愛し恋唄







 いつもは着ない黒いベストに細身のジーンズを合わせて。

「んー……」

 部屋の姿見で何度も確認する。たまには帽子でもかぶってみようかな。涼ちゃんとかの雑誌結構見てるみたいだし?

 まあ、その理由が俺の為ってんだから堪らないけど。でもやっぱオレはこの赤いカチューシャっしょ!まこちゃんからの贈り物。
 この間、デートの途中でまこちゃんは俺がつけてたカチューシャ無くしちゃったんだと勘違いして似てるの探してきたみたいだもんな〜〜。
 可愛かったな……じゃない!!


 白いシャツを腕捲りして、ブレスレットをひとつ付ける。
 んー。どうしよ。リング…よりはネックレス。革紐のシルバーのクロスにしよう。まこちゃん金属アレルギー気味だし。
 それから少しゴツめのスニーカー。オレンジの指し色の入ったそれは彼女が選んで、それでクスクス笑ってたやつ。
 ワンパターンって笑われっかな…まぁいっか。

 とりあえず、と玄関の姿見でも確認して…。
「うっわ、オレ超気合い入りすぎじゃね?」
 一言目がそれだったあたり、俺って…でも、久し振りのデートだったから浮かれていた。
 仕方ないのだよ!まだ若いんだから!




「っと!もう時間じゃん!行ってきまーす!」
 待ち合わせの時間に合わせてうちを出る。時計を確認しながら、スマホを見てひとつ。『もう家出た?オレも家出たよ(ゝω・)』

 なんて返そうか悩んでくれて、結局素っ気ないんだろうな、なんて思って笑った。『私も出た』
 やっぱり。笑いが込み上げる。
 可愛い、可愛い。もうほんと可愛い。

 でも少しだけ早足で待ち合わせの駅まで行く。彼女のさせられてるプレーが原因で、誰かに見付かるとうるさいからと少し遠い駅で待ち合わせだし、それこそキセキたちに見付かったら問答無用で連れ去られそうだ。

 早いとこあのプレーをさせてる原因であるあの顧問をぶち殺して…いやいや、それはダメだ。今吉さんにも言われたんだから、俺は気付いてないフリして、我慢。我慢我慢。
 その為に嫌々だけど霧崎の人達だってオレたちとLINE交換して情報出してくれてるんだから。
 でも、俺だってムカついてる。本当なら1番にキレたい。
 今吉さんに問い詰められて、霧崎に庇われてた花宮を思い出す。

 顧問が困ったように微笑んで、謝りなさいと促していたあの時、本当なら1番腸を煮えくりかえしていた霧崎第一の人達がいたんだから。知らないフリをするのだって花宮を守ることなんだって言われたんだから、俺はそれをしなきゃ。



 そうだそうだ!いいことを考えよう。
 これから、あの人に会えるのだから。せっかく会えるのだ。あんな奴の事を思い出してこんな風になったままでは良くない。






 ガヤガヤと騒がしい駅を抜けて、待ち合わせ場所に急ぐ。
 久し振りだから、会いたいなぁって言葉に、こくりと頷かれたのがいとおしかった。



 駅を抜けて待ち合わせ場所を見たら彼女はまだ来てない。セーフだ!
 久し振りのデートで彼女待たすとか最悪だし。
 今日は何しよう。どこへいこう。彼女の好きな新刊が出たと聞いたからそこへ行こうか。それとも彼女の好きな水族館?映画とかどうかな…いま、まこちゃんの好きな俳優さんが出てる映画あったよな…
 あ、黄瀬がちょっと出てる映画もあったっけ……
 スマホをタップして情報を見る。予め情報は収集してたけれど、やっぱり生きた新鮮な情報っていうのはその時に探すに限る。

 映画、のあと本屋とか…ああでも、うーん。あっ、プラネタリウム新しいのが出てる!
  まこちゃん、プラネタリウム好きなんだよなあ…いつもプラネタリウム見る時目がキラキラしてるし、待ち時間とかも。
  あー、待ち遠しいなあ…



  あっ、そろそろ来るじか…「あのー、お一人ですか?」
 思わず。思わず溜め息が出そうになった。なんでここ、こんなに声かけられるんだろう?
「ううん。オレ先約あるんだ」
「あ、お友だちですか?それなら、私達も二人なので」
「あ、違う違う」
「えー?お願いします!」
「だから、今日は先約があんのー。無理だから」

 女の子に囲まれてしまった。やばい、今日は本当にヤバい。
 待ち合わせの度にここにいると女の子が来るのは何でだ?
(後から黄瀬に聞いたが有名なナンパスポットだったらしい。知らなかったオレ、バカス←)


 あぁもう、まこちゃんと久し振りのデートなのに!!
 まこちゃんはいつも、女の子らしくないとか気にして俺の前だと私とか使う。そんなの気にしなくていいのに……じゃねぇだろ俺!!彼女は口にしないが、いつも愛想がいいほうが可愛い?と聞きたそうにしてるんだから、こんなとこ見せたくない。


 可愛いのも愛しいのもあの子だけ。


 あぁもう超ウザい!
 ………そういえばこないだの雑誌にナンパを体よく断る為にはって載ってたな……

 や、でもあれダメだろ…。いや、でも……マジ邪魔なんだけど。こいつら。まこちゃん困っちゃうじゃん。1回だけ…言ってみるか?1回だけ……

「えー、もー、今日はダメだってば!また今度ね!」





 その瞬間、
 時間が止まった気がした。
 俺の眼に移った、泣きそうな彼女。

「あ……っ!?やべ、真さ……!?」

 ばっ、と踵を返して走り出した真。

「まじかよ……!!」
 あぁもう何してんだろ、
 オレなにしてるんだろ


 大事な子を泣かせて
 涙がぽつり、オレの頬にぶつかった。  







 愛し恋唄




 必ず見つけるよ。だからなかないで

 そして、2度とあれは言わないし2度とここを待ち合わせ場所にもしない。
 そう誓った。







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