「メリークリスマース!」
「…」
「待て待て閉めるな!この格好で来た俺をもう一回羞恥の渦中に蹴り落とす気か?!」
「トナカイは間に合ってますー!!」
んぎぎぎぎ、とドアノブが壊れるんじゃないかと言うほど強く握りしめて自分の方に引く。これはあれだ、気を抜いたら全て持ってかれるやつ。後戻りできなくなるやつ!トナカイのツノを模したカチューシャをする油井さんに腹筋を持ってかれそうになったけど何とか耐える。ぬくぬくと恋人に抱かれて、みかん片手にクリスマス特番を見ていた私を寒々しい廊下に押し出したのは、何とも場違いなインターフォンの音である。ええ、この時すでに嫌な予感はしてましたとも。それでももしかしたら宅配かなとか思うじゃん。案の定これだよ。
「今日は恋人と過ごすんですー!」
「あいつは4股してなんぼだろ!つか恋人こたつとか寂しいやつの代表じゃねーか!」
「ええい!煩い!こたつはただそこにあるだけだ癒しをくれるからいいんですー!」
絶対開けられてなるものかともう一度腰を落として踏ん張りをかけた時だ。後ろから第三者の声がして慌てて振り返る。リビングを見ればお酒が入ったビニール袋を指に引っ掛け、ドアにもたれる赤井さんが立っていた。
「なまえ、シャンパンを買って来たんだがグラスはあるか?」
「ちょ、え?赤井さん?!え、は、どこから入ったの?!」
「窓だが?」
「んん?!うわっ…!」
「赤井サンタさんきゅ〜いやぁ寒かった。俺もこたつに入ろ〜」
窓って何。どういうことなの。赤井さんの口から出て来た答えに呆気にとられた途端、手の力が緩み油井さんに押し負けた。ズカズカと入って来た彼はすれ違い様、私の頭にトナカイのカチューシャをセットすると、寒い寒いと言いながらリビングへと向かう。もう何が何だか分からなくてその背中を見送るしかなかった。
「丁度なまえの部屋は非常階段がある場所でな。サンタ役ならこれくらいした方がいいだろう?」
「いや、ドヤ顔で言われても困るから」
「真っ黒いサンタもどうかと思うけどな」
「む…真っ白いひげを付けたほうがよかったか?」
「そういう問題じゃないかな!てか上の階の人良く許したね」
「姪っ子を喜ばせるためだと言ったら協力してくれた」
「他国の捜査官は協力者の抱き込み方も違うねえ!」
「油井さんが言えた義理じゃないからね。てかサンタとトナカイがバラバラに来たら意味ないよ。単独行動し過ぎでしょ」
居座る気満々の彼らをこの寒空の下放り出すわけにも行かず、渋々こたつにお迎えした。ちゃっかりというかしっかりというか、お酒とおつまみがたっぷり入った袋を持って来た2人はもう全て計算済みの行動だと言っていい。断じて私はホームパーティをしたがる人間ではない。どちらかと言えば引きこもり推奨派である。というかサンタ役ならケーキワンホール買ってこいってんだ。
「そうそう、降谷がキルフェボン買ってくるらしい。なまえはスポンジよりもタルト派だったよな?」
「は?降谷さんも来るの?仕事しろよ公安!断然タルト派!!」
「言っとくわ。この日の為に俺も降谷も仕事終わらせたからなぁ」
「それは別にどうでもいいんだ、聞きたいのは何で家主の私がこのクリスマス会の存在を知らないのかだよ」
「なまえが店を閉めるのは別の2人から情報提供を受けていたからな。家にいるなら言うまでもないだろう」
「プライバシーとは?!」
「あってないようなもんだろ、なまえの場合」
「うわぁ」
もうこの時点で色々私も予想がついてる。つまりはあの日から始まっていたのだ。なんだかおかしいと思ったんだ、やたらと日程聞いて来た割にはあっさり引いたあの2人。私がちゃんと家にいるかの確認だったんだろう。許せん。わなわなとこたつで震えていると、もはや自分の家であるかの如くケーキの袋とすき焼きの材料を片手に残りの3人が玄関を開けた。あれ?インターフォン鳴った?私カギ閉めなかったっけ?
