vs.ガストロ
そこに来たのはガストロ。銃の扱いが得意な暗殺者である。
「……14、いや15匹か?呼吸も若い。ほとんどが10台半ば。驚いたな。動ける全員で乗り込んできたのか」
そう言ったガストロは唐突に照明を撃った。
「言っとくが、このホールは完全防音でこの銃はホンモノだ。お前ら全員撃ち殺すまで誰も助けに来ねぇって事だ。お前ら人殺しの準備なんてしてねーだろ!!大人しく降伏をしてボスに頭下げとけや!!」
わざわざ殺す前に降伏しろだなんて、お優しい暗殺者だ。
だけど降伏する訳にはいかない。というかそもそも敵の暗殺者の言葉なんて信じられない。
速水さんはガストロの銃を狙って撃った。
それは外れて後ろの照明に当たったが、その弾は降伏する意思なし、という意味もある。
こうしてE組対ガストロの戦いが始まった。
ガストロはまず、ステージの照明を点けて、自分を相手から見にくくさせた。
相手が実弾の銃を持っていると判断してそうしたのだ。
そして
「今日も元気だ。銃が美味ぇ!!」
なんてよくわからない事を言いながら、自分が撃たれた方に向けて発砲した。
その弾道は正確で、あと数センチ速水さんの頭の位置がズレていたら、当たっていただろう。灰色とは言え、さすがプロの暗殺者といったところか。それにプラスして、どうやらガストロは元軍人らしい。
そして敵の位置を把握する術や、銃の調子を味で確認する感覚を身につけた事を語った。前者はともかく、後者は何がどうしてそうなったのだろう。
まぁとにかく、ガストロの能力は結構高い。
実弾が入った銃を持ち、扱っている人はプロ。能力が高い相手にE組生徒達は恐怖心を抱いた。
そんな時、ホールに声が響く。
「速水さんはそのまま待機!!今撃たなかったのは賢明です、千葉君!!君はまだ敵に位置を知られていない!先生が敵を見ながら指揮するので、ここぞという時まで待つんです!!」
その声にE組は安堵し、ガストロは困惑した。一体どこから指示を出しているのか、と。
答えはガストロの目の前の席である。完全防御形態になった殺せんせーがニヤニヤ笑っていた。
これにイラッときたガストロは殺せんせーに向かって銃を乱射した。けれど当然のごとく殺せんせーにはただの銃は通じず、完全に球の無駄となっている。
「熟練の銃手に中学生が挑むんです。この位の視覚ハンデはいいでしょう」
なんて言っているが、暗殺の訓練を受けている中学生集団ならそのハンデは大きすぎるのではないだろうか。なにより単純に今の殺せんせーの形は何もしてなくてもニヤニヤ笑ってるので、誰でもイラっとくる。
どんな暗殺者でさえ、これでは冷静な判断は出来ないだろう。
しかし、殺せんせーが出した指示は、更にガストロを混乱させるものだった。
「では木村君、5列左へダッシュ!!寺坂君と吉田君はそれぞれ左右に3列!!死角ができた!!この隙に茅野さんは2列前進!!カルマ君と不破さん、同時に右8!!磯貝君左に5!!」
そう、殺せんせーは場をシャッフルしだしたのだ。けれどまだ足りない。
先程ガストロは語っていた。自分は敵の位置を把握するのが得意だと、それはもう高らかに。自分の手の内をバラすなんて本当に愚かとしか言いようがない。
殺せんせーは名前で指示出していたのを、出席番号、あだ名、本人と特定できる情報で指示する事に切り替えた。
名前だけならともかく、コロコロ変わる呼び名全てを把握して、覚えられたら、それはもう天才だろう。
ガストロはそこまでの天才ではなかった。
「出席番号12番!!立って狙撃!!」
どこに千葉君がいるか大体あたりをつけていたガストロは、そこを撃った。けれど撃たれたのは人形で、全て殺せんせーの計算通り。
その間に本物の千葉君は発砲した。その弾は狙い通り照明を吊っていた金具にあたり、落ちてきた照明がガストロに直撃した。そしてそれでも銃を離さなかったところを、速水さんが撃ち、銃を弾き飛ばした。
フルボッコである。というか何故あの勢いで落ちてきた照明が当たって、ガストロはまだ意識があるのだろうか。流石に銃を弾き飛ばされた衝撃で床に倒れたが、なかなか丈夫だったようだ。
