08.まさかまさかの放課後





「じゃあ、この問題を桂木」

「はい……」

あの授業以来、さされることが多くなったんだけど、

「……ここからわかりません」

「どうした。この前あの問題はあんな完璧な説明してたじゃないか。」

「……えっと……」

「……まあこの問題は難しいからな。説明しながら解くぞ」

…………ぜんっぜんわからない。
だってあのときはマサアキくんのノートがあったから!!



「はぁ…………」

「幸せ逃げちゃうよ」

「っわ、マサアキくんっ」

「どーしたの」

急に背後から声をかけられた。

「……それが、」

またしても事情を話す。……なんか、こうして悩み事をマサアキくんに相談する日があるなんて。

「…………あ、のさ。今日の放課後、空いてる?」

「っえ?あ、空いてます」

「図書館の、窓際の席にいて」

「え……?」

「んじゃ。移動だから行くね」

「ま、マサアキくん」





「窓際の席って、ここ、だよね……」

向かい合わせに置かれた椅子、小さな鉢植え。

大きめの机の横にかばんを引っ掛けて、とりあえず数学の教科書とノートを広げる。

「……おまたせ」

シャー芯を数回ノックしたところで前の椅子がかたんと動く。

「今日、どこの授業やった?」

「え、と……ここです」

「ふーん……ちょっと教科書かして」

「うぇっ!?」

座るなり教科書を取られる。
ぱらぱらとめくると私の前に差し出した。

「こっからやろっか。書き込んでいい?」

「あ、はい、ご自由に」

「ご自由にって……はは、変なの。
じゃあありがたく」

「あ、その……お、お願いします」

「ん。お願いします」


それからわたしが何かを聞く間もなくマサアキくんの授業が始まった。
ものすごくわかりやすくて、みるみるうちに頭に入っていく。
心無しかノートの取り方も上手になった気が……する。

「……ふぅ。じゃあこんなもんにすっか」

「わぁ、もうこんな時間……ありがとうございます」

見ると、もう下校時刻ぎりぎりだった。
こんな時間まで……マサアキくんは忙しいサッカー部なのに、せっかくのオフをこんなに使わせてしまって……なんだか申し訳ない。

「いーよ。それより、暗くなっちゃったけど大丈夫?」

「はい!わたしは全然……あ、の」

「ん?わかんないとこあった?」

「いえ……その、どうして、ここまでやってくれるんですか……?今日だって、貴重なオフだったはず、なのに……」

「……ああ、そんなこと」

マサアキくんは改めて私の方を見ると、

「気にしなくていいよ。俺が好きでやってることだし。……それに、花純ちゃんの力になれたなら嬉しいよ」

ふわりと、またあの優しい笑顔で微笑んだ。



「……そう、ですか。ありがとうございます」

こんなにも、あなたの笑顔が、声が、優しさが、
私の心をぎゅっと掴んで離さない。



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