初めての家族

はじめまして。
俺の名前は降谷類。
名字の通り、降谷夫妻の元に生まれた男児だ。
現在まだ0歳の赤ん坊。誰かの手がないと生きていくことすら難しい年齢だ。

しかしお察しの通り、俺はただの赤子とは少し…いや、かなり違う存在だろう。
というのも、俺はいわゆる転生者で、前世の記憶を持っているのだ。

しかも、その俺の前世というのがまたすごい。いや、自分で言うのも何だけどな。
俺の前世は犯罪組織のエリート。
殺しも平気で行うような、そんな奴だった。
盗撮盗聴に、変装、なりすまし、ハッキングにピッキングなどなど…
ありとあらゆる犯罪に手を染めたことがある。

とまぁ、こんな感じのクソみたいな人生を送ってきたわけで、俺は愛だとか友情だとか、そういうのとは無縁に生きてきたわけだ。
幼い頃、両親に捨てられたことも俺が荒んだ原因だろう。
挙げ句、身に余る程の無茶をして死亡。
そのことを酷く後悔していたら、気がつけば二度目の生を受けていた。

父、零。母、未来。
二人の締まりのない表情を見て、俺は驚きを隠せなかったものだ。
産声は自然と出てきたし、何の問題もなかったと言えばそうなのだが、やはり前世の記憶を引き継いでいた俺は疑問符が浮かぶばかりで、現状を理解するのに、約一年を要した。

とりあえず、俺は転生したのだ。
よくわからないが、比較的平和であろう世界に。
(その認識が間違いだと気づくのは、もっと月日が経過してからだ。)

さらに二年経ち、俺は3歳に。
ここまでで、さらに分かったことといえば…
両親が俺をすこぶる愛してくれているということ。両親がとても優しい人たちだということ。
元犯罪組織のエリートが何を言ってるんだと言われそうだが、俺は家族の暖かさを知ってしまったのだ。
もちろん、それが悪いこととは俺も思わない。ただ、ほんの少しだけ、俺が息子で申し訳ないなと思うくらいで…

「類くん。難しい顔してどうしたの?」
「何か嫌だったのか?」

無意識にしかめてしまっていた顔。
両親が心配してくれている。
俺は二人のそんな悲しそうな顔は見たくない。
すぐに笑顔を浮かべ、小首を傾げる。

「きょーのごはん、なにかなって。」
「ふふ、今日のごはんは類くんの大好物だよ!」
「よかったな。」
「わーい!」

俺は、二人の笑顔を守るために、猫を被ることに決めた。
例え、素で話をすることが叶わなくても、俺は、俺を愛してくれる二人が好きだった。

だって、俺にとって、始めての…家族なのだから。


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