嫌なわけない
放課後。
私にまた花の水やりの当番が回ってきたので、一人寂しく花壇に向かっていた。
しかし、後ろから付いてくる足音が…

「何かご用?降谷くん。」
「……。」

いや、何か喋れよ!とも言えず、私はまた前を向いて歩き出した。
そして、花壇にたどり着いては、水を撒き始める。

「立川…」
「…なぁに?」
「嫌だった?」
「…何が?」
「俺の、相手役。」

その言葉を聞いて、私はピタリと動きを止める。
図星だったわけじゃない。
彼が他の女とラブラブになるくらいなら、私が勝手に恥をかいた方マシだと思えたのだから。
自分の独占欲の強さには嫌気が差すが、彼自身も相手役に私を選んでくれたのだからと心の中で自分に言い訳した。

「私が嫌だったのは、"あなたの相手役"じゃないわ。"お姫様"よ。」
「つまり?」
「あなたが嫌なんじゃなくて、目立つのが嫌いなの。」
「…なるほどな。」

そう言った降谷零は心底安堵したような顔をしていた。
私に嫌われたくないなんて、可愛いじゃないか。
それが例え、私の"好き"と違っても…それでも、嬉しいと思える。

「『あなたと共にりたい。それが例え、許されないことだとしても。』なんて、小学生がやる内容かしら…」
「意味が分かってない奴も多いだろうな。」
「でも、私はこの台本嫌いじゃないわ。やるからには、真剣に向き合うつもりよ。」
「キミのそういうところ、本当に尊敬する。」

私たちは笑いあった。
無邪気な降谷零の笑顔。
それにまた胸が高鳴ったのは、私だけの…そう、私だけの秘密だ。
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