カルマくん

月に1度の全校集会。留学して来たばかりのフランはまだ、参加したことがなかった。

それに気づいた渚は、フランに話しかけた。


「フラン君、次の集会、一緒に本校舎まで行かない?」

「え、わざわざ本校舎まで歩いて行かないとダメなんですかー?」

「うん。校則で昼休みを返上して行くって決まってるんだ」

「じゃあサボりますー」

「でも、不参加だとペナルティーとかあるよ?」

「それは全然問題ありませんよー。むしろ歩いて本校舎まで行く方がめんどくさいですー」

「フラン君がいいって言うならいいけど……わかった。皆に言っておくね」

「お願いしまーす」


と、フランは渚君の善意をスルーし、即サボることを決めたのだった。

皆が本校舎に向かって歩いてる頃、フランにとってはもうお馴染みとなっているサボり場所、E組校舎の屋根に登ろうとしていた。が、視界の端にチラリと映った赤い髪を見て、登ることはやめ、そちらの方へ歩いていった。そして声をかける。


「君もサボりですかー?」

「うわっ!?……ビックリした、フラン君か。気配全然分かんなかったよ。そう、サボりだよ。本校舎までいくのは怠くてさ。まぁ俺、成績はいいし罰くらっても問題ないからいいんだけどね。そーいうフラン君もサボり?」


そう、フランが声をかけたのは、同じくサボっていたカルマ君だった。


「サボりですー。ここから本校舎まで歩くとか、意味わかりませーん」

「あはは。やっぱめんどくさいよね。しかも俺らはE組だから、あっちに行ってもロクなことないし」

「なんと。ならサボって正解でしたねー」


事前に聞いていたE組の扱いを考えれば、カルマ君の言うロクなことない、というものを容易に想像できたフランは、サボって良かったと安心した。めんどくさいことには巻き込まれたくないのだ。


「フラン君とは気が合いそうだよ」

「ミーもカルマ君とは気が合いそうな気がしますねー。主にタコせんせーに対するイタズラのこととか」

「なら、今度殺せんせーにイタズラ、一緒にやろうよ」

「いいですよー。どんな物にしますー?」


そうしてカルマ君とフランはどんなイタズラを仕掛けるかの話し合いをやりだした。殺せんせーにとっては、完全に混ぜるな危険、である。


「じゃあ、シュークリーム(inからし)をプレゼントするとか?」

「タコせんせーに味覚系のイタズラは向いてないと思いますよー。前、お菓子から染色料を分ける実験したじゃないですかー。その時タコせんせーが最後に余ったお菓子は集めるだろーなと予想して、こっそりタイヤグミ混ぜたんですけど、なんの反応もありませんでしたー」

「え、そんなことやってたんだ。俺達が気づかないってことは、殺せんせーにとってはなんの問題もなかったんだろうね」

「ですねー。反応がないのでとてもつまんなかったですー。あ、ホラー系はどうでしょー?」

「そういうのはやったことないね」

「ではやってみましょー」


殺せんせーにホラー系のイタズラをすると決めた2人は、早速準備に取り掛かった。今度と言ってたのはなんなのだろうか。

二人は意気揚々と山を降り、いかにもなホラーグッズから無駄にリアルで何処か怖いマネキンを買い込んで、より怖くするために血糊やカツラの髪などで細工した。よくサボってる2人だ。授業のことは気にしないで作業した。

そうして職員室の殺せんせーの机に出来上がったのが、見事なホラー空間だ。

どういうものかちょっと説明していこう。

殺せんせーがよく使っていたコップには100均のオモチャの眼球が入っていて、さらにはリアルさを追求するために水、食紅、野菜の絞り汁、片栗粉などで作った血糊をコップの3分の1程までに入れてある。ペン入れにはこれまた100均のオモチャの指が何本か刺さっており、ここにも血糊がぶちまけてある。机の一番上の引き出しからは気持ち悪い量の黒髪(全部カツラ)がでていて、一番下の引き出しからは血塗れの手がのぞいていた。机の上には絶妙に怖い具合に壊れた血糊付きのマネキン(首だけ)が置かれている。椅子にはフランが幻術で出した、呪われてそうな日本人形がひしめき合っている。総合的に見て、このホラー空間はよっぽどホラー耐性がついてないと、誰でも発狂するレベルに仕上がった。

