07

少年探偵団達は、水を撒いた滑りやすい床を作って、犯人を誘導してそのまま転ばせて気絶させたり、コナンくんの麻酔銃を使ったりと、みんなで協力しながら順調に3階の犯人達を倒していた。

子供達が4階を伺ってる中、花宮と古橋はというと、1階と2階の間の階段の踊り場で止まっていた。


「そういえば、1階には人質がいるよな?」

「あぁ、そうだな」

「チッ、全員死んでくれねーかな。人質の前で犯人グループを壊滅させたら流石に目立つ」


物凄い悪態をついている。

花宮は犯人グループ追い詰めているが、ヒーローになりたい訳じゃない。ただ、人の絶望顔を見て楽しみたいだけなのだ。

今回は人の目が邪魔だった。


「1階の敵は放置するのか?」

「いや、人質を見張ってる2人組だけ放置して、残りは気絶させる。見回ってる2人組と、あとはスタッフルームにもいるはずだ。館内放送を乗っ取っていたからな。それと、荷物の搬送用の出入り口もか」

「了解した」

「じゃ、あとよろしく」

「波人くんは?」

「爆弾解除するんだよ」


花宮はニッコリ笑った。

子どもらしい、とても良い笑顔だ。

それを見た古橋は、口を手で押さえて、思わず下を向く。


(……尊い)


完全にやべーやつである。

しかしそれは花宮にとって見慣れた反応。特に気にすることもなく、上機嫌で来た道を戻って行った。


(あの主人公に追い詰められて、爆弾のスイッチを押した時に爆発しなかったら、それはそれは良い顔をしてくれるだろうな)


なんて事を考えながら。

この時点で花宮は犯人とコナンくんが対峙するのを見に行くと決めている。

この良い顔というのは当然絶望顔だし、それは犯人だけではない。爆弾のスイッチを押されてしまったら、爆発しなくてもコナンくんは良い顔をする。

流れでそうなったらいいけど、ならなかったら花宮は2人に介入してこの状況を作る気満々だった。

2人の良い顔を見るのはさぞ楽しいだろう。

だから花宮は上機嫌で爆弾の元に向かったのだ。

途中、文房具屋からハサミとドライバーをくすねてきて、見張りの居なくなった2階を探索する。


(建物を崩壊させるレベルとか言ってたが、アイツらがそんな事計算してできるほど頭いいとは思えない。なら、馬鹿でもわかりやすい内側の支柱にでも爆弾を仕掛けるだろ。さっき通った時に見かけなかったってことは……あ、あった。小型のプラスチック爆弾だな)


爆弾は吹き抜け側にある支柱の足元に、観葉植物で隠すように置かれていた。

どこで覚えたのか、慣れた手つきでカバーを外して、爆弾を解体していく。

どうしてそんな事が出来るのかとか、ツッコんではいけないのだろう。だって花宮なのだから。

あるいは、山崎あたりなら、ツッコめたかもしれない。





場所は変わって、階段の踊り場。

花宮が2階に行った数秒後に正気に戻った古橋は、花宮に言われた通りに1階に行き、見回っている2人組を締め落としていた。

続いて、staff onlyと書かれた扉を潜る。

少し廊下が続いていて、扉が4つと、従業員用のエレベーター、従業員用の出入り口があった。

古橋は少し考えたのち、1番手前の扉へ行こうとしたその時。


「あ」

「うわぁ!?」


ドアノブに手をかける前より先に扉が開きらばったりと犯人グループの1人と出会してしまった。

唐突な古橋という存在に、犯人は驚く。その隙を逃す古橋ではない。というか、声をあげられた事で、反射的に犯人にボディブローをくらわせていた。

これではもはやどっちが被害者なのかわからないが、これも深く考えてはいけないのだろう。だって古橋なのだから。

そうしてボディブローをくらった犯人は怯み、流れで古橋は犯人を気絶させた。

気絶した犯人を、元いた部屋に隠す。

その部屋にはもう1人気絶した人がいた。


「……ここの警備員か」


部屋には、防犯カメラの映像が複数流れている。

どうやらここは監視室だったようだ。

そこで古橋は考えた。

今、花宮に頼まれているのは、人質を見張っている2人組を除いた、残りの犯人グループの制圧だけだが、目の前にはちょうどよく監視カメラのデータがある。

別に見られて困ることはしていないが、このデータがなかったら、何をしていたのかという警察からの追及も無くなるのでは?と。そして、そっちの方が花宮の手を煩わせないで済むのでは?と。

カメラの映像を消そうと結論を出した古橋は、行動に移した。

まずカメラを止め、今日のデータを消去し、ついでに過去のデータが入っているであろうディスクを物理的に壊した。

過去の分まで壊したのは、データを消したのは犯人グループだと偽装するためだ。

今まで、監視カメラが動いていたのは、犯人グループが人質を見張るためにはそっちの方が便利だし、どうせデータは爆発して壊れると思っていたから。けど、爆弾は花宮が解除しているので、爆発しない。そうすると、当然ここは警察に調べられる。その時に、今日のデータだけ消えていたら、何故今日だけのデータを?と思われるかもしれない。
なぜなら、ここまで大掛かりな立てこもりをしたのだから、犯人グループは過去に何度も下見に来てるだろうと考えるのが普通で、自分たちの正体を隠したいなら、その下見の時のデータも壊すと思うのが一般的だからだ。

