04.きっかけ
某国民的ロールプレイングゲームをやったことがある人ならわかると思う。
『魔法使いがカンストしたから僧侶やる』
そのくらいのノリでわたしは前の部活ではなく写真部に入部した。
―――というのも、前の部活はそこそこブラックで、放課後に遊びに行くことはおろか、朝練、昼練などは当たり前で高校生活らしいことは何も出来なかったのだ。
……それに、もうわたしが今まで誇りを持って3年間続けてきたことを、この3年間で嫌いになりたくはなかった。
それに写真部は和花ちゃんもいたので、わたしは迷わず写真部に入部することにした。
萌ちゃんと安紀ちゃんも違う部活に入部するみたい(とはいっても似たような系統だけど)だし、紗由里先輩はもとから違う部活に入っていたことになっていた。
「……今度こそ、失敗しないように、かぁ……」
部活のことに思いを馳せながら教室への階段をゆっくり上がる。
後悔のない人生なんて、ある訳がない。
…………だけど、どうせなら無駄な後悔はしたくない。
「……っおはよ!」
協調性など無い、陰キャには冷たいクラスに声をかけてみた。……といっても、ドアの一番近くにいた女子のグループにだけ、だけど。
「……」
挨拶したものの、次になんて続ければいいんだろう……
自分でも呆れるほどのコミュ障に、逃げ出したくなった。だんだん顔が熱くなる。ああ、やっぱやめとけばよかった……そう思った次の瞬間。
「……ふふっ、桂木さん、気合い入りすぎ」
「……へ?」
「クラスメイトなんだから、緊張しなくていいよ。……これからよろしくね」
「……っはい!」
「はい、じゃなくて、うん、でしょ?」
「あ、えと……、っうん、よろしくね!」
……前言撤回。
別に冷たいわけじゃなくて、わたしが壁を作ってしまってた……みたい。
高校の部活を始めてから、だんだん自信が持てなくなってきた。出来ないことを注意されているだけ、なのに、なんだか人格まで否定されるような、そんな3年間を過ごしてきた。
だんだん、『わたしなんかが』と考えるようになった。
……だんだん、自分は周りにマイナスな影響しか与えない、と思うようになった。
どんなに親しい人でも超えられない一線はある。
わたしはその線をだんだん前に引くようになった。
その線を越えてくれたのが―――
「……そういえば、記憶、あるのかな」
あの人は、今も。
誰かの心を溶かしているのだろうか。