#007 喫茶パルティトゥーラ



《真白side》

かたんことん、と電車が徐々に速度を落としていく。
黒瀬に教えて貰った駅は、俺が使う駅の二つ隣だった。そこから案内通りに慣れない道を歩く。

「なんかいいね。静かだし、綺麗な街並みだ」

「インスタ映えしそーっ」

口々に感想を言うももちゃんとちとせ。
確かに、レトロ?な感じのする落ち着いた雰囲気の街だ。

「……ん、あれじゃないかな」

黒瀬が書いてくれたメモを片手にももちゃんが1つの看板を指さす。

『喫茶 パルティトゥーラ』

「ぱるてぃとぅーら……難し」

「何それー、しろちゃんおじいちゃん??」

「ほらほら、入るよ」

焦げ茶のアンティークのドアを開けると、透き通ったベルの音とコーヒーの香りが俺たちを包む。

「いらっしゃいませ……おや、君たち」

カウンターの向こうから、マスターらしき人が話しかけてきた。

「あっ、もしかして天宮くんたち?」

今度は中学生くらいの女の子。

「そうです、天宮真白です……えと、」

「すみません、申し遅れました。
わたくし、パルティトゥーラのマスターをしております、田中純一と申します。
こちらは孫の桃奈です」

「はじめまして、桃奈です。お話はお兄ちゃんから聞きました!お兄ちゃんがお世話になってます」

そう言ってぺこりと頭を下げる桃奈ちゃん。栗色のツインテールが揺れる。

てか、
「いえいえ、こちらこそ!……黒瀬、妹いたんだ」

「あ、わたしはいとこ!まあほぼ兄妹みたいなもんだけど」

そう言ってふふっと笑う桃奈ちゃん。
……確かに苗字が違う。

「まあ、その話は後ほど。
6時からセッションが始まりますので、桃奈、ご案内を」

「あっ、ごめんなさい、立ったまんまお話しちゃって……ではこちらへ」

そう言って慣れた様子で俺たちを案内してくれる桃奈ちゃん。

「桃奈ちゃん、今何年生なの?」

「えっと、中学3年生です!お兄ちゃんと皆さんの2個下です」

「そっかぁ〜、しっかりしてるね!」

「いえ、好きでやってるので」

さすがコミュ力おばけのちとせ、もう仲良くなってる……

「飲み物はいかが致しますか?お兄ちゃんのサービスなので何頼んでも大丈夫ですよっ」

「いやっ、そんな悪いよ」

咄嗟にももちゃんが断る。
俺も続いた。

「元はと言えば俺たちが押しかけたんだし……」

「いーんですよぅ。友達のよしみ?ってやつです。
それに、皆さんきっとお兄ちゃん達の演奏聴いたらまた来たくなっちゃいますから……」

「じゃあ僕キャラメルマキアート!」

「はーいっ……ほら、お二人も、もうすぐ始まっちゃいますよ!」

桃奈ちゃんに促され、有難くメニューを見る。
……すると、俺たちが想像している『バンド』には使われない楽器のチューニング音が聞こえてきた。

……確かに、この落ち着いた雰囲気の店でバンドをやるなんて、と意外に思ったけど……一体何をやるんだろう。

俺がチョコレートドリンク、ももちゃんがカフェモカを頼み、桃奈ちゃんが飲み物を持ってきてくれたところできいてみた。

「ねえ桃奈ちゃん……黒瀬がやるバンドって、どんなバンド?」

「ああ、それはね……」



かちゃり。



ステージ横の黒い扉が開く。

こつこつと、革靴とヒールの音が小さく響く。



黒シャツにベストを着た黒瀬は、いつもの魅力が120%引き出されている気がした。



「ジャズバンドだよ」



ステージ上には、きらきらと金銀に輝く管楽器や色々な楽器が並んでいた。





田中純一(たなか じゅんいち)
喫茶パルティトゥーラのマスター。

田中桃奈(たなか ももな)
純一の孫。中学三年生
パルティトゥーラのウェイトレス。


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