毒
今日の理科の授業は、お菓子から着色料を取り出すというもの。生徒一人一人が好きなお菓子を持ってきて、実験をした。ちなみにフランが持ってきたのは不味いと有名なHARIB○のシュネッケンというグミで、ドイツ語でカタツムリを意味する通称タイヤ味のグミだ。
グミを持ってくるだけ持ってきて、フランは実験は他の人のお菓子を使ったので、そのグミはまるまる一袋余っている。
「お菓子から着色料を取り出す実験はこれで終了!!余ったお菓子は先生が回収しておきます」
そして、こんな感じでその不味いグミは他のお菓子と一緒に殺せんせーにもれなく回収されていった。フランはそのグミを食べた殺せんせーがどんな反応をするか楽しみにしている。
そんな時、一人の生徒が前へ出た。どこか緊張した面持ちで、殺せんせーに一言。
「毒です!!飲んで下さい!!」
「……奥田さん、これはまた正直な暗殺ですねぇ」
これにはマジもんの暗殺者であるフランもビックリだ。
(こんなんで殺そうとする人、初めて見ましたー。正直というか馬鹿なんじゃないですかねー、これ。というかもう死んで下さいって言ってるようなものですよねー。今度ベル先輩に言ってみよう)
そう思いながら、ことの行く末を見守る。
「あっ…あのあの、わ、私皆みたいに不意打ちとかうまくできなくて……でもっ化学なら得意なんで真心こめて作ったんです!!」
それで殺せんせーが飲むわけ無い、クラス全員が思った。が、それを裏切るのが殺せんせー。
「それはそれは。ではいただきます」
そう言って殺せんせーはあっさり毒を飲んだ。そして、なにがどうしてそうなったのかは分からないが、毒を飲んだ殺せんせーからツノが生えてきた。
自分が変わった様子も気にせず、殺せんせーは呑気に味でわかった毒の成分とその効果を説明している。そしてそのまま二本めの毒へ手を出した。ら、今度は羽が生えた。
いつもの丸いフォルムが大分崩れ、なかなか気持ち悪いことになっている。そんな殺せんせーは三本目の毒を飲んだ。一本目と二本目より苦しんでいる。そしてそれが治ったかと思うと、殺せんせーの顔は丸に戻り、そして顔文字みたいに薄くなっていた。
「おおー、なんかすごいですねー」
あまりの変わりように、そんな事をいいながらフランは拍手をした。他のクラスメイトも驚きでザワザワしている。
「先生の事は嫌いでも、暗殺の事は嫌いにならないで下さい」
「いきなりどうした!?」
唐突にネタにはしった殺せんせーだが、イタリアから来て、日本の芸能に疎いフランには通じない。急に変な事を言い出した殺せんせーを、ずいぶん冷めた目で見ている。
そんな目に気づいたのか、殺せんせーは何事もなかったかのように奥田さんに話を戻した。
「それとね奥田さん、生徒一人で毒を作るのは安全管理上見過ごせませんよ」
「……はい。すみませんでした」
一人で毒を作るのは危ないと自覚があったのか、奥田さんはしょんぼりしている。
「
「……は、はいっ!!」
しかし、次の殺せんせーの一言ですぐに笑顔になった。普通に考えれば暗殺対象が自分を殺す毒を作るなんておかしいのだが、奥田さんはそれに気付かない。
そして、放課後、奥田さんは殺せんせーと一緒に毒を作った。
その次の日、奥田さんは笑顔で毒を持って来た。放課後に何があったのか、その毒はなんなのか気になった人達が、奥田さんの周りに集まって昨日の事を聞いている。
そんな中、殺せんせーがようやく来た。
「先生、これ……」
「さすがです……では早速いただきます」
毒を飲んだ殺せんせーが、不気味に笑い出す。
「ヌルフフフフフ。ありがとう、奥田さん。君の薬のおかげで…先生は新しいステージへ進めそうです」
「えっ?それってどういう……」
「グォォォオオオオ!!!!!!!」
奥田さんの疑問を無視してそう叫ぶと、殺せんせーは光り、そして……スライムみたいに溶けた。
ヌルヌルしながらいろんな隙間に入り込む。高速移動しながら殺せんせーは言った。
「液状ゆえに、どんな隙間も入りこむ事が可能に!!しかもスピードはこのままに!!さぁ、殺ってみなさい!!」
その言葉で、皆殺せんせーに銃を放すも、当然当たらない。そんな中フランは、慌てふためいているクラスメイトを傍目に教卓の後ろへ行った。
その動きに気づいた渚君がフランへ近づいた。
「フラン君、何してるの?」
「タコせんせーは今、スライムみたいになって教室を暴れまわってるじゃないですかー」
「え、うん」
「帽子は被ってましたけど、服は着てなかったんで、落ちてないかなーと」
