消えたあの女性(ヒト)
1ヶ月後、放課後。
外はだいぶ肌寒くなってきた。
私は暖かい格好をして、校舎裏へ向かう。
というのも、今日は当番とかではなく、彼…降谷零に呼び出されたのだ。
珍しいこともあるもんだなぁ。
放課後、校舎裏で待ってる…なんて言われた時は決闘かな?とも思ったけど、そういうわけではないらしい。

ひどく思い詰めた顔をしていたので、さすがに心配だ。あんな表情の降谷零は初めて見たから。

「立川…来てくれたんだな。」
「えぇ。呼ばれたから。」
「ありがとう…」
「……?」

ありがとうと言った彼が顔を伏せる。
両の手は固く握られ、心なしか震えているように見えた。
私はソッと降谷零に近づき、彼の右手を軽く握る。そして、彼の顔を覗き込んだ。

「…っ!?」

泣いている。
噛み締めている下唇からは血が滲んでいた。

「降谷…くん?どうし…っ」

その言葉の続きは彼の胸の中に消えていった。私は彼に抱き締められている。
それは分かるが…何故。
理解が追い付かず、私は疑問符を頭に浮かべることしかできなかった。

「エレーナ先生が…いなくなった…っ!」
「…!!」

それを聞いてやっと合点がいった。
降谷零は消えたエレーナ先生を探すために警官を志したくらいだから、それだけ彼女の存在は彼の中ででかいはず。
酷く悲しいのだろう。しかし、私は何の力にもなってやれない。なんて無力なのだろうか。

せめて、せめて彼の心が少しでも…

私は彼の頭を抱き寄せて、優しく撫でた。
私を抱き寄せる腕の力が強まる。

「泣いていいのよ。大切な人が居なくなるなんて、とても堪えられることじゃない。」
「っ…。」
「ありがとう。私を頼ってくれて。大丈夫。私は勝手に居なくなったりしないわ。」
「〜〜〜っ!!」

大切な人との別れは、彼にとってこれが最後じゃない。
友人と次々にお別れしなければいけない未来が必ず訪れる。
でもせめて、彼の心を少しでも…満たしてあげられたら…
自己満足もいいところだけれど、現に彼は私を頼ってくれた。こうしてすがってくれた。
それなら私はそれに応えたい。
彼の力になりたい。
彼をこちらに繋ぎ止める鎖でありたい。

(だから…ほら、泣かないで。大丈夫。)

ボロボロ涙を流す彼にひたすら寄り添った。

「俺、警官になるよ…」

そう言った彼はとても真剣な瞳をしている。

「大丈夫。あなたならなれる。…絶対。」

その言葉に降谷零はフニャッと笑った。
15/22
prev  next