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場所は戻ってコナンくんサイド。
とりあえず花宮の電話番号を知っていると気づいたコナンくんが何回も電話をかけるが、やはり誰かが電話に出るという事はなかった。
「やっぱり波人に電話通じねーな」
「何かあったのは確実のようですね」
「波人にぃちゃん無事だといいな!」
「せめて波人お兄ちゃんが探偵バッチを持ってればよかったんだけど……」
「そしたらコナンが追いかけられたのにな」
「仕方ねーだろ。渡すのは土曜日の予定だったんだし」
「ないものを考えても仕方がないわ。次の手を考えましょう」
もう、あたりは薄暗くなっていた。
部屋を漁っている花宮はというと、こっちは割と順調だった。
机の引き出しに残された部屋の説明書にホテルの名前が書いてあったのだ。
そうして花宮は花宮は今いる場所がカミーリアホテルだった場所という事を知った。
そこから更に使えそうなものを探すために部屋を漁ろうしていた花宮だったが、遠くから足音が聞こえたため、手についた埃を払い落として、何事もなかったかのように元の場所に戻った。
すると、ちょうどよく部屋のドアが開いた。
「あ"?ガキ1人かよ。あいつはどーした」
部屋に入って来たのは、ランドセルを取りに行った彼ではなく、最初に部屋を出ていった短期な男だった。
「あいつって…….?」
「だーかーらー!いかにも優男のふりをした奴の事だよ!それくらいわかれガキ!」
花宮には通じるが普通の小学2年生だったら絶対に通じない。この男短期な上に馬鹿だ。
「ご、ごめんなさい!その人なら多分、僕のランドセルを取りに行ったんだと思います」
「最初からそう言えよ」
「……その……ごめんなさい」
「その態度イラつくんだよ!だいたいなぁ、謝る時は頭下げろ。こーやってな!」
「わっ」
男は花宮の頭を掴むと、無理矢理頭を下げさせ、ベットに顔を押し付けた。
いくらベットが柔らかいといっても、鼻をぶつければ痛い。そうでなくても子供にとって頭を掴まれて下に押し付けられるなんてそれだけで恐怖である。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「黙れようっせーな。そーいう態度がイラつくんだってーの。それとも一生口が開けないようにしてやろーか?」
この男、短期で馬鹿な上、ものすごく理不尽な男だったらしい。どう考えても子供に向ける態度ではない。
「ひっ……黙ります。ごめんなさい。酷い事しないでください」
その時、ランドセルを取りに行った男が帰ってきた。
「お前、何してるんだ」
「あ"?見ての通りだけど?」
「……はぁ、お前は子供の相手してないでずっとエントランスを見張ってろ」
「なんで俺が」
「俺の言う事が聞けないのか?」
「はいはい分かったよ、リーダー様」
そしてまた男は出ていった。
(だいたいこの犯人グループのそれぞれの役割が見えてきたな。こいつがリーダーでグループの頭脳。さっきの男が荒事担当。出ていったっきり帰ってこない男は準備と言ってた事から声を変える機械とか、電話した際逆探知されないようにするとか、まぁそういった技術職。狙いは俺の身代金だろーな。俺に藤山会長との血の繋がりなんて一切ないけど。顔を隠しているということは、一応まだ俺を生きて返す気があるのか)
なんて事を考えながらも、残った男の対応をする。
「波人くん、顔を上げて」
「…は、はい」
ゆっくりと上げられたその顔には、涙がポロポロと流れていた。
「そんなに泣かないで。ほら、目が赤くなっちゃうよ」
男は花宮の頬に手を当て、親指で流れた涙を拭いながらそう言った。
「ごめんなさい」
演技はそのままに、花宮は考える。
(本当に役割がしっかり分かれてる。1人は子供を怖がらせて、1人は優しくする。そうすることによって、優しくされた方に子供は自然と懐く。綺麗に飴と鞭でやってんな。慣れすぎだろこいつら。さっきのキレて方は知らんけど、こっちは確信犯だ。タイプが全員違うっていうのは厄介だな。そもそも1人は最初に出ていったきりこの部屋に戻って来ねーし。懐柔すんのめんどくせー。素直に脱出方法でも探すか?)
