潜入

フランは喋らず、ビッチ先生はフランと何を話したらいいのか分からず、気まずい静かな時間が続いていた。


「ね、ねぇ!」

「あ、着きましたよー」


勇気を出してビッチ先生はフランに話しかけた。

しかしその言葉が無かったかのようにフランは言葉を遮った。

相変わらず他人に合わせる事をしない。

ビッチ先生は内心とても怒っているだろう。

逆にフランに対してイラつかない人物がいたら見てみたいものだ。


「おい、そこのお前ら」


そんな2人に、警備の人が声をかけた。

ドレスを着た美女と、顔は整っているがリンゴの被り物をした変なやつだ。組み合わせが謎すぎる。というかフランが謎すぎる。

フロントには話が通っていたようだが、ロビーの警備の人たちには話が通っていなかったようだ。

事情を知らないなら、声をかけられるのも無理はない。

しかしフランはそれをガン無視した。


「おい!お前だよ!」


再度声をかけられるも、フランにその声は届いていない。

まさか自分が声をかけられるなんて思っていないのだ。


「そこのリンゴ頭だ!」


そう言われて肩を掴まれてようやくフランは止まった。


「えっ、ミーのことですかー?」

「お前以外に誰がいるんだよ!!なんだ、その頭は!!」

「ミーのアイデンティティですー。あ、チャームポイントでしたっけ……まぁそんな感じですが何かー?」

「何か、じゃない。いかにも怪しさ満点の格好をしやがって……ちゃんとホテルの許可はあるんだろうな!?」

「そんなもん無いですよー」

「あ"ぁ!?」

「短気ですねー。ミーは来いって言われたから来ただけですよー。もー行っていいですかー?」

「良いわけないだろう!」


ビッチ先生も一応助けようとはした。

けれど口を挟む前にどんどんフランが返答してしまうのだ。そんな暇がなかった。

フランの普通ではあり得ない態度に、騒ぎは割と大きくなり、警備の人がどんどん集まって来ている。

しかしフランが注目されるということは、ちょうど崖を登り、通用口から入ってきて、どうやって上の階へ行こうかと悩んでいた烏間先生達にとってはある意味チャンスだろう。

本人にその気はないが、またしてもナイスアシストである。

フランならなんとかなるだろうと考えた他のみんなは、今のうちに上の階へ進んだ。

ちなみにフランは約5分後、ロビーが騒がしいと気づいたフロントの人たちが駆けつけて、事情を説明をし、その場が解放された。

そうしてフランは堂々と先へ進み、ビッチ先生は一応警備の人が上に行かないようにその場で惹きつけることにした。

そんな感じにビッチ先生は地味に活躍していたのだが、生徒達はもう既に先へ進んでおり、めったにない活躍の場は誰にも見られることはなかった。なんとも不憫だ。

それはさておき、先に進んだフランが他の生徒達と合流したのは、5階でカルマ君がグリップという暗殺者を倒した時である。


「なかなか面白そーな事をしてますねー」

「フラン!」

「無事だったんだ」

「ビッチ先生は?」

「下でまだ警備の人を引きつけてくれてますー。なので騒ぎを起こしてもしばらくは大丈夫ですよー」

「そうか」

「わー、烏丸せんせーがぐったりしてるなんて珍しいですねー」

「3階でも暗殺者とあってね、烏間先生が返り討ちにしてくれたんだけど、代わりに毒ガス浴びちゃって」

「その事はもういい。さっさと次行くぞ」

「はーい」


こうしてフランと合流したE組メンバーは次の階へと進んだ。

次はテラスを通る事になるのだが、正直に言って男子はやる事がない。外で女子達(渚君を含む)が鍵を開けてくれるのを待つのみである。

そして十数分後、中でも何があったのかは知らないが無事に扉は開かれた。


「渚君似合ってますよー」

「いやそう言われても嬉しくないんだけど……」

「いーじゃん、面白いし」

「撮らないでよカルマ君!!」


そんな会話をしながら先へ進んだ。

次は7階。VIPフロアだ。

部屋の外にいる護衛を木村君が全力で煽り、引きつけて、吉田君と寺坂君がタックルをし、持っていたスタンガンで気絶させた。

そして護衛2人が持っていた銃を速水さんと千葉君へ渡して次の階へ進もうとした時。

