金ぴか行進曲

「常連はサーンタクローズ♪本当はサーンタクローズ〜♪フーンフーンフフーン、フンフンフンフンフーンフーン♪」

「そこしか歌えないのかよ」

クリスマスに向けてお店の飾り付けをしていると、呆れた様子で松田さんが入ってきた。鼻歌を聞かれて恥ずかしい。イケメンはクリスマス引っ張り凧なはずなのに喫茶店に来ていいのかな。しかしながら、脚立に登ってかれこれ一時間くらい作業をしていたんだけど、今丁度男手を欲していたのだ。そろそろ腕が痛くてどうやって楽に仕事ができるか考えてたのだがナイスタイミング。

「あ!松田さんいいところに!ブルマン奢るから手伝って下さい!」

「ん。降りてこい」

「はい、じゃあ場所交代。これをあっちとこっちの出っ張りに引っ掛けてー、それでこれをくるくるっと」

「…良くこれを1人で飾る気になれたな」

床に散らばるオーナメントを見て松田さんがちょっと感心したような声を出す。毎年こと時期とハロウィンは大変なのだ。もう周りの喫茶店とかチェーン店とかツリー、内装、イルミネーションのフルコンボだからね。うちはアルバイトもそうそういないから全て1人で飾り付けをしているけど、そろそろ世の中の波に乗らなくてもいいのでは、と思ってる。今年は天井から釣り下がるツリーにしてみたのだが、これがまた思ってたよりも大変で内心後悔していたんだけどそれは黙っておこう。

「本当は松田さんとか萩原さん辺りが来てくれるんじゃないかとちょっと期待してた」

「いつになく素直だな…変なもんでも食ったのか?」

「松田さんは私をなんだと思っているのかな?ん?」

「歌が歌だし何か強請られるのかと思った」

「失礼な!」

恋人が居そうな人に強請るとか何処のトラブルメーカーだよ。バブリー甚だしい。私だってその辺は弁えている。くれるなら喜んで貰うけど強請るほど物欲はないし、そもそもクリスマスイブ当日は午前中しかお店開けませんし、クリスマスはそもそも定休日です。来るのはお年寄りか常連ばかりだし、何が悲しくて恋人達横目に誰もこない店内で仕込みをしないといけないのだ。私は帰る。恋人(こたつ)の元へと。

「夜開けねぇの?」

「うん?恋人達のクリスマスイブを邪魔する気は無いからね」

「…」

「え、来る予定だった?」

無言のままじっと見下ろされて首をかしげる。ここに来る暇があるなら仕事早く切り上げて恋人との時間を作ればいいのに。いや、来てくれるのは嬉しいんだけどね。そうか、と呟いた松田さん。ぽちぽちとスマホをいじってからまたオーナメントの飾り付けを始めた。何だったんだろう。聞こうかと思ったけど、タイミングよく少年探偵団が来店してしまったため、聞きそびれてしまった。

「店長さん、こんにちはー!!」

「今日はやってんだな!」

「学校終わってから走って正解でしたね!」

「おい、お前らあんまり騒ぐと迷惑だろーがよ。なまえさん、久しぶり」

「あら素敵なツリーね」

「皆、いらっしゃ〜い。いつもの?」

「うん!」

「了解〜松田さんもその辺で切り上げてくれて大丈夫だよ。もうすぐお湯沸くし冷めると風味が飛んじゃう」

「おう。これだけやったらな」

少年探偵団の5人を席に通し、それぞれいつも飲んでいる商品の注文を取る。松田さんにも声をかけてホットカフェオレ3つとカフェモカ、ブルマンのブラック2つを用意するためにカウンターへ入った。みんなブレないな。ここの珈琲を飲むためにあの大食漢の元太君でさえ毎月お小遣いを貯めていると聞いたときはなんだか涙が出てしまって、これからも美味しい珈琲を入れようと決意したのは記憶に新しい。それぞれに商品を配り終えたところで、歩美ちゃんがとことことカウンター席の方へと歩いてきた。キラキラした目をしてどうしたの。興味深そうに松田さんを見上げた後、嬉々として切り出した。

「お兄さんは店長さんの恋人?」

「ぶっ!!!毎回何を言い出すの歩美ちゃん!この人は常連さん!」

「そうそう、なまえちゃんの恋人は俺だよ〜」

「お前こそ何言ってんだ、萩原」

「そうなんだ!」

「違うよ歩美ちゃん!!この人たちは2人ともただの常連さんだからね!あ、そうだ!クリスマスフェアでサンタさん宛に手紙書くキャンペーンやってるから書こっか!はい!これに名前と欲しいもの書いて飾り付けに使ってる靴下に入れてね!!」