因みにカルマ君は、日本人形はフランがいつの間にかどっかから持ってきたものと認識している。

さて、こんな感じに集会、6時間目、放課後を使って無駄にクオリティの高い対殺せんせー用のイタズラを作った2人は、なんとなく前よりも仲が良くなっていた。


「やっと終わったー!」

「殺せんせーの反応をみるには、明日は早く来なきゃいけないですねー」

「どうだろう。殺せんせー決まった時間に来る訳じゃないからさ」

「じゃあもうカメラとか仕掛けた方が早い気がしますー」

「なら、岡島あたりにカメラ借りようか」

「そうしましょー」


2人は岡島君からカメラを借り、それを職員室にセットした。これで、イタズラするための全行程は終了である。


「明日の殺せんせーの反応が楽しみだよ」

「……………一つお聞きしたいんですけど、カルマ君はミーに対する警戒心は解けましたー?」


唐突にフランが話しを切り出した。


「え、気づいてたんだ。俺が警戒してたこと」

「まぁ、ミーはそういうの、すぐわかるタイプですからねー」


いつも飄々とした態度でいて、普通なら分からないかもしれないが、カルマ君には野生的な警戒心がある。それは、転校してきたフランにも遺憾無く発揮されていた。いや、普通ならもっと軽い警戒で済んでいたのに、フランは初っ端から殺せんせーの足を一本切り落とした為、カルマ君のフランへの警戒度がかなり高かったのだ。

大抵は警戒してることすら気づかせないように隠しているカルマ君だか、暗殺者ヴァリアーであるフランには、簡単に警戒されてるな、と気づかれてしまうのは仕方ないと言えよう。


「まぁ、さっきまではそこそこ警戒心、解けてたと思うよ。でも、今のフラン君の言葉でちょっと戻ったかもね」

「えー、それは困りますー」

「俺に警戒されてて何か困る事でもあるの?」

「だって、カルマ君がミーに警戒してたんじゃ、いつまで経ってもクラスに馴染めないじゃないですかー」


と、いうのが表向きな理由。

じゃあ本当の理由はなんなのかというと、それは任務の為だった。

フランが潜入任務で任されたのは"監察"だ。殺せんせーに対する監察はもちろんのこと、監察の対象はE組メンバーも含まれていた。殺せんせーは生体調査。E組メンバーは、暗殺の技術をどれだけ習得し、そしてそれをどう使う人柄なのか、という調査だ。メインは殺せんせーの方だと思われがちだが、実はE組メンバーのほうがメインだったりする。

ボンゴレが勢力あげれば殺せる殺せんせーよりも、これからどうなるか分からないE組メンバー、つまり不安定要素に重きを置くのは当たり前かもしれない。

話を戻そう。

簡単に言うと、E組メンバーを監察するのに、警戒されていたのでは正確な情報は得られない。だからフランは、カルマ君に警戒されているのは困るのだ。


「授業とか集会をサボってるフラン君がクラスに馴染みたいようには見えないけどね」

「そんなことないですよー。これでも友達が欲しいお年頃なんですー」

「じゃあ、アドバイスしてあげるよ。俺はそのリンゴの被り物を外せはもっとクラスに馴染みやすくなると思うな」

「えっ、このリンゴはミーのチャームポイントなんですよー」

「チャームポイントの意味わかってる?」

「それくらい知ってますー」


と、こんな感じにフランは会話を続け、じわりじわりとカルマ君の警戒心を解いて行くのだった。

完全に解けるのは、もう少し先になりそうだ。

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