あなたの嫉妬は可愛いだけ
「降谷くん。」
「……。」
「ふーるーやーくん。」
「……。」
「降谷くんってば。」
「……何だ?」
「何だじゃないわ。怒ってるの?」

未だに私の手を引いてズカズカと歩みを進めている降谷零に、私は声をかけるがだいぶ無視された。彼が大股で歩くから、私は自然と小走りになって疲れるのだ。
まぁ、原因は十中八九さっきのキスだろう。所詮指先だが。

「怒ってない…」
「ほんと?」
「……うん。」
「そ。なら、手を離してもらえる?」
「嫌?」
「じゃなくて。後始末。」

私はソッと彼の手から逃れると、鞄からウェットティッシュを取り出した。そして、小田克喜にキスされた指先をごしごしと擦る。それを見たからなのかは分からないが、ちょっとだけ降谷零の機嫌が直った気がした。

「ねぇ、降谷くん。私、あなたにお礼がしたいわ。」
「別にいいよ。礼とかは。平和的に解決したのは立川自身のおかげだろ?」
「ダメよ。ちゃんと受け取ってくれなくちゃ。」
「……。」
「何も望みがないの?欲がないのね…」
「わかったよ…」
「ふふ、じゃあ決まりね!」

楽しそうな私の声に、彼もやっと少しだけ笑みを見せてくれる。

「あ、そうだ!私の家に寄っていかない?」
「え…!?!?」

突然の私の誘いに、降谷零は目を白黒させた。
彼曰く、女子の家は初めてなようで…
そのことは少し意外だが、私はちょっと安心できた。

「いいでしょ?」
「…まだ、早くないか?」
「あら、何を想像しているの?お茶を飲んでお菓子を食べるだけじゃない。」
「…っ、べ、別に!変なこと考えてたわけじゃ…!!!」
「……えっち。」
「〜〜〜っ!!」

真っ赤な顔を右手で覆う降谷零は、二の句を継げなくなってしまったようだ。
そんな彼の右手を取って、私は歩き出した。

「こっちよ。」
「ま、まだ行くなんて…っ!」
「ね、いいでしょ?お願い。」
「うっっ……わ、わかったよ。」

言い負かされた降谷零は私の後ろを歩いている。
目の前に私の家が見えてきた。
と言っても、お屋敷ほどデカイわけじゃない。
たまに使用人は来るが、広ーい一軒家って感じ。
前に言ってたシェフのお弁当も、本人が私の家で作っているのではなく、レストランとかで作ったやつをわざわざ朝早く届けに来てくれていたのだ。
ちなみに、家の前にボディーガードが居たりもしない。
なるべくセレブセレブしていたくないという私の気持ちを両親が尊重してくれた結果だ。
まぁ、もちろん、セキュリティは厳重だが。

「いらっしゃい。私の部屋に案内するわ。」
「お、邪魔します。」
「そんなに緊張しなくていいのよ?楽にしてて。」
「……。」

私はたどり着いた自分の家の中に降谷零を招き入れる。
そして、一直線に私の部屋に向かった。
手を繋いでいるので、降谷零も自然とそちらに足が向かう。

「えっと…散らかってはないと思うけれど、あんまりジロジロ見ちゃ嫌よ?」
「あ、あぁ。」

部屋の扉を開ければ、中に入る。
…うん、散らかってはない、と思う。

私自身、どちらかというと綺麗好きだし、散らかしっぱなしということはまず無いから、問題はないはずだけれど…
やはり緊張はするのだ。

降谷零をチラリと伺えば、彼も落ち着かないようで、ソワソワしていた。

「お茶とお菓子、持ってくるわね。座って待ってて。」

そんな彼を一人置いて、私は一階に姿を消した。
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