倒れ込んだガストロを見て、E組生徒達はわらわらと出てきた。そしてガムテープで、ガストロを拘束する。E組の勝利だ。
さて、一瞬気を失ったガストロだったが、勝利して喜んでいる生徒達の声ですぐに目覚めていた。そしてすぐに恐怖した。
自分がが感じた気配は15人だったはずなのに、何故か16人いる。ボスから1番警戒するのは防衛省の烏間だと言われていた。その人物の気配ばギリギリ感じている。では、誰だ。この俺でも気配がわからない人物は誰だ。
そう考えながら、ガストロは唯一動かせる目だけで必死に探した。
それはすぐに見つかった。むしろなんで気づかなかったんだと思うほど目立つ格好なのに、目で見ても気配を感じない存在だ。
そう、りんごの被り物をしたフランだ。
フランは息をするごとく当然に、完璧に自分の気配を殺していた。
フランは灰色どころか真っ黒なボンゴレの暗殺部隊に所属しているのだから、ガストロが今まで気づかなかったのも無理はない。というか気づけという方が無理だ。
そしてE組メンバーはガストロがフランに恐怖していた事に気付かぬまま、先へ進んだ。
その道中。
烏間先生の力が徐々に戻ってきたようで、途中にいる護衛をボコボコにしている。
その間に律が最上階のパソコンカメラに侵入したようで、上の様子が観察できるようになった。
「最上階エリアは一室貸し切り。確認する限り残るのは……この男ただ1人のようです」
つまりそいつが黒幕だ。
ついに見えた黒幕の存在に、生徒達は怒りをあらわにしている。だけど殺せんせーと烏丸先生は冷静だった。殺し屋の使い方を間違えているから黒幕は殺し屋ではないないことを見抜いていたのだ。
ちなみにフランはどこまでも無関心だった。
それから、渚が寺坂君が実はウイルスに感染してるということに気づく出来事があったものの、他のメンバーにはそのことを言わず、階段を登り、最上階へとたどり着いた。
今更感ハンパないが最上階に来てようやく生徒たちはなんば歩きをして音を減らした。気配は消えてないし、音も微かにしているが、先程よりはマシだろう。
そうして一歩一歩慎重に近づいて、ようやくターゲットを視認した。
後ろを向いていて、気づいている様子はない。近くには配線のついたスーツケースがあり、中にはウイルスの治療薬が入ってると思われる。配線のついた物の正体はプラスチック爆弾。黒幕の手元にあるリモコンが起爆スイッチだろう。
気づかれずに接近する。気づかれたら烏間先生が撃って生徒全員で一気に襲いかかる。そういう作戦だった。けれど一気に動く前に黒幕が発言した。
「かゆい」
その一言で動こうとした全員の動きが止まる。
「思い出すとかゆくなる。でもそのせいかな。いつも傷口が空気に空気に触れるから……感覚が鋭敏になってるんだ」
そして彼は大量のスイッチを空中に放った。
「言ったろう。もともとマッハ20の怪物を殺す準備で来てるんだ。リモコンだって超スピードで奪われないよう予備も作る。うっかり倒れ込んでも押す位のな」
この声は、この場にいる全員が聞き覚えのある声だった。
生徒達が驚愕の表情を浮かべている中、その正体に薄々気づいていた烏間先生が緊張した声色で話し出す。
「……連絡がつかなくなったのは、3人の殺し屋の他に身内にもいる。防衛省の機密費……暗殺に使うはずの金をごっそり抜いて……俺の同僚が姿を消した。……どういうつもりだ、鷹岡ァ!!」
そう、黒幕の正体は鷹岡明。夏休み前に体育教師として来て、反抗した生徒達の代表として渚君にあっさり負け、そのあとフランにボコボコにプライドをへし折られたあの鷹岡明である。
明らかに異常な姿になった鷹岡をフランはどうでも良さそうに見ていた。
「悪い子達だ……恩師に会うのに裏口から来る。父ちゃんはそんな子に教えたつもりはないぞ。仕方がない、夏休みの補習をしてやろう」
気持ち悪い笑みを浮かべながら、鷹岡は言う。
「屋上へ行こうか。愛する生徒達に歓迎の用意がしてあるんだ。ついて来てくれるよなァ?お前らのクラスは……俺の慈悲で生かされているんだから」
手にスイッチを持ちながら言う姿はとても慈悲があるようには思えない。もはやそれは脅しである。
そして場所は屋上へと移る。