5人分のメッセージカードとボールペンを渡すと興味はそっちに向いたのか、両手にそれらを抱えて席に戻っていった。良かった、彼女がまだサンタクロースを信じてるお年頃で。振り返ると同時に萩原さんへ非難めいた視線を投げると、冗談だよ〜なんていつもと同じヘラっとした表情で言われた。心臓に悪い冗談はやめて欲しいです。

「近頃の小学生はすぐ信じるんだから、有る事無い事言わないでください〜変な噂だったらどうするの!」

「あはは、ごめんね。半分本気だったんだけどなあ」

「冗談は顔だけにしろ」

「そうだそうだー!」

「最近俺の扱い酷くない?!」

「いつも通りだろ。なあ、なまえ」

「そうだね、いつも通りだよ」

「え〜…なまえちゃんはまあ置いとくとして、松田、最近抜け駆け多く無い?いつの間に抜け出してんの?」

「お前がTL警備してる時」

「仕事しなよ、萩原さん」

「してるよ!気分転換にちょこっと覗いてるだけじゃん!なまえちゃんまで冷たい目はやめて!」

グァテマラを入淹れてつつ温度を下げた視線で訴える。全く、2人ともちゃんと自分の顔面偏差値の高さを把握しているのだろうか。このお店にも実は萩原さんとか松田さんのファンがいるんだよ。冗談を本気で捉えられて困るのは私だけで、逆恨みでネットに書き込みされたらどうしてくれるんだ。

「冗談は程々にしてね?出禁になっても知らないよ」

「それは勘弁してほしい!というかクリスマス開けないってほんと?!」

「え、あ、うん。イブは午前中で閉めるよ」

「何で?!予定入ってないと思ってたのに!」

「私そんなに寂しい人感出てる?ショックだわ〜」

ちなみに松田さんにも視線を送ったが彼も萩原さん同様、予定入ってないと思っていたらしい。それって女としてどうよ。ここは見栄張ってでもデートとか言うべきだったんだろうか。それはそれで何だが騒がれそうだけれども。

「今時のアレだろ?カップル入店お断り的なやつ」

「いや、そんな大層な意味はなく…」

「店開けないだけ?予定はない?」

「がっつくね、二人とも。何が困るの?」

「別に。んで、どうなんだよ、なまえ」

「ええ!予定ないですとも!クリぼっちですが何か?!」

やけくそにそう言い切ったけど、それを聞いた萩原さんはパアッと表情を明るくしたし、松田さんは悪い奴の如く片方の口角を上げたので、何だがとっても嫌な予感がする。まさかとは思うけど、私の家に押しかけたりしないよね?みんな仕事と職場の女性と予定入ってて忙しいよね?

「何か嫌な笑顔だなあ、2人とも」

「お前も十分酷えよ」

「俺ショックで泣いちゃう〜」

そう言いつつも楽しそうに笑ってるので信憑性は全くない。そんなことをしている間に小学生組に呼ばれた。二名を除いてそれぞれ小学生らしいプレゼントをメッセージに書いている姿を見て、ああ、子供は純粋だなと改めて感じた。うん、コナン君と哀ちゃんは人生2回目なのかな?フサエブランドの財布、しかも最近作と某推理小説原書全作品集って何。いくらなんでも小学生がクリスマスに頼むプレゼントじゃないでしょ。ヤイバー仮面のベルトとか書いてる元太くんを見習ってほしい。

「店長もなんかくれんのかよ?」

「元太君、強請るのは良くないですよ…」

「うーん、私があげられるのはお菓子くらいかなあ」

「わーい!じゃあ歩美たちまた来るね!」

「気を遣わなくても大丈夫だよ、なまえさん」

「お菓子といっても珈琲請けの延長だし、コナン君も気を遣わなくて大丈夫。でも25日は定休日だから気をつけてね」

「あら、クリスマスはお楽しみなのかしら?」

「残念ながらそれはないかなあ。哀ちゃんが言うと急に色気が出るから不思議」

ふふっと楽しそうに目を細めて笑う彼女がは私よりもずっと大人の色気があって何だかすごく負けた気分である。小学生に負ける私の色気とはいかに。色ペンの有無を聞かれたのでスタッフルームに置いてあったPop用の物を貸し出したのだけど、歩美ちゃんとメッセージカードをデコる哀ちゃんは年相応に見えた。コナン君は途中で飽きたみたいだけど、歩美ちゃんに促されて渋々何か書いていたようだ。ちらっと見たあの絵は絶対呪いの絵だと思う。

「なまえちゃん、お会計お願い〜」

「はーい。お構いできずごめんね」

「いや、珈琲舐めるだけで十分だから気にすんな」

「そうそう。なまえちゃんの珈琲で午後からも頑張れるしね」

「ふふ。そう言ってもらえると嬉しいなあ」

惜しみない賛辞をくれる松田さんと萩原さんに、クリスマスプレゼントの意味も込めて一杯無料券をつけてあげると、尚喜んでくれたので良し。そのまま午後の職場に向かう2人を見送った。


title by 骨まみれ