拒否権なんてなかった
本日最後の授業。
秋の学校行事である発表会でやる劇について決めるらしい。
何の劇をやるか…とか、誰がどの役をやるか…とか。

しかし、何の劇をやるかについて、先生は最初から皆の意見を聞く気がなかったように思う。
というのも、先生は学生時代は演劇部の脚本家をしていたらしく、久しぶりに脚本作りに挑戦してみたいらしい。
つまり、『シンデレラ』とか『白雪姫』とかみたいなありがちな劇ではなく、先生オリジナルの劇を私たちが演じることになるわけだ。

(それって難しくね?)

とも正直思ったが、先生のあのキラキラした瞳を見てしまえば、反対もしにくい。
それはクラス全員が同じだったようで、結局劇の内容は、先生作のオリジナル作品『白と黒』に決まった。

そして、早速役決めに移ることに…

先生はまず立候補者を募った。
数人が手を上げ、やりたい役を口にする。
しかし、その中にメインである"王子様"と"お姫様"を希望する子はいないようだ。
やはりメインキャラクターは恥ずかしいよな。わかる。

そして次は推薦による役決めが始まった。

私は裏方に回る気満々で、ボーッと黒板を眺めている。しかし、突然発せられた諸伏景光の一言により、私の意識は完全に覚醒した。

「王子様はゼロ、お姫様は立川さんがいいと思います!」
「「はぁ???」」

思わず間の抜けた声が出てしまったのは降谷零も同じだったようだが、その他の周りは拍手で「いいじゃんいいじゃん」と諸伏景光の意見に賛同していた。
か、勘弁して…!!

「わ!私!!その…本番に弱いタイプだから…」
「大丈夫だよ!ララちゃんピアノの発表会でだっていっぱい賞取ってるじゃん!!」
「うぇ…そ、それは…その…」

本当のことを言えば、たしかに私はあまり緊張はしないタイプだ。
しかし、今回の役は責任あるメインキャラクター…しかも、相手役が気になる降谷零になるとあれば、話はまっったくと言っていいほど違ってくるのである。

「……。」

どうする…どうする…!と頭を悩ませる私。
しかし、それを嘲笑うかのように、降谷零は爆弾を投下した。

「わかりました。やります。」
「えぇ…?」

降谷零の言葉に周りの拍手は一層強まった。私はといえば、相変わらず間の抜けた声しか出せない。
なぜ断らなかった降谷零…!!
もしや、実はやってみたかったのか…?

「立川…」
「…?」
「練習、付き合ってくれるよな?」
「…!?」

まるで告白でもされたかのような気分になるのは、彼が紛らわしいセリフを言うからに違いない。
くそぅ…イケメンは何を言っても絵になるようだ。
とにかく、彼にここまで言わせてしまったからには、私に拒否権などない。
ていうか、たぶん最初からなかったんだ。拒否権なんて。

「わかりました。…やります。」

私はそう肯定の言葉を呟いた後、考えることをやめた。
10/22
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