vs.鷹岡

屋上ということもあり、そこそこ強い風が吹いていた。


「気でも違ったか、鷹岡。防衛省から盗んだ金で殺し屋を雇い、生徒達をウイルスで脅すこの凶行……!!」

「おいおい俺は至極まともだぜ!これは地球が救える計画なんだ。おとなしく2人にその賞金首を持って来させりゃ……俺の暗殺計画はスムーズに仕上がったのにな」


そうして鷹岡が語った計画は確かに殺せんせーを殺せるものだった。生徒と一緒に対殺せんせー用の弾、殺せんせーを一緒に入れてコンクリで固めれば、殺せんせーは身動きが取れない。生徒達は悪魔的だと思っているが、ちゃんと一緒に埋まる生徒が呼吸できるようにすれば、全然使える計画だろう。けれど、そのために生徒達にウイルスを感染させる意味がわからない。

結局、鷹岡のそれは復讐に過ぎなかった。


「……許されると思いますか?そんな真似が」


殺せんせーの声は怒りに震えている。


「これでも人道的な方さ。おまえらが俺にした……非人道的な仕打ちに比べれりゃな」


むしろ生徒達を非人道的な扱いをしようとしたのは鷹岡の方なのに何を言っているんだろうか。


「屈辱の目線と騙し討ちで突きつけられたナイフが頭ン中チラつく度にかゆくなって夜も眠れなくてよォ!!落とした評価は結果で返す。受けた屈辱はそれ以上の屈辱で返す。特に潮田渚と六道フラン!!俺の未来を汚したおまえらは絶対に許さん!!」

「うっわ、見事な逆恨みですねー。中学生相手に恥ずかしくないんですかー?あっ、既に恥を晒した後だから問題ないんですねー。納得ですー」


鷹岡はちょっとおかしくなっていたが、フランは相変わらずだった。


「黙れ!お前らの半分が俺の指先で減るって事忘れんな!!」

(別にミーは半分減っても問題無いんですけどねー)


流石にそれは言葉にしないフランだった。


「まずはチビ!お前からだ!!この上のヘリポートまでお前1人で登ってこい」


茅野さんが渚を引き止めたが、渚は治療薬を貰うために要求を飲んだ。

ヘリポートで鷹岡と渚が向き合う。そして鷹岡はヘリポートを繋ぐハシゴを落とした。


「これでもうだーれも登って来れねェ」


このヘリポートには最初から二本のナイフが置かれていた。


「足元のナイフで俺のやりたい事はわかるな?この前のリターンマッチだ」

「……待って下さい、鷹岡先生。闘いに来たわけじゃないんです」


自分達が追い出した相手に対してまだ先生と呼ぶなんて律儀である。


「だろうなァ。この前みたいな卑怯な手はもう通じねぇ。一瞬で俺にやられるのは目に見えてる。だがな、一瞬で終わっちゃ俺としても気が晴れない。だから闘う前にやる事やってもらわなくちゃな。謝罪しろ。土下座だ。実力が無いから卑怯な手で奇襲した。それについて誠心誠意な」


殺せんせーは健康的な、とか堂々とした、とか言っているが、本来暗殺とは卑怯な手を使ってでも相手を殺すものなのではないだろうか?殺しに良いやり方も悪いやり方もない。結果が全てだ。

それは鷹岡の方がわかっているはずなのだが……やはり言ってることが無茶苦茶だ。

その後、渚は鷹岡の指示通り土下座して謝罪した。全ては治療薬を貰うため。けれど鷹岡は嘲笑いながら、スーツケースを爆発させた。


「あはははははははは!!そう!!その顔が見たかった!!夏休みの観察日記にしたらどうだ?お友達の顔面がブドウみたいに化けてく様よォ!!はははははははは!!」


鷹岡は狂ったように笑う。そんな中、渚に憎悪の感情が生まれた。


「殺……してやる……殺してやる……よくも皆を!!」


彼は完全に正気を失っていた。それを歓迎するのは鷹岡だ。


「ははははは!その意気だ!!殺しに来なさい渚君!!」


このまま戦えば、渚は確実に負けるだろう。

けれどこの状態のまま、戦わせるE組では無かった。


「チョーシこいてんじゃねーぞ渚ァ!!」


寺坂君が渚を叱咤する。


「寺坂君の言う通りです渚君」


そしてそれに続き殺せんせーも渚を宥める。

鷹岡は邪魔するなと言っているが、誰が敵の思い通りに動くと言うのだろうか。


「渚君、寺坂君のスタンガンを拾いなさい。その男の命と先生の命、その男の言葉と寺坂君の言葉、それぞれどちらに価値があるのか考えるんです」


また、渚の空気が変わった。前に鷹岡と戦った時と同じような空気だ。渚はスタンガンを拾って、腰に装備した。

そして渚は動き出した。しかし、前のように暗殺に持ち込もうとしても上手くいかない。当たり前だ。鷹岡は前と違って最初から戦闘モードに入っている。

体格も技術も経験も全て鷹岡が上という中、渚が勝つのは難しい。実際に渚はボコボコにされている。けれど、彼は笑顔だった。まるで自分が負けることはありえないというかのように堂々としている。

