02.どういうわけか。
ピピピピ……
けたたましく朝を告げる目覚まし時計。
……ん?目覚まし時計?
朝が苦手なはずのわたしは勢いよくがばっと起き上がり、目覚まし時計を引っ掴んだ。
たしか、高2の時に奇跡的に当たった、韓国人アイドルの推しがたどたどしい日本語で『オハヨッ』て起こしてくれる目覚ましを使ってたはずなのに、わたしの手にあるのは、おかあさんから譲り受け、目覚まし時計当選と同時に弟に譲ったはずの目覚まし時計だった。
「どういうこと……?」
誰かが盗った?
……いや、そんな訳ない。私の周りには誰も私と同じアイドルを推す者はいない。
じゃあ、なんで。
―――まさか、あの夢って。
普段なら寒いし眠くてまだ眠っているはずの時間だけど、わたしはスリッパを引っかけて机に向かう。
机の上のデジタル時計が示すのは、3年前の4月1日―――あの謎の夢の告げたとおり、高校の入学式だった。
「夢じゃ、なかった……」
あまりに信じ難い出来事に呆然としていると、ふと視界の隅に制服が映る。
…………ん?
「……何これ」
それは、わたしが着る制服とは言い難い、見たことのない制服―――もっと言うなら、都会の女子高生だとか、少女漫画だとかでしか見ないような、可愛いセーラー服だった。
「なにこれ、どういうこと?」
思わず手に取りいろんな角度から見るが、大体大きさは合っているし、ご丁寧に『裾+2センチ』のタグもついている―――わたしは人より腕が長いみたいで合うサイズがなかったため、裾だけ伸ばしてもらったのだ―――。ということは、紛れも無くわたしの制服。
「あら、花純。早かったじゃない」
偉いわねー、と褒めてくれたおかあさんに、恐る恐る聞いてみた。
「ねぇ、おかあさん……今日、わたしが入学する学校って……?」
「何寝ぼけてるの、やっぱり朝には弱いのね……。
県立柏木高校。自分で受験したとこでしょ」
「……だよね」
高校名に違いはないし、県立ってことは一校しかないはず。
「……これがご都合主義ってこと?……いや、意味が違うよな……」
「目が覚めてないなら顔でも洗ってきたら?」
「……うん……そうする……」
おかあさんに促され、とりあえず素直に顔を洗いに行くことにした。
「って、えー!?」
鏡に映る自分を見てまたしても驚愕した―――切ってしまったはずの髪が、胸元まで伸びていたから。
「……たしか、あの美容師……」
耐え症の無いわたしはすぐ髪が切りたくなってしまう。
それで、高校前にイメチェンしよう!と思って予約した美容院が超ヘタな人だった。
だから高校デビューは絶望的だ……とか思っていたはず、だったのに。
『……これは……ご都合主義とかではなく……貴方の欲望が具現化されているのです……』
あれっ、夢の中の女神さま。
『……どうも……先ほど、このことに関して……言い忘れていたので……』
このことって……髪とか、制服とか?
『……ええ……私が干渉できるのはここまでです……これ以降は何もしません……次の抽選もあるので……』
抽選って……だから『選ばれた』ってわけね。
『……そうです……では……健闘を祈ります……』
ありがとう……でいいのか。
「……っ!花純!」
「っはい!」
「立ったまま寝ないでよ。全く、さっさと顔洗いなさい」
「あ、はい……」
……生きていると不思議なことってあるんだね……
そんなことを思いつつも、折角戻ってこれたんだ、絶対後悔のないようにしよう、と決めた。