「なまえ、ケーキは冷蔵庫に入れておきますね。貴女の好きなイチゴタルトですよ」
「わーい!でも来るなら前日に一言ほしかったなー」
「あ、トナカイ可愛いね〜。まあお詫びと言っちゃあれだけど降谷くんの財布で高級和牛を買って来たからたんとお食べ」
「お前んちってすき焼き鍋あったか?無かったら買いに行こーぜ」
「だから、なんで私の家?!このやり取り何回目?!」
ズカズカと入って来られて部屋の人口密度が凄い。赤井さんも油井さんもこたつから動こうとはせずに片手だけ上げて挨拶してた。空いてるスペースに身体を滑り込ませようとする3人だけど、私の家のこたつはそんなに広くないわけで、誰か抜けたらここぞとばかりに始まるのは椅子取りゲームならぬこたつ取りゲームである。
「ちょっ…!狭い!!誰か抜けようよ!無理無理、降谷さん無理だって!」
「隣、失礼します。もうちょっと詰めてもらえば大丈夫ですよ」
「何が?!全然そう見えないよ?!」
「なまえ、そろそろすき焼きの準備を始めなくていいのか?」
「赤井さん、さりげに私を立たせようとしないで。てか食べるなら赤井さんが準備してくれていいんだよ?」
「俺はなまえちゃんが作ってくれた方が嬉しいなあ」
「その言葉は嬉しいんだけどね、萩原さん。大人6人分とか量が半端ないよ。私の細腕じゃ鍋の重さに耐えられない」
「普段は5キロの珈琲豆持ち上げてるだろ?それに比べたら鍋6人分なんて余裕だから安心しな」
「松田さんはそうやってデリカシーのないことを…」
「じゃあなまえ、俺と一緒に用意をしましょうか」
「さっすが降谷さん!お肉は二人で山分けしようそうしよう」
ここまで来たらもう腹をくくるしかないのだ。根が生えたんじゃないかと思うほど立ち上がらない彼らには何を言っても暖簾に腕押し糠に釘。食べるだけ組は適当にくつろぐか昼寝でもしていろと吐き捨てて、降谷さんとキッチンへ移動する。食事の準備にはまだ早いけど下ごしらえくらいしておいた方がいいだろう。私以外よく食べる男どもなのだ。これでお酒でも入ったら本当に誰も動かなくなるので、足りないものは早めに買い出しに出てもらおうと思う。
「お、なまえ〜Switchあんじゃん!やろうぜ!」
「さすがゲーマー。マ〇オパーティーとか地味に楽しめそうだな」
「暇だしちょうどいいねえ…皆でやりますか!」
「…俺は遠慮しておこう」
「ちょっと、私抜きで話進めないでよ」
「え?赤井、お前逃げんの?」
「この手のゲームは初めてでな。勝手が分からん」
「ふ…赤井にも弱点がありましたか。何なら懇切丁寧に教えてあげますよ?」
「ちょっと降谷さん、腕まくりして向かう方間違ってるから。キッチンはこっちなんだ、せっかく来たのに戻ってどうするの」
「コントローラー4つあるし、俺となまえちゃんは交代でやろっか」
「じゃあ降谷は油井と交代だな。赤井は俺がやりながら教えてやるよ」
「ねえ、聞いて。皆、私の話を聞いて!」
悲しきかな、誰も私の声に耳を傾けないどころか、ゲームができるようこたつとソファーの移動を始めた。この場にいる全員の心に直接語り掛けてみたけれど、ATフィールドでも貼られているのか全く届かない。なんて頑丈な。ねえねえと降谷さんの裾を引っ張ってみたけど、すでに彼のやる気はテレビゲームへと向けられており、なおかつ赤井さんを倒すことに情熱を燃やしている。もう一般人である私が止められる範囲を十二分に超えているようだ。そうしてまた一波乱あり、死屍累々の惨状が出来上がるなんて想像するに容易い。そうは思うものの何年かぶりのにぎやかなクリスマスを何だかんだで楽しんでいる自分もいて、結局は仕方ないなあと受け入れてしまうのだ。
「ちょ、マイキャラはヨッシーなんだ。いくら萩原さんでもそこは譲れない!」
「え〜でも俺は王道のマリオ派なんだよね」
「赤井、お前ワルイージとか似合わなさすぎ。俺はピノキオ一択」
「使えれば何でもいいだろう、たかがゲームだしな」
「ふ…これだから初心者は。キャラに付与されたステータスを舐めないでください」
「ゼロ、お前クッパ好きだよなあ…俺はデイジーがよかった」
title by 骨まみれ