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けれど、それでも尚、ドリスは自分に向けられた殺意よりも、自分が気になった疑問の方が大きかった。
相手にかけようとしていたカーディガンを羽織直しながら、じ、とヴァルゼライドの顔を見つめる。

「何だ」
「ああ……いえ、何でもないんですよ」

少し考えてから、ドリスはなんでもない、と言って笑った。
ヴァルゼライドに笑顔を見せてくれ、と頼んでみても多分不愉快そうな顔をされるだけだろう。
既に不審げにこちらを見てくるヴァルゼライドへと微笑むと、わざとらしくドリスは口元へと手を当てた。

「どうしました?今日の私、そんなに可愛いですか?」

長さの揃わなくなった髪を誤魔化すために編み込みにしてまとめた髪、瞳孔の開いた胡乱な瞳。
いかに少女の姿をしていても見るからに異常さが滲み出ていた。

「巫山戯た事を言うな。貴様は常と変わらず塵屑だ、そしてその貴様に気付かなかった俺もな」
「気付いてなかったんですか?」

驚いたのはドリスの方だった。
少なくとも気付かれて当たり前だと思っていたし、実際カーディガンをかける前にヴァルゼライドは目を覚ました。
てっきり、目前の自分を感じて経験則から反射的に刃を向けたと思っていただけに、寧ろどうして気付かなかったのかと意外にさえ思えた。

「普段の貴様ならば異様なまでの勢いで俺に接触してくるだろう。気配を隠すつもりなど微塵も感じられん」
「まあ、隠す必要もあまり感じませんから」
「それが今のは何だ、貴様らしくない、、、、、。まるで俺を気遣うように気配も動きも抑えられたものだ」

気遣う?まさか。
ドリスには他人の心など微塵も分かっていないし、考えるつもりも抜け落ちている。
自分が与えたいものを、与えたいだけ押し付けるというのがドリスの愛に過ぎず、だからこそヴァルゼライドはそれを無視しているのだ。
それが、他人を気遣うなど、ドリスのあり方を真っ向から否定している。
だからこそ、ドリスは思わず笑って、口元に手を添えた。

「まさか、私にそんな器用なことなんてできませんよ」

両親に言われ、孤児に拒絶され、そして頭が砕けて物理的に脳を欠いた。
他の人造惑星たち同様に衝動を焼きつけられた事を加味しても、生前に持ち合わせなかったものを、死後に突如得ることなど有り得ないのだ。
ましてドリスは出来損ないの人造衛生。
木星ヴァルゼライドの重力に引きずられるだけの自立意識すらない、1人で生きることのできぬ欠陥品に他ならない。
だからドリスは断言しきった。
自分には他者のことなど考えられない、と。
それはヴァルゼライドのいう他者のために、誰かのためにという大義とは真逆に自己のために、自分だけのためにという低俗な主張だった。

「──俺には寧ろ、貴様は他者を考えないようにしているとしか思えんな。自己の欲求に素直なのは事実だが、自己の痛みには真逆に鈍感だ。他人を理解出来ないというのはその鈍感さが原因なのではないか」
「え────」

考えたこともなかった言葉に、一瞬ではあるがドリスの瞳孔が縮んだ。
英雄を目の前にしながら、瞳孔が収縮するなどドリスにとっては初めてのことだった。
英雄の瞳はどこまでも鋭く、総てを見通すかのようにドリスへと向けられていた。
今までドリスは観察を続けていたが、ヴァルゼライドから観察を受けるのは初めてだった。
だから、ドリスはその瞳に対してどう反応していいのか、何一つの対処ができなかった。

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