04

とある、花宮の下僕の家。


「ま、待ってくれ波人くん!!」

「ごめんなさい、もう必要ないんだ」


花宮は今、下僕の整理をしていた。古橋の家に住む事になり、衣食住がまともになった為、それらを提供していた下僕はもう必要無くなったからだ。

しかし、花宮は自分に害が出ないように完璧に下僕達をせんn……ではなく魅了していた。完璧に魅了された人が関係を切られようとして、あっさり納得して簡単に別れてくれるわけがない。


「なんでだ!!今までこんなにキミに尽くしてきたのに!!理由を説明してくれ!!」


と、こんな感じにめっちゃゴネていた。

しかし、そうなったらもう終わり。花宮が本性を現す時間である。


「しつこい。なんでお前みたいなショタコンにわざわざ俺が説明しないといけねーんだよ」

「え、波人……くん??」

「可愛い可愛い波人くんなんて最初からいねーよ。自分の理想の子供がそんな簡単に現れて自分に懐くと思ってんの?どんな妄想すればそんな思い込みが出来るんだよ。お前馬鹿だな」


素直に波人くんとお別れをしていれば、こんなキャラ崩壊を見なくて済んだのに……この下僕、憐れすぎる。

あまりにも急な人格の変化に下僕は唖然としているが、じわじわと事態が飲み込めてきたのか、下僕もといショタコン野郎は怒りを露わにした。


「……騙してたのか?この俺を、騙してたのか?」

「嫌だなぁ……都合の良い事ばかりを信じ込んで、勝手に自分の理想的な波人くんを作ったのはお前だろ。俺はお腹すいたとは言ったけど、一言も食べ物が欲しいなんて言ってないし、家に帰り辛いとは言ったけど、泊めてほしいなんて言ってない。いやー、本当に勝手に俺を憐れに思って色々恵んでくれてありがとう。とても都合の良い人間だったぜ」

「大人をなんだと思ってるんだ!!!!」

「都合の良い玩具」


花宮はにっこり笑った。

とても良い笑顔だ。今の状況を楽しんでいるからでた笑顔なので、いつものような歪んだ笑顔でも、作られた笑顔でもない。とてもレアな普通の笑顔である。本性を知らない人が見たら普通に天使だと思う。もしかしたら花宮ガチ勢の古橋が見たら、あまりの可愛さに倒れていたかもしれない。

ここにいるショタコン野郎も、こんな状況でなければ見惚れていただろう。可哀想な事に現在可愛い波人くんという幻想をぶっ壊されたこのショタコン野郎はキレた。


「ふざけるなぁぁぁぁぁぁ!!!!」


花宮とショタコン野郎の間にあったテーブルを横になぎ飛ばし、花宮に殴りかかる。

その時、パトカーのサイレンの音が近づいてきた。


「パトカーみたいだね。どうやらこっちに来ているみたい。近くで何かあったのかな?それとも……子供が居ないはずなのに子供を家に連れ込んでるって、近くの人が通報しちゃったのかな?」

「は?」


花宮はあえて波人くんを演じて言った。それは、悪魔のような表情で悪魔のような事を言うのではなく、天使のような表情で悪魔のようなことがを言った方がダメージが与えられるから。というかもはや悪魔のような、ではなく悪魔そのものである。前世からこれなので、この性格は一生治らない。

ちなみに花宮が言った近くの人とは、近くで待機させている人、つまり古橋のことである。相手を逆上させに行っているようなもんなのに、何もしないでいるはずがなかった。


「お、俺は無理矢理連れ込んでない!!」

「それ、警察の人が信じてくれると思う?」

「子供の嘘なんて簡単に見破られるに決まってんだろ!!」


この人は今まで花宮に騙されていたのにもう忘れたのだろうか?もう見た目的に40歳は超えているだろうに……いい歳して情けない。


「冤罪ってなんで起きるか知ってるか?」

「な、なんだ急に」

「やった事を証明するのは簡単だけど、やってない事を証明するのは極めて難しいからだよ」

「それがどうした!!」


その時、"ピーンポーン"とこの家の玄関のチャイムが鳴った。

花宮はタイミングを見計らって叫ぶ。


「助けて!だれか!助けて!!」


ショタコン野郎はその行為にギョッとして、思わず花宮の口を手で塞いでしまった。花宮は暴れて、それも反射的に抑え込もうとしてしまう。

そこに、警察が突入してきた。

ショタコン野郎は花宮の片手で体を抑え込み口をもう片方の手で塞いでいて、花宮は警察に見られる時にはすでに涙を流している。花宮が逆上させたから、部屋はぐちゃぐちゃに荒れている。

