#006 熱烈勧誘



「俺たち軽音部じゃなくて、個人的に集まってやってるバンドだから、部室とか無いんだよね。
それでいつも適当に空いてるとこ借りてたんだけど、軽音部が本番前らしくて……でも俺たちもそろそろステージあるから、この教室を貸してもらったんだ。
……ごめん、いつも使ってるのに」

「いや、そんなに気にしなくても……俺は趣味でやってるだけだし」

「いやでも悪いよ……」

どうやら天宮はお人好しみたいでこういうのを気にするタイプらしい。

「じゃあ、ご飯食べ終わったらピアノ貸してくれ」

「あ、うん、わかった!」

ほら早く食べて!と他の3人を急かす天宮。……そんなにしなくていいのに。

ひと足早く食べ終わった俺は手早く弁当を片付けグランドピアノを開く。

「食べてていいし喋ってていいから、勝手に弾いててもいい?」

「うん!……むしろ、聴きたい、です」

「俺ので良ければ」

喋りながら楽譜を用意し軽く指を慣らす。
どうやら他の3人も食べ終わったみたいで、黙ってこちらを見ている。


ふぅ、と短く息を吐き出し、指をそっと鍵盤に乗せる。

柔らかく音を紡ぎ始める。


ジャズのスタンダードナンバー、Candy。

甘く、可愛らしいメロディーを悪戯に崩す。……世の中、甘い飴だけでは無い。

綺麗なハーモニーを絡め、時に崩し、自在に操る。

音を鍵盤で遊ばせ、弾ませ、そっと着地させる。


小さく一呼吸し、鍵盤から降りる。

と。




「……すっごい」

4人分の拍手が起こった。


「…………あ、ありがとう……」

あくまで練習だったし、まだ練習して日が浅いからそんなに聴かせられるようなものじゃなかったんだけど、
……喜んでもらえたなら、まあいいか。


………………と、呑気に思っていたら。



「ねえ、うちのバンド入ってよ!!!」


「…………は?」

森山が、目を爛々と輝かせてそう言ってきた。


「いやお前、キーボードだろ」

「でも独学だしぃ。ドラム今正規メンバーいないからドラムでもやろっかな」

「は?……いや、俺は遠慮しておく」

「えーなんでよ!!!いーじゃん!!!ねえ!」

唐突に森山が後ろの3人に同意を求める。

「……まぁー、ちとせくん器用だし、ドラムやってくれるんならそれに越したことはないよ」

恐らく吹部が忙しいんであろう、立花が安堵半分、申し訳なさ半分で同意する。
それに桃瀬が続く。

「俺も賛成かな。ベーシストとして、もっと楽しくなりそうだし。それに、真白ちゃ「うわああああああ!!!言うなよ!!」……別にいいじゃん、減るもんじゃないし」

一度天宮に遮られた桃瀬が、ひとつ呼吸して改めて口を開く。

「真白ちゃんが、ずっと君のこと言ってたからね。『あいつと一緒に演奏出来たら楽しいだろうなー』って」
「言うなよ!!!!!」

「……天宮」

俺の演奏、そんなに気に入ってたのか。

顔を少し赤くした天宮が、しぶしぶ口を開いた。

「…………そうだよ、実は1年の時からずっと思ってた。何者なんだろ、すげー技術持ってんな、って。
けど、1回だけ覗いて見た時、すげー楽しそうで。
俺、お前と……黒瀬と、セッションしたい」

そう言う天宮の目は真剣だった。


俺はゆっくり口を開いた。


「……お前らが、そう思ってくれてんのは嬉しい。
けど、俺も都合があって」

「っっっどーしてよ!!!!こんなにもしろちゃんが熱烈に語ったのに!!!」

「いやどうしてもこうしても、俺にもバンドがあんだよ」

「バンド!?!?!?!?」



「………………あ」



うっかり口を滑らせたのがいけなかった。



「!!!俺っ、見に行きたい!!!!黒瀬!!お願いっ!!!!!」

「僕もーーー!!!!!いいよね黒瀬くん!!!!ねえねえねえ!!!いいよね!!!」

「二人とも、黒瀬くん困ってるでしょ?……まあ、見に行きたいのは僕もだけどさ」



こうして3人(……いや、2人か)に根負けした俺はついに俺のバンド―――ステラの存在を教えてしまったのだ。





ちとせめも
・意外とお節介焼き。
・キーボードは独学。とても器用

優汰めも
・吹部は忙しいらしい。お疲れ様です


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