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コナンくん達が作戦を立てている間、犯人グループは外に出す人を20歳以上の男性から、20歳以上の男女に増やしていた。
人質が多いと扱うのが大変なのはわかるが、なぜ最初からそうしなかったのだろう。むしろ、扱いにくい泣き叫ぶ子供を母親から引き離し人質に残すなんて、何がしたいのだろうか。
ちなみに少年探偵団と一緒に来ていた阿笠博士は、犯人グループが放送をかけた後、中央ホールへ向かう人の波にのまれ、子供達と逸れた為、大人しく指示に従って中央ホールへと向かっていたので、外に出されている。
こんな感じに人質が全員20歳以下の子供にしたところで、犯人グループのリーダーはとあるスイッチを押した。
その瞬間、モール内は爆発音に包まれた。
その音を聞いて、コナンくんは誰にも見つからないように通路に出て、犯人追跡メガネの機能に入ってる望遠鏡機能で状況を確認した。
(出入り口が全て爆破されている!?もともとシャッターで出入り口は塞いであったはずなのになぜ??それに、爆発したら自分達の逃げ道を防ぐことにもなる……あいつらは非常口から逃げるつもりなのか……??いや、爆発の前にサイレンの音が聞こえたから、もうこのショッピングモールは警察に囲まれているだろう。そんな簡単には逃げれない筈だ。ん?中央ホールにいる人が減っている?見たところ若い人か子供しかいないが……犯人グループは一体何をするつもりなんだ!?)
と、いう事らしい。
コナンくんはもっと詳しい状況を探ろうとしたが、犯人の1人がこちらへ来た為、ゲームセンターへと戻った。
けれど、なぜか人数が足りない。そう、花宮と古橋の姿がなかったのだ。
「お前ら!波人兄ちゃんと春越さんは!?」
「ここに人数が固まっても仕方がないから、別行動するって言ってたわよ」
「波人お兄ちゃん、ハル兄に守ってもらうから大丈夫だって……」
「でも心配だよな!」
「止める間もなく行っちゃいましたもんね」
コナンくんと会いたくないがために、買い物をやめて帰ろうとしていた彼らだ。今こんな状況になったからといって、一緒に行動するはずがなかった。
コナンくんは花宮に相当嫌われている。
「あら、私の探偵バッジは渡してあるわよ」
「えぇー!!いつの間に!?」
「ここに彼らが来てすぐだったから、最初から別行動するつもりだったみたいね」
「そうか……無事を祈るしかねーな」
「何かあったら連絡すると言ってたけど、彼、探偵バッジの使い方知ってるのかしら」
「波人にぃちゃんならきっと大丈夫だぜ!」
「そうだといいな。とにかく俺らは俺らで動くぞ。絶対に勝手に動くなよ。俺のいうことを聞いて、慎重に動くんだ」
「「「わかった!!」」」
「じゃあまずは……」
こうして少年探偵団は状況を打破するために動き出した。
コナンくんが状況を確認している間に、さらっと抜け出した花宮と古橋は、1つ下の階の、洋服屋に来ていた。とりあえず手っ取り早く犯人の1人を捕まえて、尋問しようとする算段だ。
まず、とあるアパレルショップの試着室のカーテンを全て閉め、その1つに古橋が隠れる。全部閉めたのは、1つだけだったらとても目立つし、逆に全部開けててもすぐにそこに居ることがバレるからだ。
そしてその一番奥で、花宮はしゃがみこんで、泣いた。ちゃんというなら泣いた演技をした、なのだが、どちらにせよ犯人にはわからないだろう。けれど、泣き声を上げれば、当然花宮の存在には気づく。
「おいガキ!!放送聞こえなかったのか!?」
「ひっ……!!お母さん、お母さんどこ?たすけて、お母さん……」
「チッ……おい!大人しくこっちに来い!!そうすれば命だけはっ!!」
犯人が花宮に気を取られているうちに、古橋は試着室からでて、後ろから犯人の首を絞めた。そしてその間に花宮が立ち上がって、ジャンプして犯人の持っていたライフルを奪った。
「こんなにあっさり行くなんてな。バカだからカーテンが全部閉まってるなんて違和感には気づかねーか」
「暴れるな。このまま締め落とすこともできる」
「騒ぐなよ。何かあったら俺は子供だから、間違ってこの銃の引き金を引くかもしれない」
犯人が大人しくなったのは、急に後ろから押さえられたことよりも、急に態度が変わった花宮に驚いて固まったからにも見える。さすが花宮だ。
それから2人は、犯人をバックヤードから持ってきた紐で縛った。その際、無線とか、腰につけてたナイフとかも奪っている。
尋問の開始だ。
「それじゃ、お前らの目的を教えろよ」
「はっ!誰がガキに教えるかよ!!」
「へー、まだそういう事言える余裕があんだな。それじゃ、指を一本一本折られていくのと、この針で爪と指の間を刺されていくの、どっちがいいか選べよ」
花宮はどこから持ってきたのか、裁縫針を手に持っている。そして古橋は指をポキポキ鳴らして、指を折る準備をしている。
