好きだ。大好きだ。
お茶とお菓子を用意して戻ってきたが、彼はまだ入り口に立ったままだった。
「座っててって言ったのに。」
「だ、だって…」
私は机にお茶とお菓子を並べ、ソファーに腰を下ろす。
そして、隣をポンポンと叩き、彼を呼んだ。
「ほら、こっち。」
呼ばれれば、ゆっくりとした動作で降谷零はソファーに腰かけた。
彼の緊張が痛いほど伝わってくる。
私は彼の緊張が少しでも解れるように、話題を振った。
「それで?あなたの望みは?」
「…お礼の内容ってことか?」
「そう。私にできることなら何でもするわよ。」
「何でもって…!そんな簡単に言うなよ…!」
「……そうね。」
「まったく…」
降谷零はそう言った後、腕を組んで少し悩む。
何をお願いされるのだろう…
まったく想像できない。
「じゃあ…」
「……。」
「ララって、呼んでもいいか…?」
「…???いいわよ、もちろん。」
そんなことでいいのか…?
少し拍子抜けだ。
もしかして、今までずっと呼ぼうかどうしようか迷っていたんだろうか。
そうだとしたらとても可愛い。
「俺のことも…その、」
「零くん。」
「…っ。」
下の名前で彼を呼べば、瞬時に顔が赤くなった。やはり、少なくとも若い頃の降谷零はすぐ顔に感情が出る。
そんな彼が、愛しい。
可愛くて、かっこよくて、ズルい人。
気持ちが止められない。
欲望が止まらない。
私は彼の両頬に手を添える。そして、彼をこちらに向かせると唇をソッと合わせた。
彼がどんな表情をしているかは、私が目を閉じているので分からない。
離れる時もソッと離れて、私は小さく舌を出す。
「ふふ、おまけ。」
「…っ!」
顔を今まで無いほど赤く染めて、彼は俯いた。
「ララ…」
彼は私の名前を呟き、私をソッと抱き寄せる。
「好きだ。」
「…っ!?」
彼の囁くような声に、今度は私が赤面する番だった。
言葉の理解が遅れる。
でも、そんな、だって…
「好きなんだ、キミのことが…!」
「零くん…私…」
「わかってる…!キミは、俺を男として意識してないんだろ…?それでも俺は、」
「違う!!!私、私だって…あなたが、好き…大好き…」
「ララ…っ。」
ボロボロと涙が零れる。嬉しいけど、この気持ちを受け取っていいのか分からない。それが、とても辛かった。
愛しているから、彼の重荷にはなりたくない。彼の辛い過去の仲間入りをしたくない。
それでも、私は欲深いようで…
自分の気持ちを正直に伝えてしまった。
「私もあなたが好き。できることなら、一生をかけてあなたの側にいたい。」
「ララ…」
「でも私は!!あなたが思っているような人間ではないの!!
醜くて!惨めで!ズルい人間だわ!」
「キミは…!キミは醜くなんてない!!」
そのセリフが、あの劇の王子のセリフと重なって聞こえた。
涙が止まらない。止められない。
「ララ…俺と、付き合ってほしい。」
「私で…いいの?」
「キミが、いいんだ。」
私は自らのぐちゃぐちゃな顔を隠すように彼の胸に飛び込んだ。
彼はそんな私をソッと腕に閉じ込める。
彼に秘密にしていることはたくさんある。彼はそれに気づいていない。
もし、私の全てを知られてしまって、そのことによる別れが来ても、私は後悔しないように、今を生きることにした。
「零くん…好き…」
「俺も、ララが大好きだ。」
第一章 完
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