中学って怖い
小学校を無事卒業した私たちは、そのまま中学に入学した。
知った顔もあれば知らない顔も増え、周りを取り巻く環境は確実に変わった。
とはいえ、降谷零とも諸伏景光ともまた同じクラスになれたから、私としては満足である。

未だに降谷零と私は「おはよう。」で始まり「またな。」で終わる関係だ。
むしろ小学生の時よりもっと親しくなれた気がする。
世間話のような他愛ない話、今日あったこと、宿題の答え合わせ…
いろんな話をするようになった。
とても嬉しい進歩である。

そう思ってた、次の日のことだった。

「…え?」

私は自分の席の前で呆然と立ち尽くした。
私の机に書いてある赤い文字。

キモイ、ウザイ、バカ、キエロ…シネ。

私はさすがに予想もしてなかった事態に冷や汗を掻いた。
思わず落としそうになった鞄を肩にかけ直す。
しかし、このままこうしていても仕方ない。私はあくまでも気丈に振る舞い、その席に座った。

周りがざわざわとざわめくのが分かる。
そんなタイミングで、降谷零と諸伏景光が登校してきた。
現在私と降谷零の席は隣同士ではない。
それでも、これだけ噂の的なのだ。彼らの耳に入るのも遅くはなかった。

「立川…っ!」
「おはよう。降谷くん。諸伏くん。」
「おはようって…!それどころじゃないだろ!?」

降谷零は私より取り乱した様子で私の赤にまみれた机を叩いた。

「気にしちゃダメ。相手の思うつぼよ。」
「だけどっ…!!」

なおも言い募ろうとする降谷零の唇に、私は人差し指を当てた。
それで少し冷静になったのか、降谷零は黙り込む。
私はそれに笑みを返して、次の授業の準備を始めた。
教科書を取り出そうとした、その時…

「っ…!?」

鋭い痛みが指先に走り、咄嗟に教科書を離してしまう。
どうやら、置き勉していた教科書にカッターの刃が仕掛けられていたらしい。
さすがに…悪質だ。
私は思わず顔をしかめる。

私の指先から流れる血を見て、降谷零の顔が青ざめていった。
そして、ガッと私の右手首を掴むと、何処かへ連れていこうとしているのか、強く引っ張る。
向かう先は恐らく保健室だろうが…

「ヒロ…先生に保健室連れてくって言っといてくれ。」
「あぁ、任せろ。」

厳しい顔の二人を見ていると、心強い気持ちになるのは不謹慎だろうか。
それでも私は、こんな目に合ったというのに、未だ楽観的に考えていたんだ。
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