ここまで考えた上で、古橋は過去のデータまで壊した。

物理キャラになっているが、古橋も元は進学校である霧崎第一出身。普通よりは頭が良い部類に入る。

下僕達とは違い、花宮に言うことしかできない馬鹿ではないのだ。言うことを聞くのは当然として、その上で古橋は常に花宮の為になることを考えて行動している。

そうしてデータを壊すと、古橋は隣の部屋へと移った。ロッカールームのようだが、そこには誰もいない。その隣の部屋もロッカールームで、その隣はスタッフの休憩室。倉庫などや荷物搬入用のエレベーターはまた別の場所にあるのだろうか。そうなると、まだ犯人達が残っている可能性がある。

古橋はとりあえず鍵のかかっていた従業員用の出入り口を開け、外から警察が入って来やすいようにした。

なお、このまま外に出て助けを求めることもできたのにしなかったのは、花宮から人質を見てる2人組以外は倒すように言われたからだ。古橋にとっては当たり前のことである。

次の犯人を倒そうと場所を移動しようとした時、携帯に電話がかかってきた。古橋はそれをワンコール鳴る前にでる。


「どうかしたのか?」

《お前今どこにいる?》

「スタッフルームの近くだ」

《で、何人倒した?》

「すまない波人くん。まだ1人しか終わってない」


どうやら相手は花宮のようだ。


《近くに出入り口は?》

「従業員用と思われるものが一つ」

《なるほどな。倒した奴を起こして、犯人グループが全部で何人居るか聞き出せ》

「わかった」


そう言われた古橋は、特に理由を聞くこともなく監視室に戻り、犯人を叩き起こした。

さて、どうして花宮はそんなことを聞いたのか。時は数分前に戻る。





花宮は早くも3つ目の爆弾解除をしていた。

そこで花宮は疑問に思った。


(これも時限式爆弾なのか)


今まで解体した2つも時限式爆弾だったのだ。

一応、遠隔操作で爆破できるように組み込まれている。だから犯人がスイッチを押せば確かに爆発するだろう。けれど、なぜ時限式にもなっているのか……

現在の時間を考慮すると、設置した時間から3時間後に爆発されるようになっているそれは、とても犯人の意思で止められるようにできていない。

3時間で脱出用のヘリを用意してもらうまで警察と交渉できるのか。犯人グループはまだ警察と連絡をとっている様子はない。例え花宮が気づかないところですでに連絡をとっていたとしても、3時間でここから逃げるのはどうあがいても無理だろう。

けれど、花宮達が聞き出した犯人が嘘をついている様子はなかった。というか、嘘をつけばどんな痛いことをされるかわからない状況で嘘の作戦を話す人はなかなかいない。

つまり、これを仕掛けた犯人は"人質1人につき300万円の身代金"という以外の目的があるのでは?そしてそれは仲間にも内緒にしているのでは?

そこまで考えた自分の考えがあっているか確認する為に、花宮は古橋に電話をかけたのだった。











「倒した奴を起こして、犯人グループが全部で何人居るか聞き出せ」

《わかった》


電話を繋げたまま古橋は行動に移したようで、向こう側でなにやら物騒な音が響いている。が、そうなるとわかった上で聞けと言ったので、花宮は特にツッコまない。

そして数分もしないうちに古橋は電話口に戻ってきた。


《もしもし》

「どうだった?」

《合計で15人のグループだそうだ》

「へぇ……お前の近くにモールの見取り図はあるか?」


そう聞かれて、古橋は警備室内を見渡す。するとすぐに、お客さん用の簡単なやつではなく、警備用の館内が詳しく書かれている地図を見つけることができた。


《……あった》

「出入り口は全部で何箇所ある?」

《東西南北にそれぞれ1箇所。従業員用の出入り口が東西に1箇所ずつ。トラックなどが出入りする、おそらく荷物の搬送用だろうものが1箇所。階段とエレベーターで地下駐車場に行けるが、車の出入り口を見張るだけと考えるなら2箇所。合計で9箇所だな。あとは、各階に4箇所非常口もある。それを含めれば25箇所になるが……》

「一階をのぞく階は2人組が見回りをしていて、1階は人質の監視に2人、スタッフルームに1人。ボスは3人組で自由に動いてる。ここからじゃわからないが、そろそろ警察と交渉してるか?とりあえずここまでで11人。東西南北にある客用の出入り口は爆破されているから誰も出られない。1階の非常口はさっき客達を使って物で塞がせてたな。3階と2階の様子を見る限り、上の階の非常口に見張りはいない。だからここも数に入れなくて良いだろう。……残りの荷物搬送用の出入り口と地下駐車場の2箇所に1人づつだと考えて13人。お前がいない方の従業員用出入り口に1人で合計14人。どうあがても1人足りねぇなぁ?見取り図に載ってない出入り口がこんなモールにあるとは思えないし、どこか1箇所だけ出入り口の見張りが2人というのも考えにくい」


では、見回りも人質の監視も出入り口の監視もしてない犯人は一体どこで何をしているのだろうか。


「俺もそっちに向かう。それまでにお前はその犯人から誰が何をする予定だったのか聞いとけ」


そう言って花宮は電話を切った。

爆弾はまだまだ残っているが、今のままでは解体していっても犯人の絶望顔もコナンくんの絶望顔も見れなさそうという理由で辞めたのだ。

この先もし残りの爆弾が爆発しても自分が巻き込まれないなら花宮的にはそれで良いのである。

ということで花宮は古橋の元へ向かった。