あの時と同じように渚はゆっくりと鷹岡に向かって歩き出した。

鷹岡の脳内にあるのは負けた時の記憶。渚の脳内にあるのは、どう相手に勝つか。そうなった時点で、勝敗は決まっていた。

ナイフを捨て、猫だましを相手にぶつける。そこで怯んだ隙にスタンガンを当てた。

電気に痺れた鷹岡は膝をつき、渚はスタンガンを相手の顎に当てる。


「鷹岡先生。ありがとうございました」


渚はやっぱり笑顔でお礼を言った。


「「「「「よっしゃぁぁぁ元凶ボス撃破!!!」」」」」


渚の異常性にそのほとんどが気づかぬまま、生徒達は鷹岡が倒されたことを素直に喜んでいる。


「今回はミーの出番なかったですねー」

「なんだよフラン、戦いたかったのか?」

「いいえー、すでに正気を失っている人を煽ってもなんも面白くないのでー。ミーの番が来る前に渚君が倒してくれてよかったですー」

「あはは、フランは相変わらずマイペースだな」


しかしさっき鷹岡に向けて言っていた言葉は煽りでは無かったのだろうか??

黒幕を倒して空気が緩み、和気藹々とした雰囲気がその場に流れる中、今までに倒してきた殺し屋の3人が屋上へとやってきた。


「お前達の雇い主は既に倒した。俺は充分回復したし、生徒達も充分強い。これ以上互いに被害が出る事はやめにしないか?」


烏間先生はそう言っているが、後ろにいる生徒達は戦う姿勢を見せている。

けれど最初から殺し屋達は戦うつもりなんてなかった。

あっさり要求を飲むと、続けて生徒達に感染させたウイルスは別のもので、命の危機はない事を説明した。


「使う直前にこの3人で話し合ったぬ」

「ボスの設定した交渉期限は1時間。だったらわざわざ殺すウイルスじゃなくとも取引はできると」

「交渉に合わせて多種多様な毒を持ってるからな。お前等が命の危険を感じるのには充分だったろ?」


しかしそれは依頼主の命令に逆らうという事でもある。金をもらっておいてそれでいいのかという質問に、ガストロはプロがなんでも金で動くと思ったら大間違いだと言い放った。

そしてカタギの中学生を大量に殺した実行犯になるか、命令違反がバレる事でプロとしての評価を落とすか、どちらが今後にリスクがあるのか秤をかけたのだと。彼らはどこまでもプロで、冷静だった。

そして、ポツリと言う。


「それに裏社会の秩序は怖いからな……」


この言葉を聞き逃す生徒達ではなかった。


「秩序?」


裏社会の秩序。正確には灰色社会の秩序と黒の社会の秩序に分かれている。どちらも復讐者が守っているのだが、10年前に色々あったため、灰色の方を風紀財団が、黒の方をボンゴレが手伝っていた。

つまり灰色の方で秩序を乱したものはあの雲雀に噛み殺されるかもしれないので、灰色社会全体で彼は恐れられているのだった。

もちろんこんな詳しく知っているのは、今この場にいる人だとフランしかいない。

が、フランは今まったく話を聞いていなかったので、この話に関わることもないし、詳しく話すこともない。


「あぁ。ま、裏社会にもルールがあるって事だよ。それを破った人間を正す存在もな」

「それって……」

「まだカタギのお前等に関係のない事だよ。そんなことよりもこの栄養剤を患者に飲ませて寝かしてやんな。『倒れる前より元気になった』って感謝の手紙が届くほどだ」


それから殺し屋達は大人しく防衛省の人達についていき、スモッグの残した栄養剤でウイルスに感染した人達も元気になった。

その日の夕方。

コンクリに固められた殺せんせーが元の姿で出てきたのを見て、生徒達はこの事件の終わったのだとようやく思えたのだった。

それから暗殺肝試しなるものが始まったのだが、開催した本人が恐がりな上に目的がスケスケで、あまりにもくだらなかったので割愛させてもらう。

ちなみに自分の仕掛けに自分で驚いた殺せんせーに対して、フランは存分に煽っていた。

前へ | BACK | 次へ
TOP