その愛は受け取れません
LHRの時間。
私たちはちょうど教室にたどり着いた。

「立川さん…!学校内に居たんですね。」
「はい、ご心配をおかけしました。」

担任教師の声に笑顔で答える。
担任教師は、私の様子を見て心底安堵しているように見えるから、本当に心配してくれていたのだろう。
…優しい人だ。

私は自分の席に着き、じっとしている。
あとは、彼が何とかしてくれるはず。
人任せもいいところだが、今は彼に頼る他ない。

「では、早速話を始めましょう。
立川さんの机に誹謗中傷を書き込んだり、教科書にカッターの刃を仕込んだりした犯人を、誰か目撃していませんか?」

担任教師の言葉に手を挙げる者はいない。しかし、降谷零は声を上げた。

「俺は犯人を目撃したわけではありませんが、推理はできます。」

彼の言葉に教室内はざわざわとざわめき出す。

「まず…」

彼の推理が始まった。そのイキイキとした表情に、私は思わず笑みが零れる。

「…というわけです。つまり、犯人は…キミだ!!」

途中「え?そうだったの?」みたいな情報もあったが、彼が独自に調べたことのようだから、私が知らなくても当然のことだった。

彼はビシッと音が出そうな程勢いよく、一人の男子を指差す。
彼は…中学から同じ学校になったクラスメイトだ。

えぇ〜?ていうか、話したこともほとんどないはずだけど…なんで…

「くっ…くくくく…ははははは!」

犯人だと指差された男子生徒、たしか…小田克喜は、高らかに笑いだした。

え…なに?こわ…

「全てはお前のせいさ!!降谷零!!!」
「!?」

小田克喜の言葉に誰もが言葉を失う。
降谷零のせいとはこれいかに…
私への恨みではないのか?

「お前が!!お前ばっかり!!ララちゃんと仲良くしやがって…!!」
「………???」

彼の言葉に、私は理解が追い付かない。頭に疑問符がたくさん浮かんだ。

「俺が!俺の方が!!ララちゃんを好きなのに!愛しているのに!!」
「なら何故!!彼女を悲しませるようなことをした!!?」
「悲しんでいる彼女を慰めて、俺との接点を作る計画だった!!それなのに!!毎度毎度、お前がでしゃばるから!!」
「…っっ!!」

降谷零の胸ぐらを掴む小田克喜の胸ぐらを掴み返す降谷零。
いや、言っててややこしいな?

とにかく、二人は今にも取っ組み合いの喧嘩を始めそうだ。
周りもオドオドし始めた。

私は立ち上がって二人の元へ歩み寄る。

「二人とも、離れなさい。」
「ララちゃん…!俺はこいつを!降谷零を許せないんだ!!」
「立川…!俺はこいつを一発殴らないと気が済まない…!!」
「離れなさいと言っている!!」
「…!!」

二人は私の言葉に驚いたようだが、気圧されたのかソロリとお互いの拘束を解いた。
私はその隙に二人の間に割って入る。

そして…

「…!?!?」

私は小田克喜の頬に向かっておもいっきり平手打ちをかました。
周りは私の行動に目を白黒とさせているが、知ったことか。

「あなたは罪を犯した。重い、重い罪よ。私の大切な人に、あんなに辛そうな顔をさせた。とても許せることじゃない。」
「ララちゃん…」
「名前を呼ばれる筋合いもないわ。あなたと私は今日、今、初めて話をしているのだから。」
「……。」
「でも…」

私はソッと彼の叩いた方の頬に手を当てる。

「私にしたことは、さっきの一発で許してあげる。」
「立川…!?」
「罪は自分で消せるものじゃない。被害者が許すことでしか、消えることはないのよ。だから、私が消してあげるの。」
「ララ…ちゃん…」
「おい、いくらなんでも甘過ぎないか!?」

私の"許す"発言に憤る降谷零。しかし、私は首を横に振る。

「あなたが暴いてくれたから、彼はもう行動には移せないはずよ。だから大丈夫。」
「だからって…!」
「それに、許すのはあくまでも"私にしたこと"まで。降谷くんに悲しい顔をさせたことは絶対に許してあげない。一生悔いるといいわ。」
「…!!」

降谷くんは私の言葉に頬を軽く染める。
それを見た小田克喜は面白くなさそうな顔をした。

「ふっ…俺の入る余地はないってことか。」
「そうよ。諦めて。」
「いや、諦めはしないさ…
今度は正々堂々と降谷零からララちゃんを奪ってみせる。」

小田克喜はそう言って私の右手の指先…ちょうどカッターの刃で怪我をしたところにキスを落とす。
正直ゾワッとした。好きでもない男にキスされても気持ち悪いだけだ。
かといって、本人の目の前でごしごし消毒するわけにもいかないので、今は我慢我慢…

降谷零が物凄い形相で小田克喜を睨んでいる。どうしても小田克喜が気に入らないらしい。

私はサッとさりげなく右手を背に隠す。
すると、今度は左手を降谷零に取られた。
キスする気はないようだが、私の手を引いて教室を出ようとする。

私はとっさに鞄を掴んだ。
降谷零も、自分の鞄を掴むと、先生に告げる。

「俺たち、今日はもう帰ります。」

その言葉に、先生も「そうしなさい。」と言ってくれた。
私たちはクラスメイトたちからの視線を受けながらも帰路についた。
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