイタリアにそのまま居てもいいのだろうけど、あいにくとE組は普通じゃない。

特別夏期講習前に暗殺技術が少しでも上がるように特別訓練をするのだ。

その特別訓練を見に行く為、フランはやることをやったらさっさと戻って来たのだ。

そんな今日の訓練は講師としてロヴロに来てもらって来た。


(あー、なんかあの人前にも見たことありますねー)


フランは遠目でロヴロを見ながら、そんな事を思っていた。

遠くから見ているのは、フランが訓練に参加する気など無いからだ。その証拠に皆が体操着で来ているなか、フランは制服で来ていた。

けれど、今回は何もしなかった訳じゃない。

殺せんせーの暗殺計画の中にある精神攻撃のネタの半分を提供したのがフランだ。

最初の一回以外暗殺をせず、訓練にも参加していないフランが精神攻撃の為とはいえ作戦に加わるなんて大きな進歩だ。

さて、フラン以外の生徒達が真面目に訓練している中、烏間先生とロヴロは生徒達について話し合っていた。


「千葉龍之介は空間計算に長けている。遠距離射撃で並ぶ者の無い狙撃手だ。速水凛花は手先の正確さと動体視力のバランスが良く、動く標的を仕留める事に優れた兵士。どちらも主張が強い性格ではなく、結果で語る仕事人タイプだ」

「うーむ。俺の教え子に欲しい位だ。他の者も良いレベルに纏まっている。短期間でよく見出し育てたものだ。人生の大半を暗殺に費やした者として、この作戦に合格点を与えよう。彼等なら充分に可能性がある」


2人ともべた褒めである。


「ところで気になっていたんだが、あそこにいる制服の生徒は?」

「あぁ。六道フラン、留学生だ。留学初日にアイツの手を1本落としている。だが、俺も六道フランの事はよくわからない。調べてみたが何も情報が出なかった。訓練にも普段から参加していない。鷹岡という軍人相手に1度勝った事もあるが、実力は未知数だ」

「そうか。この教室で1番不気味なのはあの生徒だと思ったが、気のせいじゃなかったみたいだな」

「不気味?六道フランが?」

「あぁ。なんでかは知らないが……説明するなら暗殺者の勘といったところか。1度あの生徒の本気を見てみたいものだな」

「なるほど。やはり六道骸と一緒にもっと詳しく調べた方がいいか」

「六道骸?………何処かで聞いたことのある名だな」


裏社会が2つに割れ出したのは10年前からだ。けれど、ロヴロは10以上前から暗殺者をやってる。

だから、裏社会が割れる前の10年以上前から裏社会の人間だったロヴロが10年以上前に裏社会を騒がせたマフィア潰しの六道骸の名前を知っているのは普通だ。

あとはその記憶が残っているかいないかである。


「それはどこで?」

「いや、ここの生徒だったというのなら人違いだろう。年が若すぎる」


幻術の存在をロヴロが知っていたらまた回答は変わったのだろうけど、10年以上前に聞いた名前の人物と15歳な中学三年生が同一人物だと断定するのは無理だったようだ。


「なるほど。けど、同一人物ではなくとも関係者という可能性はあるだろう」

「そうだな。六道骸は10年以上も前に裏の世界で指名手配されていた。理由はマフィアを潰し回っていたからだな。その後捕まったと聞いたが、今はどうなっているのかわからない」

「捕まった……なら関係はないのか?いや、六道骸という名前はなかなか無い。やはり何かあると考えた方がいいか」


烏間先生はフランについて、というより骸についてちょっとだけ情報を手に入れた。だからといってこれ以上進展があるわけでも無い。どんなに調べてもありふれた情報しか出てこないように操作しているからだ。

そしてなにより、フランも骸もこのクラスで問題を起こした訳じゃない。

ただ、素性がよくわからず謎に包まれているから、もしもの為に調べているだけなのだ。警戒はするけど、わからないならわからないで割り切ろうと烏間先生は考えていた。

そのあと2人は少し会話をし、生徒達の指導に戻った。

そして結局フランは最後まで訓練に参加する事なくその日は終わった。

フランが訓練に参加する日は来るのだろうか。

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