近くの部屋のドアがガチャリ、と開いた。


「ん?何してるんだ?」


謎の球体に、中学生が複数人、大人が1人。近くには倒された誰かの護衛。

見られてはいけない状況を見られた。

一瞬緊張が走ったが、すぐにこうしている場合ではないと近くにいる人が部屋から出てきた人物を気絶させようとしたのだが……


「お、なんだフランじゃねーか。となるとそっちは全員学校の友達か?」


その人物が発した言葉にここにいる全員が動きを止める事となった。


「アホ馬さんじゃないですかー。こんなところで奇遇ですねー。この人達はミーのクラスメイトですー」


部屋から出てきた人物はまさかのフランと知り合いだったのだ。

もっと詳しく言うなら跳ね馬ディーノ。キャバッローネファミリーのボスである。

もちろんフラン以外でこの場でそのことを知る人はいない。


「相変わらずだなぁフランは。スクアーロは元気か?」

「いつもうるさいですー」

「ふ、フラン君、この人は?」


E組メンバーにとっては謎の人物であるディーノの会話をするフラン。黙っているというか、疑問が抑えきれなくなった渚君は思わず質問した。


「イタリアにいた頃の知り合いですー」

「フランは俺の親友と一緒に住んでたんだよ」

「それにしては日本語がお上手ですねぇ」

「ん?今この球体喋らなかったか?」

「ちょ、ちょっと!?」


謎に包まれているフランの知り合いが気になったのだろう。

さらっと会話に混じろうとした殺せんせーだったが、呆気なくバレた。


「あー、それ新種のペットですー。みんなで飼ってるんですよねー」


そこでフランはフォローになってないフォローをした。

喋る球体がみんなのペットって、誰が信じるんだよ、そう生徒達はみんな思った。


「へー、そうなのか!日本にはこんな奴いるんだな」


だけどディーノのは信じた。


「あっ、そうだ。結局何やってるんだ?」

「潜入ごっこですー。みんなで遊んでましたー」


やはり酷い言い訳だ。

こんな言い訳信じるのはボンゴレボスのお母さんとか、ボンゴレの雨の守護者とか、並盛の人達だろう。……結構いた。

まぁそれはさておき、この言い訳もやっぱりディーノは信じた。


「そうだったのか。じゃあもう俺行くわ!怪我すんなよ!」


そう言ってディーノのはカッコよく立ち去った。数歩後何もないところでコケたが。

思わず駆け寄ろうとする生徒達にフランは


「アレいつものことなんでー、放っておいた方がいいですよー。先に進めなくなりますー」


と言って止めた。

フランは部下がいない時のディーノのがどれほどドジで近くにいる人物も巻き込み何かをやらかし、いろんな意味で厄介なのかをスクアーロから愚痴られている。

他の人達が巻き込まれるのはともかくフランは巻き込まれたくなかった。


「え、でも」


そうグダグダしていううちにもディーノは可笑しいなぁと呟きながら1人で立ち上がり、また歩き出した。

進んだ先の階段で凄い音がしたけど多分ディーノのなら大丈夫だろう。

結局、心配ではあるが時間がないのは確かなので、E組メンバーは先へ進むことにした。


(アホ馬が来るなんて聞いてないんですけどー。師匠ししょーの時と同じくミーがちゃんとやってるか見に来たんですかねー)


なんてフランは予想していた。

実際には見に来たのはフランではなくE組の生徒達だ。

ディーノは日本に別件の用事があって、綱吉に日本に行くならちょっと見て来てくださいと頼まれて、ここに来ていた。だから人外の先生がいることも、暗殺能力を持った生徒達がいることも知っていた。

さっきの会話は茶番だ。全部知った上で質問して、知った上でフランの回答を信じたフリをした。

いくら部下がいないとドジっ子になるとはいえ、それでも長年マフィアのボスをしているのだから、一般人くらい騙せる能力は持っている。

ちなみに転んだのも階段から落ちたのもガチだ。

何年経ってもディーノの究極のボス体質というのは変わらない。

まぁとにかく、ディーノが生徒達を観察していたと誰も気づかないまま、みんな先へ進んだ。

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