2 マリア・スミスがその話を聞いたのは、昨日の昼過ぎの事だった。 「今日、養子がくるんですって」 「ジョナサン様がいるのに、ジョージ様は養子をおとりになるの?」 「なんでも命の恩人の息子なんですって。身寄りがないので引き取るらしいわ」 「まあ! 相変わらずお優しいのね!」 洗濯物を抱えた先輩メイドが庭で話している声が聞こえる。 その時は、まさか自分の顔見知りが養子としてやってくるなどと想像もしていなかった。 だって彼女は貧民街の生まれなのだ。 運良く職にありつけることはあっても、まさか貴族の養子になるなんて誰が想像できようか。 「マリア! 洗濯が終わったらベッドメイクよ! 新しいシーツをもってついてきて!」 「はい!」 「マリアは本当によく働いてくれるわ」 「ベッドメイクが終わったら少し休憩しましょう。メアリーが新しいお菓子を作ったんですって」 「働き者のマリアにはひとつ多くお菓子をあげる!」 「貴方がいて助かるわ」 「マリアもジョージ様が連れてきてくださったんだから、感謝しないといけないわね!」 彼女がジョースター邸に雇って貰う切っ掛けは父だった。なんでも外出されたジョースター卿の靴が壊れてしまい、たまたま近くを通りかかった父が修理したのだとか。 マリアの父親は靴屋だ。店はそれなりに繁盛している。 だが母親が病気がちで、薬代や弟妹の学費などを考えるとどうしても足りなかった。 弟はふたり、妹がひとり。自分は学校へ行けなかったが、せめて弟と妹は学校へいかせてあげたいとマリアは強く思っていた。それから、両親にも楽をさせてあげたい。 彼女は家族のために、ひとり家を出て賢明に働いていた。 メイドは長時間労働でなかなか厳しい仕事だが、仲間は皆優しい。ジョースター卿もその息子であるジョナサンもだ。 だからマリアはこの職場が気に入っている。 彼女にとってジョースター邸は第二の家だった。 [しおりを挟む] 目次戻る |