「なるほど」
「あ、やっぱり落ちてましたー」
そう言ってフランは懐からあるものを取り出した。それを見た渚君はフランが何をしようとしたのか気づき、顔が青ざめた。
「え、ちょっ!フラン君、それは流石にヤバいよ」
「大丈夫ですよー(多分)」
渚君の忠告をスルーし、フランが何をしたのかといえば……
「やっぱり何もないと燃えにくいですねー」
懐からだしたライターで殺せんせーの服に火をつけようとしていた。
カチカチと鳴らしながら服に火をつけようとするが、燃えにくい素材なのか、なかなか着かない。そこでフランは幻術でうちわを作った。はたから見れば、急にうちわが出てきたように見えるのだが、フランは気にしない。
「あ、やっとつきましたー」
ライターで火をつけ、うちわで扇いで、ようやく服に火がうった。薄っすらと煙が立ち始める。ちなみにフランが火をつけたのは裾の部分だ。
殺せんせーはまだこのことに気付かないで、奥田さんに国語の大切さを説いている。
「どんなに優れた毒を作れたとしても、今回のようにバカ正直に渡したのでは暗殺対象に利用されて終わりです。渚君、君が先生に毒を盛るならどうしますか?」
「え…(殺せんせー、服が燃やされてることに気づいてないんだ。服の下見たことなかったし、反応も気になるからフラン君のことは言わないでおこう)」
どうやら渚君はフランのことは見なかったことにするようだ。
「うーん、先生の好きな甘いジュースで毒を割って、特製手作りジュースだと言って渡す……とかかな」
「そう、人を騙すには相手の気持ちを知る必要がある。言葉に工夫をする必要がある。上手な毒の盛り方、それに必要なのが国語力です。……ってフラン君何をしてるんですか!?!?」
奥田さんに説きながら服に戻ろうとして、ようやく殺せんせーは服が燃やされてることに気づいた。
「何って……見て分からないんですかー?」
「先生が聞いているのではそういうことではなく、何故火をつけたか聞いているんです!!ここは木造校舎なんですよ?燃え移ったらどうするんですか!?」
「可愛い生徒のちょっとしたイタズラですー。そんなに怒らないでくださーい」
「とにかく急いで火を消して……そうしでした今先生は液状化状態でした。物が持てません………」
「仕方ありませんねー。ミーが責任を持って消しますよー」
と言って、どっからともなく消化器を取り出した。もちろん幻術で出したやつだ。ちなみに有幻覚を使っている。
シュー!と音を出しながら消化器は殺せんせーの服の火を消した。
「はい、これで文句無いですよねー」
「文句しかありませんよ!!先生の服が、白く……」
「タコせんせーの服、いっつも黒でつまんかなったんでー、白くなってよかったですねー」
「フラン君、先生流石にキレますよ!?」
「そんなことより今、タコせんせー少しだけ大きくなった気がするんですけどー、服に戻んなくて戻んなくて大丈夫ですかー?」
殺せんせーはそもそも、そろそろ薬の効果が切れそうだから服に戻ろうとしたのだ。それをフランの足止めをくらい、戻れず、ずっといたらどうなるのか。普通にそのまま戻るに決まっている。
ここで、殺せんせーの頭の中で二択が生まれた。無残にも白くなってしまった服を着るか、このまま生徒に服の下の中身を晒すか……
殺せんせーは迷わず服にするりと戻った。そしてそのままググググと大きくなる。薬の効果が切れるのは本当にギリギリだったようだ。
服の裾は焦げ(というか燃えて)、消化器の粉で全体的に白くなったモノを着ている姿はなかなか見苦しい。が奥田さんに国語力の大切さを説明しきてれない殺せんせーは、その姿のまま話し出した。
「えーと、どこまで話しましたっけ……あ、上手な毒の盛り方まででしたね。奥田さんの理科の才能は将来皆の役に立てます。それを多く人にわかりやすく伝えるために、毒を渡す国語力を鍛えて下さい」
「は、はい!!」
「なんかいい感じに締めてるけどさ、殺せんせーその姿で言われても説得力ないよ」
カルマ君が笑いなが言った。他のクラスメイトも殺せんせーの姿にクスクス笑っている。
「にゅやぁぁあーー!!!こうなったのは全部フラン君の所為ですよ!!!!!」
「人の所為にしないで下さーい。調子にのって教室内を暴れ回ってたタコせんせーが悪いんですよー」
「フラン君はいい加減先生のことを殺せんせーと呼んで下さい!!」
「あ、さりげなく今話変えましたねー。図星?まぁどっちにしろ、呼び方はタコせんせーから変えませーん」
こんな感じでフランはE組に馴染んでいくのだった。