いってきます【降谷零】



あくまでも何となく、だ。
薄々ではあるが、感じていた。
類が、普通の子供とは少し違うということ。

いつもは年相応の仕草や話し方をするし、子供っぽい表情や行動もする。
それでも、たまに見せる横顔は、とても一桁の年齢の子供とは思えなくて…

この前の家族会議の時には、今まで一度も見たことないような激しい一面を垣間見た。

『降谷零が!降谷零で居られる場所!ここを!俺が!必ず守る!!』

なんて、言われるとは思わなかった。
それも、5歳の息子にだ。

あれが本当は類の素で、それをやっと見せてくれたのであれば、俺はとても嬉しく思う。
例え、類が何かを抱えているのだとしても、何か言えない事情があるのだとしても、俺は構わない。
だって、何があっても類が俺の息子であることは変わりないのだから。
類も言っていた言葉…

(俺たちは家族。心は一つ。だよな。)

「じゃあ、いってきます。」
「いってらっしゃい。」

いつもと変わらぬ笑顔で、未来が見送ってくれる。
それが、俺にはとても嬉しくて、同時に切なかった。
俺は未来を抱き寄せて、額に小さくキスを落とす。
未来は少し瞳を潤ませるが、涙は流さなかった。

(何があっても、信じる…キミはそう言ってくれたな。未来…)

「ありがとう。未来。」
「……ううん、お礼を言うのは私の方だよ。離婚を選ばないでくれて、ありがとう。」
「…っ!!」

本当は、不安だった。
離婚したくないなんて、俺のワガママに過ぎないのではないかと。
未来も、類も、平穏な暮らしを望んでいるのではないかと。
でも、違った。俺たちの考えていることは一緒だったみたいだ。

(一緒に居たい。少しでも。)

こんなに嬉しいことはない。
未来と結婚してよかった。
類と会えてよかった。
俺は溢れそうになる涙をグッと堪え、未来から離れる。
そして、先ほどよりも晴れやかな顔で、いってきますと手を振った。

起きたのだろう、とたとたと類が駆けてきて、未来と同じように俺に手を振る。

「いってらっしゃい!」

二人に背を押されながら、俺は職場へと向かった。



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