なおさら美味しい

目を覚ますと、母が出ていった時刻から一時間が過ぎていた。
しまった。眠ってしまっていたのか…。

(お粥…少しでも食べなきゃ…)

私はボヤける視界の中、ゆっくりと起き上がり、机に手を伸ばす。
すると、ひょいっと、勝手にお粥が入っているはずの器が動いた。

(…!?)
「はい。」
「零…くん?」

お粥の入った器をこちらに差し出してきたのは、降谷零だった。
なんでここに…?というか、どうやって…

「使用人さんに、『ララさんのクラスメイトです。お見舞いに来ました。』って言ったら入れてもらえた。」
「そう…。」

私は冷めきってしまったお粥の入った器を受けとる。
ジッとお粥を意味なく見つめるが、普通の玉子粥のようだ。

「食べないのか?」
「食欲がなくて…」

そう言ったら、降谷零は器を私から奪い取り、お粥を掬う。
そして、「あーん。」と言って、お粥を掬ったれんげを差し出してきた。

「???」
「自分で食べるより、食欲湧くかなって…」
「……。」

照れてソッポを向く彼から、れんげに視線を移す。
そして私は小さく笑うと、お粥を口にした。

「!!」
「ん…美味しい。」

そう言った私を見て、少し得意気な顔になった降谷零はもう一度お粥を掬って差し出す。
それをまた、私は口にする。
何度かそれを繰り返すと、あっという間にお粥は無くなってしまった。

「食べれたな。」
「零くんのおかげね。」

降谷零は私の言葉に微笑むと、私の頭をソッと撫でる。
そして、おでこに手を移した。

「まだ熱いな…」
「移ってしまう前に、帰った方が…」
「やだ。」

はっきり言い切られた…
どうやら降谷零は、意外と頑固のようで、折れてくれる気はないようだった。
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