2


そう、これこそが鋼の英雄が嫌悪するこの女の悪癖の顕現であった。
さも嬉しそうに、ざんばらになった自分の栗色の髪を摘むドリスの姿にヴァルゼライドは生理的な嫌悪感から眉間に皺を寄せていた。

毎回がこうなのだ。
最初のうち、ヴァルゼライドはこれを運命に巻き込まれたことに対するドリスなりの抗議として受け止めた。
不満なのだ、不快なのだ、なぜ巻き込んだ、そうした思いの丈を詰めた抗議だと。
その次には、ヴァルゼライドはこれをドリスの嫌がらせだと受け止めた。
巻き込まれたことへの抗議ではなく、その不満をぶつけるのに武力が足りぬドリスなりの仕返しなのだと。

だから、その頃にはヴァルゼライドからドリスへと向けられる感情に少なくとも嫌悪はなかった。
始末する必要が出来たゆえに奪われた命とはいえ、帝国に生きる民の1人、自分が守るべき存在であった彼女の抗議、あるいは嫌がらせであるならば、それは須らく己の不徳の致すところであり、真摯に受け止めた上で対処せねばならんのだと、ヴァルゼライドはごく当然のように考えた。

しかし、実際にはドリスには不快や不満はもちろん、嫌がらせの意図などまるでなかった。
彼女の髪がずいぶんと乱れてきた頃、ヴァルゼライドはついに指摘した。

「その様に自分の髪を切ってまで、俺に告げたいことがあるのならば言葉にして伝えるがいい」

人毛をつめた封筒を寄越されたところで英雄は精神的にダメージを受ける訳では無い。
ならばまずは話し合うことが必要だろうと当たり前の考えで声をかけ、帰ってきた言葉に絶句したのだ。

「ヴァルゼライド大佐、あなたを愛しています」

想定を大幅に下回る答えに英雄は一瞬言葉を失い、目の前のドリスを見つめた。
その目は瞳孔が開き気味なことを除けば、正気であることには間違いなく、錬金術師のような諦観もなく、絶望も、狂気の色さえ無かった。
ならばこそ、英雄は目の前の小娘を激しく嫌悪した。

「何を言っているのだお前は。愛している?だとすれば、自分の毛髪を送り付けるのが愛情表現だと言うのか」
「はい。愛しているあなたに向けるものが愛以外であるはずがないでしょう?」

寧ろ、さも当たり前のことを指摘されたというようにドリスは笑って見せた。

- 3 -

*前次#


ページ:



ALICE+