誘拐犯とその被害者の完成だ。


「その子から手を離しなさい!」

「俺は誘拐なんてしてない!本当だ!こいつが望んで来たんだよ!」

「ならその子を離してもいいはずだ」


警察とショタコン野郎がそうやりとりしている間にも花宮は必死に抵抗して、自分の口を押さえられていた手を外し、叫んだ。


「助けて!はなしてよ!」

「うるさい!俺を騙してたくせに!黙ってろ!」

「分かったから、落ち着こう。その子を話してから詳しい話は聞く」


そう警察が言っているものの、ショタコン野郎は自分が誘拐犯だと思われていることがわかっていた。

警察の目が言ってるのだ。こいつは犯罪者だと。子供の安全を脅かす誘拐犯だと。彼らは蔑んだ目でショタコン野郎を見ていた。まさかこんな子供が大人を騙して誘拐犯に仕立て上げたなんて思うわけがない。


「うるさいうるさいうるさいうるさい!!!!俺をそんな目で見るな!!!!俺は誘拐犯なんかじゃない!!!!」

「その子供を離してくれたらちゃんと詳しく話を聞きますから」

「黙れ!!俺に近づくな!!」


最初は2人だった警察官も、後からどんどん応援が来ているのか、いつのまにか人数が増えていた。

この部屋の構造は玄関を入ってすぐにキッチン、トイレとお風呂があって、その奥に6畳の洋室がある、ありふれたアパートの一室だ。そのため、警察がショタコン野郎を囲もうにも、なかなか囲めない。

状況は悪化していた。


「いやだ!たすけて!!」


というか花宮が悪化するように仕向けていた。

花宮は小さくなったことで身体が動きにくくなったり事あるごとに保護者が必要だったりと色々制限がかけられたが、それ以上に自分が子供だということを有効活用していた。大人は大人を警戒する。けれど、大人は子供をなかなか警戒しない。それ故に、花宮は以前よりずっと人を騙しやすくなっていたのだ。


「うるせぇ!!!全部お前の所為だ!!!お前なんかいなければ!!!お前がいなければ!!!」


信じていた天使の崩壊、その天使だと思っていた子供に陥れられ、警察からは犯罪者の目で見られる。自分は何も悪くない筈なのになんで、どうしてだ!どうしてこうなった!!

ショタコン野郎は花宮の思惑通り順調に壊れていった。壊れたショタコン野郎が出した答えは……


(なんだ……こいつを消せばいいのか)


というものだった。

答えを出して喚くのをやめたショタコン野郎は静かになり、憎悪の篭った目で花宮を見る。そしてその存在を消そうと手を振り上げた。

そのまま殴ろうとしたその時。


「確保ーー!!!!」


ショタコン野郎は唐突に捕まった。

目の前の警察と憎悪の対象に気を取られて、本人は気づかなかったが、実は後から来た別の警察官が隣の部屋のベランダからこの部屋のベランダに来て、そのまま静かに後ろから忍び寄って来ていたのだ。状況が均衡しているように見せかけていただけで、本当はずっと誘拐犯を確保する機会を伺っていた。

警察も馬鹿じゃない。


「離せ!コイツを消さないと!コイツを消せば俺は!」

「何を言ってるんだ」


ショタコン野郎は波人くんの存在を消そうとすることに囚われていて、とても会話できるような状態じゃなくなっていた。

これから冷静になって、警察に波人くんとの元々の関係、そして騙されていたことを話してももう警察は信じないだろう。警察は完全に彼の事を狂った犯罪者として見ている。

ショタコン野郎は元から花宮に目をつけられる程度にはまともじゃなかったが、そのまともじゃない部分を最大限に引き出したのは花宮だ。

花宮と出会った時点でショタコン野郎がこうなるのは決まっていたのかもしれない。





その後、警察は波人くんを保護。少し時間を置いてからハル兄が迎えに来て、2人は家に帰った。

その家の中での会話。


「あんなに派手にやって良かったのか?」

「あぁ、問題ない。俺が疑われることはないからな」

「花宮が楽しそうで何よりだ。あと何人いる?」

「関係を切るだけのやつなら色々いるが、壊せそうなのは3人くらいだな」

「そうか」

「1人はお前にも関わらせる予定だから、準備しとけよ」

「わかった」


と、少々物騒な会話をしていた。

とりあえずこの後3人は花宮により人生が狂わされることが決定しているらしい。そのうち1人は古橋も必要だなんて……花宮は何をするつもりなのだろうか。

恐ろしいものである。