ノックスの物語 - 03

03.捨て子

ノックスは生まれて間もなく、森に捨てられた。
死者の森と呼ばれ人々に敬遠される森であり、貧困層が碌な供養もできずに泣く泣く魂の安息を願って遺体を捧げる命の眠る森である。
そこにまだ名前もない赤子は捨てられた。

森に足を踏み入れることすら恐れた男女は森の境界線とも言える茂みの前に無造作に赤子を置き走り去った。

それを遠くから見ていたのは森に住み森と共に生き、この森の番人をする鳥人ノクスマール。二人の人間が遠くに離れた頃合い、赤子を優しく抱き上げ眉間に眉を寄せ暫く考えるように腕の中の赤子を見つめた。
泣くこともせず静かに見つめ返す赤子の頭を撫でた鳥人は静かに森の中へと姿を消した。

森がざわついている。ノクスマールは森の中心までやってくると赤子を胸に抱いたまま膝をつきゆっくりと背中を丸めた。それはまるで何かに祈るように、懇願する姿だった。
暫くそうしていると、ざわついていた森は静けさを取り戻し穏やかさを取り戻した。

深々と頭を下げた鳥人は静かに立ち上がり、胸の中でおとなしくしている赤子に微笑みを向けた。




******



ノクスマールは人の子を育てることは初めてだったが人の暮らしを見たことがある魔物や鳥の話を聞きなんとか不格好ながら赤子を育てた。
ミルクはないため果汁を与え、歯が生え始めた頃には柔らかい小さな実を与えた。栄養は不十分だったかもしれないが赤子はゆっくりと成長していった。

不器用な愛に包まれて赤子は一人で森を走り回るようになるまで大きくなった。
幸いだったのは、ノクスマールが人の言葉を理解し話せることだった。いずれ成長して人の群れに戻るであろうこの子が人の言葉を理解せず意思疎通が図れないたいう状況に陥ることだけは避けることができる。

要領の良い子は、会話の中で言葉を覚えていった。


「ねぇ、ノクス、俺には名前ってあるの?」


ある日尋ねられた言葉に、ノクスマールはそういえばと思い出した。ずっと坊やと呼んできたため名前をつけるという事を忘れていた。
しかし、人の世で生きる時どのような名前が自然なのかなどノクスマールにはわからない。
何より、魔物に名を与えられるのは不自然であろうと思った。
考えた結果の答えはこうだった。


「名は体を表す大事なもの。坊やの進むべき場所でいずれ己の名前を得る日が来る。」

「そうなの?」

「ええそうよ。」


頭を撫でられ温かい体温に心地よい眠気が訪れる。
腕のなかで目を擦る少年に子守唄を歌えばすぐに眠りについた。
ノクスマールもそのまま微睡の中に潜るように目を閉じた。




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