「お前らにそんな事出来るかよ!!」
「すまない、手が滑った。で、聞こえなかったんだが、もう一回言ってくれるか?」
古橋は犯人の顔のすぐ横の壁を殴った。
「……ほ、ほれみろ!実際には殴ってねーじゃんかよ!!」
犯人は強がっているが、今ちょっとだけ震えている。やはり怖いのだろう。というかなにもしなくても古橋の目のハイライトは終始消えているので、何をするかわからない感じが常に出ていて、普通に怖い。
「わかった。じゃあとりあえず針からな。ハル兄、押さえてろ」
「わかった」
古橋が相手の体を暴れないように押さえて、花宮は背後に回る。そしてなんの躊躇もなく、右手の親指の爪の間に針を刺した。
「あ"ぁっ!!!」
「これ、全部の指にやられたいか?」
「わ、わかった!!言う!言うから!!」
そうして犯人は渋々計画を話し出した。この犯人、痛みに弱い。
とにかく、犯人が話した内容を簡単にまとめると、人質1人につき300万円の身代金と、脱出用のヘリを要求して、捕まえられる前に建物を崩壊させるレベルの残りの爆弾を爆発させ、その対応に追われているうちに逃げるつもりだったらしい。起爆スイッチは最初に発言したリーダーが持っているそうだ。
人質の年齢が低ければ、親はみんな必死に我が子のために身代金を払う確率が高くなるだろう。それも法外な値段じゃなくて300万なら、どうにか工面すれば払える人もちゃんといるはず。1億とか100億とか馬鹿げた数字を要求するよりは、確かによく考えられている内容ではある。最初にある程度人を逃がしてから、人数調整していれば、そこそこいいところまで成功したかもしれない。
それも全部この場所に花宮が居なかったらの話だ。
「くだらねー計画だな」
花宮はそう言い切った。
「全部話したんだから、もういいだろ!!解放してくれよ!!」
「ここで解放する馬鹿がいるかよ。ハル兄」
名前を呼ばれただけで花宮が何を望んでいるか理解した古橋は、犯人を殴り、意識を落とした。そして口にガムテープを貼って騒げないようにすると、試着室へと隠した。やけに手慣れている気がするが、きっと気のせいだろう。深く考えてはいけない。
「とりあえず今の情報を江戸川コナンに流すぞ」
「了解」
花宮は、哀ちゃんから借りた探偵バッジで、犯人から聞いた情報をそのまま流した。そしてどうやってその情報を得たかということを聞かれる前に、3階から上の犯人はコナンくん達が、2階から下の犯人は花宮達が捕まえることにして、通話を切った。
(他のやつらがいたら主人公には絶対連絡しなかったんだけどな……古橋もいたからどっかにはいそうだが、今考えても仕方ねーか。さっさと黒豹とかいう意味のわからない厨二グループ壊滅させよう……)
思わず出てきた残りのレギュラーの顔を振り払い、花宮はどうやって壊滅させるか考え始めた。
「1つの階につき2人、さっき見た感じだと、ボスは3人組で全体を回っているようだな。あいつらはどうせ死なないから、ボスはあいつらに押し付けよう。俺らはボスが上に行っている間に下に行く」
「じゃあまずはこの階のもう1人だな」
「そうだな。ライフルの扱いに慣れてなかったから、正面から行ってもハル兄なら勝てるだろ」
「わかった、花宮の期待に応えよう」
そして宣言通り古橋はこの階にいた犯人のもう1人を正面から倒した。あっさりしているが、本当に相手が銃を撃つ暇もなく一瞬の出来事だった。
「もしかして前より身体能力上がったか?」
「あぁ。もしかして花宮もか?」
「いや、俺は前より相手をコントロールしやすくなったな。……なるほど、この世界の奴らがちょろいんじゃなくて俺の能力が上がってたのか」
「2度目だからだろうか」
「さぁな。何かしらありそうだが、また後にしよう。無線を聞く限り、3階にいた2人はもう少年探偵団がやったみたいだ。ボスは今4階だな」
「ずいぶんと都合が良いな」
「この世界は主人公に都合よく出来てるからな」
「主人公……??」
「は?まさかお前ここがどこか知らないのか?」
「……??米花町のショッピングモールだな」
「ハル兄、名探偵コナンって漫画知ってるか?」
「前世で名前を聞いたことがあるが、興味がなかったからどんな漫画かは知らないな」
「お前……まじかよ……」
どうやら本当に古橋はここが名探偵コナンの世界だと知らなかったらしい。
流石の花宮も、それは予想をしていなかった。
どんなに興味なくても国民的アニメだ。実際花宮も興味はなかったが、ざっくりとした内容くらいは知っていた。逆に言えばざっくりとした内容しか知らなかったから主人公に会うまでは気づかなかったわけだが……古橋は主人公にあっても気づかなかったわけだ。
この2人でこの先やっていけるのだろうか。
「まぁいい、ここがどこだろうと相手は人だ。なんとかなるだろ。さっさと一階の敵倒すぞ」
「わかった」
……問題なくやっていけそうである。