ビッチねぇさん
「今日から来た外国語の臨時講師を紹介する」
「イリーナ・イェラビッチと申します。皆さんよろしく!!」
このE組に、今度は臨時講師が来た。
「……そいつは若干特殊な体つきだが、気にしないでやってくれ」
「ヅラです」
「構いません!!」
新しい先生は、とても美人で、胸を大きくはだけさせた格好をしていて、何故か殺せんせーにベタベタしていた。
「本格的な外国語に触れさせたいとの学校の意向だ。英語の半分は彼女の受け持ちで文句は無いな?」
「……仕方ありませんねぇ」
(そういえば昨日、
潜入任務なのだから、当然任務の報告をする。その相手は骸で、フランは定期的に骸と連絡を取っていた。そんな中、昨日殺し屋来ると言っていたのをフランは思い出した。
(死ぬ気の炎も使えない灰色の方の殺し屋が、このタコせんせーを殺せるとは思えませーん。政府は何を思って殺し屋をこの教室に送るんでしょー。まぁ、ミーには関係無いですけどー)
裏社会は、もう二つに完全に分かれてる。分かれ方は具体的に、死ぬ気の炎が使えるか使えないかだ。炎を使える方の住人は、使える方を黒といい、使えない方は灰色と密かに言っている。
黒から見れば、どんなに優れた暗殺者でも、死ぬ気の炎が使えなければ凡人だ。逆に技術が低くても、死ぬ気の炎が使えれば、使えない人には勝てる。いつしか裏社会はそんな風になっていた。
さて、フランは死ぬ気の炎が使える。そして、イリーナ・イェラビッチは使えないどころか存在すら知らない。だからフランから見れば、どんなにハニートラップの達人でも、死ぬ気の炎が使えないイリーナ・イェラビッチは雑魚なのだ。
フランが新しく来た先生に興味を持つことはなかった。
否
「ビッチねぇさん」
「略すな!!」
カルマ君に弄られた反応を見て、イタズラの相手には面白そうと、少し興味を持つのだった。
時は少し進み、英語の時間。ビッチねぇさんは授業はせず、殺せんせーの暗殺方法を考えていた。
いくら暗殺教室といえど、このクラスは3年だ。受験が控えてる。E組、ということもあり、しっかり授業を受けて勉強したいのに、それが出来ないのは、なかなかストレスが溜まる。
「なー、ビッチねぇさん。授業してくれよー」
「そーだよビッチねぇさん」
「一応ここじゃ先生なんだろ、ビッチねぇさん」
ここで少しでも生徒の事を思いやっていれば良かったのに、ビッチねぇさんは完全に生徒を舐めきっていた。
「あーーー!!!!ビッチビッチうるさいわね!!!まず正確な発音が違う!!あんたら日本人はBとVの区別もつかないのね!!」
そしてビッチねぇさんは逆ギレしだした。
「正しいVの発音を教えてあげるわ。まず歯で下唇を軽く噛む!!ほら!!」
素直な生徒達は教えてくれるのならと、それに従う。しかし、ビッチねぇさんには何かを教える気はない。
「……そう。そのまま一時間過ごしていれば静かでいいわ」
そう言うと、生徒を放置するのだった。皆のストレスはどんどん溜まるばかりだ。
ちなみにフランは発音なんて完璧だし、ビッチねぇさんには期待をしてなかったので、そもそも授業を受けてない。要するにサボりだ。E組校舎の屋根の上で寝ている。
日陰がない屋根の上では、暖かい日差しが何にも遮られる事なく、フランはぬくぬくとまどろんで気持ちよくゴロゴロしていた。しかし、突然体育倉庫から聞こえたマシンガンの音で完全に意識が覚醒してしまった。
「はぁ……うるさいですねー。なんで対タコせんせー弾以外の銃を使ってるんでしょー。まぁでも、なぜ銃が効かないのかは確認する必要はありますかー。……見にいきましょー」
そう呟くと、ねっころがった状態から腹筋の力だけで起き上がり、屋根伝いで体育倉庫の方へ歩きだした。銃声はまだ止まない。
屋根の端っこに着き、フランはクルリと一回転しながら下に降りた。そして音も出さずに着地すると、幻術でコップを出した。因みに気配は屋根の上でサボってたあたりから消してるので、殺せんせーとかに居ることがバレる心配はない。
フランは銃声が聞こえなくなるのを待ってから、コップを壁にあて、中の会話をどうどうと盗聴し始めた。
「…ざ…ね…ですが……リーナせ…せい。…たしにな…りの…ま…きかない……す。た…ない……べてとけて…ま……でね…」
(んー、やっぱコップじゃ聞きにくいですねー。大体は聞き取れたんで別に問題ないですけど。それとなんかジューって音が聞こえますー。玉が溶けた音っぽいですー)
普通の人なら内容がほとんど分からないくらいには音が聞こえないはずだったのだが、流石ヴァリアーと言ったところか、フランは普通に聞き取っている。そしてそのまま、また盗聴を再開した。
「そし…わた……かお………み…く…さい」
「め……よ……に?」
「いい…どれか…たつは……のあ…です」
「まぎらわしい!」
急に大きく聞こえて来たビッチねぇさんの声に思わずビクッとなり、フランはコップから耳を話してしまった。
(あ……。まぁいっか。なんで普通の銃が効かないのかは分かりましたー)
聞きたいことを聞けて満足したフランは、コップを消し、ジャンプして屋根の上に登った。サボり続行である。
フランは、ビッチねぇさんの悲鳴やクラスメイトのざわつきをガン無視して、またゴロゴロし始めた。
その後ビッチねぇさんの態度についにキレたE組全員(フランを除く)がビッチねぇさんを追い出し、ビッチねぇさんが謝り、先生と呼ばれるようになる出来事があるのだが、その時も見事にサボっていたフランには関係ないことであった。