とにかく今は一般的な子供を演じていよう。
花宮の中でそう結論が出された。
「謝ってほしい訳じゃないから。とにかく落ち着いたらおじいちゃんの番号出してくれる?」
「わかりました」
そうして男は花宮の携帯を差し出した。
自然に泣く演技が出来るのなら、自然に泣き止む演技も当然できる。
けれどまだ泣いていた方が都合が良いと判断した花宮は、泣きながら震える手で携帯を開いた。
画面には着信履歴が20件と表示されていた。
全てコナンくんからである。
これには花宮も予想外で、思わず後で泣き止もうとしていた涙を止めてしまった。
「どうかしたのかな?」
「その、友達から電話がいっぱい来てて」
「それは何人もってこと?」
「ううん。全部1人の子から」
どうせ画面を見られるだろうと判断した花宮は正直に話した。
「あー、じゃあその子に家に帰ったって言えるかな?」
「……嘘つくの?」
「ちょっと時間がずれるだけさ。嘘なんかじゃない。波人くんが言うことをちゃんと聞いていれば責任を持って家に返すよ。じゃ、その子電話して」
「わ、わかった」
そうして花宮はコナンくんに電話を繋げた。
プ、プ、プ、と接続中の音が鳴り、繋がってプルルルルという音に変わると、すぐにコナンくんは出た。
《波人お兄ちゃん!?今どこにいるの!?》
「えっと、心配かけてごめんね……?ちゃんと家にいるよ」
《そっか。無事で良かった。もー、なんで勝手に居なくなっちゃうのさ》
「ちょっと、色々あって……」
《色々って?》
いつもならいくらでも取り繕えるが、今回は目の前に誘拐犯がいて、脅されている状況だ。花宮は言われた事しかしない。
だから家に帰ったと伝える指示には従ったが、どうして急に居なくなったのかという回答は用意されてないないため、答えられない。
その様子を見た犯人が、花宮から携帯を取った。
「もしもし?」
《……お兄さん誰?》
「俺は波人君の親戚でね。ちょっとこっちでゴタゴタがあって、波人君が必要だったんだ。心配かけたようで悪いね。でももう大丈夫だから心配しないで」
《そうだったんだ》
「ずっと探してくれてたのかな?」
《うん》
「そっか。じゃあもうお家に帰りなさい。ご家族が心配しているよ」
《わかった!》
コナンくんが元気に答え、電話は切れた。
「もう大丈夫かな。じゃあおじいちゃんの番号を教えてくれる?」
「うん」
そして花宮は藤山会長の番号を表示して、犯人に差し出した。
時は少し戻ってコナンくんサイド。
1度バラけて目撃者を探したものの、大した成果はないまま、再び公園に集まっていた。
「何か手がかりはあったか!?」
「ダメです。何もありません」
「最初の方はコナンの言ってた車を見たやつが居たんだけどな!」
「途中で途切れちゃったね」
「くそっ、何もねーのかよ」
「落ち着きなさい、江戸川くん。貴方らしくないわよ」
「そうだな」
「にしても困りましたねぇ」
「そうだ!高木刑事の方はどうなってるの?」
「いろんな刑事さんに声をかけたけど、まだその車を見かけた人はいないってさ」
「そっかぁ」
次にどうするか相談している時、コナンくんの電話が鳴った。
そこに出た名前を見て反射的に出るボタンを押す。
「波人お兄ちゃん!?今どこにいるの!?」
その声に、少年探偵団から「えっ!?波人お兄ちゃんから!?」「波人さん無事だったんですね!」というような声が上がる。
けれど今のコナンくんは電話の向こうある声に集中していて、彼らの声は耳に入らない。
《えっと、心配かけてごめんね……?ちゃんと家にいるよ》
「そっか。無事で良かった。もー、なんで勝手に居なくなっちゃうのさ」
《ちょっと、色々あって……》
いつもなら分かりやすく教えてくれるのに、今日は歯切れが悪い。
コナンくんは疑問に思った。
「色々って?」
そう追求するも、答えが返ってこない。
すると電話の声が若い男性の声に変わった。
《もしもし?》
「……お兄さん誰?」
《俺は波人君の親戚でね。ちょっとこっちでゴタゴタがあって、波人君が必要だったんだ。心配かけたようで悪いね。でももう大丈夫だから心配しないで》
そう説明されるが、疑問でいっぱいだ。
親戚関係で波人が必要ってどういう理由?とか、家にいるはずなのに、親戚も一緒にいるのってどうして?とか、波人の家の近くには電車なんて通ってないのに、電話の後ろで電車の音がするのは何故、とか。
それらを全部呑み込んで、
「そうだったんだ」
と何も気づいていないフリをした。
《ずっと探してくれてたのかな?》
「うん」
《そっか。じゃあもうお家に帰りなさい。ご家族が心配しているよ》
「わかった!」
電話を切ったコナンくんに、子供達が詰め寄る。
「波人さんなんて言ってました!?」
「にぃちゃんは無事なのかよ!!」
「波人お兄ちゃん今どこにいるの!?」
「お前ら落ち着け。波人お兄ちゃんは急な親戚の用事で連れてかれただけだってさ。今はもう家に帰ったらしいから、お前らももう帰れ」
「なんだよ、結局ゆーかいじゃなかったのかよ」
「まぁまぁ、波人さんが無事でよかったじゃないですか」
「よかったぁ〜。ならまた明日会えるよね?」
「そうだな」
そしてその場で解散となり。みんなそれぞれの家に帰った。
コナンくんと哀ちゃん以外は。
「で、実際のところどうなの?」
「間違いなく波人は誘拐されてるな」
「あら、なら子供達を帰らせてよかったのかしら?探すのに人手は多い方がいいと思うけど」
「だいたいの居場所は掴めたから後はしらみつぶしで探すさ」
「よくわかったわね」
「後ろで電車の音と駅に流れる発車メロディが流れてたんだよ。あれは確かよろぎ駅のだったはずだ」
「そう。なら私は一旦家に戻ってよろぎ駅周辺で子供を連れ込めそうな場所を調べるわ」
「よろしくな!」
それからコナンくんはよろぎ駅へと向かい、哀ちゃんはパソコンでよろぎ駅周辺の建物を探す為家に戻った。
その頃、花宮はまた部屋で1人になっていた。
番号を得た犯人が、身代金要求の電話を掛けに行ったのだ。その間また花宮は探索をしていた。
(部屋の構造は一般的なシングルルーム。風呂とトイレ付きか。電気は……通ってないな。だからアイツLEDのランタン置いていったのか。さっき暗くなる前にこのホテルの名前が書かれた紙を見つけられてよかったわ。今いる部屋高さは……暗くて見えないな。流石に飛び降りるのは無理だ。あー、手の拘束さえ無ければ窓から隣の部屋には移れるか?この紐を切れそうなものがあればいいけど、流石に廃業したホテルには刃物なんて残ってないか。この紐がビニールだったらなんとかなったんだけどな。あ、足音。そろそろ定位置に戻るか)
ベットの上にちょこんと座る。
それから花宮はここに来てから体感1時間は過ぎていて、なおかつ今20分ほど放置されていたのにずっと座っているのはおかしいと思い直し、ゴロンと寝っ転がった。
そして泣き疲れて眠った子供のように目を瞑った。