私だって怖い

体育祭を間近に控えたある日のこと。
最近小学校の劇の時のように、校舎裏でこっそりお姫様運びの練習をしている私と零くんであったが、今日は零くんが委員会の呼び出しがあったようで、「先に帰っててくれ。」と言われていた。
しかし、いざ帰ろうと下駄箱に向かったら、私の外履きの上に紙が畳んで置いてあるのを見つけることになる。
先日の件もあるので、恐る恐るその紙を広げると、"体育倉庫で待つ"という旨が書かれていた。
正直行きたくないし、行く義理もないのだが、最後の方に『来なかった場合、降谷零の悪い噂を流す』と書いてあったため、無視する訳にもいかない様子。
零くんを陥れるのにも躊躇が無さそうなところを見ると、零くんのこともよく思っていない人物によるものだろうか?
まぁ、アホな私がいくら考えても答えが出るわけないので、とりあえず体育倉庫に向かうことにした。

「誰も居ない…?」

無事何事もなく体育倉庫にたどり着いたが、中には誰も居ない。
中まで入ってしっかり確かめるが、やっぱり誰も居ないようだ。
私が首を傾げていると、ガシャンと扉が閉まる音がした。

「!?」

閉じ込められた!?私は慌てて扉を開けようとするが、びくともしない。鍵までかけられたようだ。
外からはクスクスと笑う誰かの声がする。

「ちょっと!!どうしてこんなことするの!?開けて!!」

私は必死に外の人物に訴えかけるが、外の何者かはより一層笑うだけだった。
声を聞く限り、女子のようだが…

「克己に冷たくするからそうなるのよ。」

バンバンと扉を叩き続けていると、そう何者かは言った。
克己…小田くんのことだろうか?
たしかに彼に対する態度は誠実とは言えなかっただろうが、こちらだってあんな酷いことをされたのだ。お互い様ではないか。

「克己はあんたのこと愛してくれてるのに…酷い女。」
「そんな…」
「幼なじみの私のことは見てくれないのに!美人なだけでちやほやされちゃって!いい気にならないでよね!!」

幼なじみ…
彼の人間関係などに詳しくはないから、誰かは相変わらず分からないが、有力な情報ではあるだろう。

「しばらくそこで反省しなさい!明日また迎えに来てあげる。」
「あ、明日!?」

彼女の言葉に背筋が凍る思いをする。
つまりそれは、明日までここで過ごせということと同義だ。
私は自分の顔が青ざめていくのが分かった。

「お、お願い!ここから出して!」
「出してぇ?それが人にものを頼む態度なの?」
「出してください!お願いします!」
「あははは!やーだよー!!ばーか!!」

もう絶対許してやらないんだから!と、そう言って彼女は足音を立て、何処かへ去って行ってしまった。

(嘘でしょ…?こんな、暗いところで…一人なんて…)

今まで、別に暗所恐怖症というわけではなかったのだが、不安が一気に押し寄せ、泣きそうになる。
私は小さく震えながら、マットの上に座った。
少し肌寒い…。
私は何とか暖まろうと腕を擦るが、あまり効果はなかった。

それからどれだけ時間が経っただろう。
まだほんの数分のような気もするし、何時間も経っているような気もする。
気が変になりそうだ。

私は思わず一粒涙を溢してしまう。
それを皮切りに、次々と涙が溢れてきて、止まらない。
怖い。怖くて堪らない。
不安で押し潰されそうになりながら、泣いていると、ガシャンとまた音が鳴って、扉が開いていく。

「ララ…!!!」

そこに居たのは、金髪褐色肌のイケメンこと零くんだった。
横には諸伏くんや担任の先生の姿も見える。

「零…くん…」

涙を拭うのも忘れ、呆然と三人を見つめていると、零くんに強く抱き締められた。

「よかった…!無事で…!!」

零くんの声と暖かさに安心したのか、涙腺が再び緩む。
私がグスグスとまた泣き始めると、零くんは私の頭をソッと撫でてくれた。

その時の零くんの表情があまりにも怖くて、諸伏くんと先生が背筋を凍らせていたことを私は知らない。


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