私は死なない
教室に戻ったら、教師の計らいによってか机が綺麗になっていた。
それにホッとし、その日は授業を安心して受けることができたのだ。

しかし次の日も、登校してみれば机が赤く染まっていた。
それどころか、下駄箱に入れていた靴の中は画ビョウだらけで…
いい加減ため息が尽きない。
私はその日、授業をサボることにし、屋上に向かった。

「はぁ…幼稚だけれど、精神的にはクるわね…」

私は屋上の柵に腕を乗せた。
低い柵だ。私でも乗り越えることができてしまう。

……。
死んだら全てが終わる。そう思っていた。
しかし、私は今第二の人生を歩んでいる。
不思議なものだ。第二の人生には、一回目の人生にはなかったものがたくさん散りばめられている。
良いことも、悪いことも。

悪口を言われたことは当然ある。反りが合わなかった人と大喧嘩したこともある。
それでも、あれほどあからさまなイジメは初めてだった。
いつかは終わると分かっていても、いつまで続くか分からないのは正直キツい。

(どうしたもんかなぁ…)

なんて考え込んでいたら、突然後ろから羽交い締めにされた。

「…!?」

驚いて後ろを向くと、そこには焦った顔の降谷零が居た。

「立川…!死ぬな…!」
「はぁ…?」

彼の言葉に、私は間抜けな声を出した。

つまり、だ。彼は私がここから飛び降りジサツをすると思ったらしい。

「そんなわけないじゃない。」

私はそう言って笑ったが、彼の顔は依然として晴れなかった。

「私がそんなに弱い女に見える?」
「そうじゃないけど…空を見つめていたキミが、今にも消えてしまいそうだったから…」
「ふーん?」

私は首を傾げながらそう言った。

「ねぇ、どうしてここに居るってわかったの?」
「まず、キミは靴を履き替えていなかったから室内に居ることはすぐに特定できた。でも、この学校には空き部屋のように無人の教室はそう多くない。確実に人が居ない場所といえば、本来立ち入り禁止であるはずの屋上しかないだろ?」
「さすがね。名推理だわ。」

私はパチパチと小さく拍手した。

「バカにしてないか?」
「まさか。本当に褒めてるのよ?」
「そう…?」
「それで?その様子じゃ、犯人は分かったのかしら?」
「あぁ…!」

降谷零は私の言葉にニヤリと笑って見せた。
どうやら犯人を突き止めたらしい。
はや…とか、すご…とか、言いたいことは色々あるけど、正直何を言ってもバカっぽく聞こえそうなので私は何も言わなかった。
ただ、一言だけ…

「ありがとう…!」
「…!!」

私は心からの笑みを彼に送った。
それに対して、彼もまた、花が咲くような満面の笑みを見せてくれる。

「でも、どうやって犯人を…」
「今日、キミがサボったことで担任が事態を重く考えてくれたみたいでね…」
「あら、そうなの?」

教師はアテにならないなんて言った手前、意外だった。しかし、同時にありがたくもある。
だからこそ、担任教師を信頼していなかったことを少し申し訳なく思った。

「先生には、感謝しないとね。」
「あぁ…それで、今日のLHR(ロングホームルーム)で、キミへのイジメについて話をしようって。」
「なるほど。そこで犯人を問い詰めるのね?」

私の問いに、降谷零は深く頷いた。

「いいわ。そこで私もケリをつける…!」
「キミのそういうところ、本当に尊敬するよ。」

降谷零はふわりと笑って私に手を差し出した。

「行こう。」
「えぇ。」

そうして私たちは教室に急いだ。
19/22
prev  next