02.癒しのサナ
懐かしい地上の地を足に感じる。地上に降りて最初に足を運んだのは、唯一の我が子がいる街。
人の姿を模し、人波に溶け込む。
暫く目を離した隙に、人の生活は随分と豊かになったものだ。魂もそれぞれに経験を重ね成長し、天界では見られないものもたくさんある。
「やあ、お兄さん。この街は初めて?」
人や物を物色しながら歩いているとよく声をかけられる。
皆口々に教会に足を運ぶといいと告げる。我が子ながら随分と慕われているようだ。
白を基調とした建物に囲まれるこの街は白い街とよばれ、信じるものには救いを、病める者には癒しを与えてくれる神の加護に預かる街だと言われている。救いや癒しを求め人が集まりそして救われ、神に仕える人々が増えていったらしい。
思っているよりも、我が子は人が好きなようだ。
最初こそ直接会いに行こうと思っていものの、街の人々に言われた通り教会へと足を運ぶことにした。
街の人に道を尋ねたどり着いた教会も例によって白く綺麗な作りをしていた。
教会内に足を踏み入れれば、僕の来訪に気づいたらしい我が子が道を示す。
教団のあるホールを抜け奥の通路を進んだ先の扉。扉を開けばそこには建物の大きさに似つかわしくない広い庭園が広がっている。
その先へ誘うように続く道を進めば至ってシンプルな、それでいて上品な白いテーブルとチェアが二つ。テーブルの上には爽やかな香りが鼻をくすぐる液体と、見たことのない愛らしい固形物が並べられている。
しかし、そこに庭園の主の姿はない。
「お早いですね。待たせてしまったでしょうか。」
「いや、ちょうど今腰を据えたところだよ」
「それはよかった」
輝く銀髪に、淡い新緑の色が滲む艶のある髪を風に揺らしながら現れた庭園の主。
僕の向かいに座り、柔らかい表情を見せる。
「会いにくるなんて、珍しいこともあるものですね。」
「せっかくきたからね。
街の人々から随分と暑い信仰を受けてるようだね。」
「ええ、あなたから授かった癒しの権能のおかげで。今ではサナという名で呼ばれています。」
「素敵な名だね。名は体を表すとはこのことかな。」
花の模様が施された器に入ったそれを喉に流し込むのを見て、その動作を真似る。
先ほどから香っていた爽やかな香りが鼻を通り、液体が喉を流れていく。程よい渋みとほんのりと感じる甘みが口に合い、また一口と喉を鳴らした。
「気に入りましたか?」
「人の食べ物を口にするのは初めてだけれど、これはいい。気に入ったよ。」
「紅茶と呼ばれるものです。種類は私もよくわからないですがこの街で手に入るでしょう。」
後で探してみるよと告げ、お互い興味もないがそれらしい近況報告をし、他愛ない会話をいくつか繰り返す。
何故人の姿で会いにきたのか、その問いに対して素直に答える。
己の知る中で一番人間と近くで見ていた我が子なら何かわかるだろうと尋ねたのだ。
「人は死を恐れます。それはその先を誰も知らないからです。
簡単なことですね、あらゆる生物は未知を恐れるものですから。」
「その先に約束される何かがあれば、恐れは消えると?」
「それが安らぎであるならばそうでしょう。」
穏やかな顔とは裏腹にサナの溢す言葉の色はどこか冷たさが滲む。しかし落ち着くその声色は耳馴染みがよく透き通っており風に溶けるようだ。
死の先に何があるのかわからないから、人をはじめ死を認知する生き物たちはそれを恐れる。
それはそうだ、死んで生き返り死の先になにがったかを伝える者はいない。
何が起こるかわかりもしないのに、恐れることはないと伝えるのはなんとも難しいものだ。
サナはそう語る。だから人々は私やその他の神々に癒しや救いを求めるのだと。
「参考になるよ。」
「畏怖されるのは、やはり快いものではないのでしょうか。
人は、色々なことを考え、我々とは違う感情を有していますから。
情報としての彼らを伝えることはできてもその真髄に触れるようなことは私にはお伝えすることはできません。」
ヒトを知りたいのであれば、遠い昔のようにヒトと共に在ってみてはどうか。
そう提案され、もとよりそのつもりでいたことと共にしばらくこの街に居座らせてもうことも伝え了承を得る。
「そういえば、知っていますか。ここから離れた大きな山に魔物が2匹住みはじめたそうですよ。」
「魔物が?」
「はい、あなたのご友人が放たれたそうですが」
「それは初耳だね。ついでに伺ってみるよ。」
「ええ、そうしていただけると。」
紅茶を飲み終え、立ち上がる。
短い別れを告げて、来た時と同じ道を辿り教会を出た。
賑わう人波の中へと足を進め、これからどうするべきか思案する中。
困惑した表情で人と会話をしている青年に目が留まる、と同時にばっちりと目が合い何故か離せなくなった。
助けを懇願するような顔色に思わず手を差し伸べることになる。
続
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