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愛とは何か?
それはドリスにとってなんら命題にもならない問だった。

愛とは与えるもの、差し出すもの。
ドリスという女は少なくともそんなふうに考え、実行に移してきていた。
それは生前も、そしてその影絵のように蘇った今でさえも変わらなかった。

「ヴァルゼライド大佐、これ今月の分です」

セントラルの深奥、本来ならば民間人の立ち入れるようなはずのないかつての軍事施設の名残に少女の声が響いた。
封筒としての許容量ぎりぎりまでものを詰め込まれ、上から糊とマスキングテープと粘着テープで強引に封をされたそれを差し出され、ヴァルゼライドはその顔に如実に嫌悪の色を浮かべた。
封筒は唐草の模様が描かれており、そのものとしては大人しい。
しかし、宛名シールに描かれた特大のハートマーク、マスキングテープにも一面にピンクのハートが乱舞している。どこからどう見ても恋文という他ない様相を呈している。
いや、それの外観はこの際どうでもいい。
この際、この手紙が浮かれきって脳に腐葉土が敷き詰められた小娘の妄想が詰まっていたとしてもヴァルゼライドは歯牙にもかけなかっただろう。
問題は別にあった。

「貴様、俺は報告書を提出しろと言ったはずだ」
「はい、ですからその中に入れてあります。ほら、一応は私の存在も機密ですから……」

さも機密を誤魔化すために恋文に偽装したのだ、と言わんばかりに嘯くドリスの姿にヴァルゼライドは最早会話することも嫌悪だと口を噤んだ。
そして、机の上のペン立てからペーパーナイフを抜くと封筒へと宛がって切込みをいれていく──瞬間。
栗色の毛髪が封筒と中に詰められた便箋、報告書の類より先に一気に溢れ出した。


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